2006年春のジュネーブオートサロンでデビューしたポルシェ911GT3 が、2007年春になってようやく日本に上陸した。そしてさっそくその国内試乗会が行われたが、会場となった富士スピードウェイはあいにくの雨。そんな中でポルシェ911GT3 はどんな走りを見せたのか、その模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年9月号より)

挙動がダイレクトなのでコントローラブル

最新型のポルシェ911GT3を、富士スピードウェイで存分に試すことができるという願ってもない機会だというのに、天気は朝から雨、そして真っ白な霧。実際、午後枠の順番が回ってくるまで、911カレラやカレラS、そして911ターボにカイエンターボといったモデルで贅沢な足慣らしをしている間には「PSM(ポルシェ・スタビリティ・マネジメントシステム)があって本当に良かった」と思わされるほどだった。

午後には雨は上がり、霧は残るも路面はハーフウエットまで持ち直してきたが、試乗するのはGT3。新たにカレラGT譲りのトラクションコントロールは搭載されたものの、さっきまであれほど頼りにしたPSMはない。コースに出るまでの緊張感は、レース本番ですら味わったことのないものだった。

標準装備のカットスリックのようなミシュラン・パイロットスポーツ・カップではなく、通常のパイロットスポーツを履き、恐る恐るコースに出た997型GT3。すぐに伝わってきたのはボディの驚異的なまでの剛性感の高さだ。ステアリングからサスペンションから、すべての動きはきわめてダイレクト感に満ち、それでいてギャップで跳ねようが無粋にボディを震わすようなことはない。

そんな印象には手の触れる操作系の剛性感の高さも効いているに違いない。特にストロークがカレラ比33%も詰められた6速MTのソリッドな感触などは、まさに恍惚モノだ。ちなみにこれはカレラ系のアイシン精機製ではなくゲトラグ製。レースで実績があり、いざとなればギア比の変更も容易なことなどが採用の理由だろうが、それだけでなく、中途半端な操作ではきれいにエンゲージできず、しかしうまくキマレば何の抵抗感もなくスーッと吸い込まれるようにシフトできるという具合に、操り手にきちんとした操作を要求してくる辺りも嬉しくさせる。

もはや8400rpmまで回り、最高出力も415psに達した水平対向3.6Lユニットは、低速域での力感も以前より格段に高まっているが、2速トップエンドで130km/hほどという低いギア比もあって、回した時の凄まじいキレ味も依然として健在。このエンジンを目一杯に唄わせ、巧みなシフトアップでパワーバンドを外すことなく途切れのない加速を貪る。この一連の流れがキマッた時に覚える快感は、他に例えようがないほどである。

というよりも、GT3は全身あらゆる部分がそういうクルマだと言った方がいいかもしれない。中途半端に濡れた路面にPSMなし。最初は相当身構えたが、実際にはウエット路面でもGT3はとてもコントローラブルだった。いや、操るのが簡単という意味では断じてない。しかしGT3は挙動のすべてをダイレクトに伝え、操作のすべてがダイレクトに伝わるため、クルマときわめて密に対話をしながら、クルマを御していくことができるのだ。

画像: 997型ポルシェ911GT3 の国内試乗会は雨の富士スピードウェイで行われた。操作のすべてがダイレクトに伝わり、挙動のすべてをダイレクトに伝えられるので、クルマとの対話はきわめて密。それゆえ、クルマを御することができる。

997型ポルシェ911GT3 の国内試乗会は雨の富士スピードウェイで行われた。操作のすべてがダイレクトに伝わり、挙動のすべてをダイレクトに伝えられるので、クルマとの対話はきわめて密。それゆえ、クルマを御することができる。

911の遺伝子がまるで純粋培養されたかのよう

実は以前、別の機会にドライで走らせた時には、ちょっとレーシングカーに寄り過ぎというか、真剣に攻め込まないと面白みが出てこないクルマだという思いも抱いた。しかし、本当の限界では、やはりそういうクルマこそが速く、そして愉しめるというのも事実だろう。そうなると、公道での低い速度では挙動変化を気軽には楽しめないかもしれないが、徹底して正確かつダイレクトな走りは、それとは別の、しかし同じくらい濃厚な歓びに繋がるに違いないと今は確信している。

そんなGT3の本当の姿を知るにはセンターコンソールの「スポーツ」スイッチをオンにする。こうすると標準装備の、しかしカレラより俄然ハードな設定のPASMはさらにダンピングが強められ、またエンジンも最高出力こそ変わらないものの3000〜4200rpmの領域で13ps、20〜25Nmの出力の上乗せが行なわれる。要するに、ノーマルモードは燃費や騒音の規制値をクリアするための設定で、GT3本来の姿はこちらなのだ。

走りだけでなく快適性にも磨きをかけている最近のポルシェだが、しかしそういう衣服を脱ぎ捨てていくと、果たしてその芯にはまったく変わることのない911というクルマのカリスマ性に満ちた走りの遺伝子が純粋培養されて宿っていた。ポルシェの、特に911の走りに魅了されている人なら誰だって、この走りっぷりには心がグラグラと揺れてしまうに違いない。

しかし、凄まじい人気のGT3だけに、今頼んでも納車がいつになるかは予想できない。また、運良く手に入れられたとしても、その上にさらにGT3 RSという存在が控えていることを僕らは知ってしまっている。まったくもってポルシェは、もったいつけ、じらすのが上手いメーカーである。けれども、それが理性ではわかっていても、こうしてステアリングを握ったが最後、昂る気持ちを抑えられなくなってしまうくらい1台1台が完成された、刺激的な世界を築いているのも、またポルシェの上手さなのだ。要するに996型GT3に乗る僕自身、コイツに惚れてしまったという話である。(文:島下泰久/Motor Magazine 2007年9月号より)

画像: 様々な空力パーツが与えられ、独自の外観を構築する997型ポルシェ911GT3。

様々な空力パーツが与えられ、独自の外観を構築する997型ポルシェ911GT3。

ヒットの法則

ポルシェ911GT3 主要諸元

●全長×全幅×全高:4445×1810×1280mm
●ホイールベース:2355mm
●車両重量:1420kg
●エンジン:水平対向6DOHC
●排気量:3600cc
●最高出力:415ps/7600rpm
●最大トルク:405Nm/5500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:RR
●最高速:310km/h
●0→100km/h加速:4.3秒
●車両価格:1575万円(2007年)

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.