ダートトラック競技で用いられるハンドルバーは、絞りと引きが強めで幅広めという特徴的なシルエット。市販の品としては古来より、少なくとも34-1/2インチ = 87.6cm以上の幅が要求されますが、当然のことながらライダーたちの背丈や体格は人それぞれ。ライダーの上半身とマシンとの唯一の接点で文字通りコントロールの要となるハンドルバー、どのように身体に合わせているのでしょうか。

オーダーメイドのレース用マシンに、ツルシのハンドルバーは似合わない?

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。ヤラセ演出全開で?ハンドルバー端部を金ノコギリで切り落とす素振りを見せているのは、身長165cm・体重73kgの全米プロダートトラックチャンピオン経験者ジャレッド・ミース。蛍光イエローの樹脂カバーが目を惹くこのN社のハンドルバー、実は意外にも?フランス製の一品。抜け目なく立ち回るジャレッドらしく、アメリカでは知名度まだあんまりのMXハンドルバー・ブランドへ製品化を打診し、2年ほど前から市販の始まった、自身の名を冠したシグネチャーモデルです。

日本人並みに小柄なジャレッドは、全幅920mmのこちらの市販モデルをバッサリとカット。そもそもがライダーの腕の長さや様々なライディングスタイルに対応させるべく、思い切り長めの設定で出荷されるこのハンドルバー、平均的には左右それぞれ20ミリとかカットして使うことになります。

実はジャレッド・ミース、レースのパドックでもチームのワークショップでも、神経質なほど頻繁に自身のマシンのハンドルバーを測る仕草を見せることで非常に有名です。車両やトラックサイズ、あるいはライバルたちとの攻防の状況によって同じ形状のハンドルバーで幅違いを何本も使い分けるという、豪快そうな見かけによらず?むしろ繊細な "セッティング重視派" なのです。

画像: 10年ほど前にチームのワークショップで撮られた一葉。この頃はV社のハンドルバーを愛用。撮影: 中尾省吾

10年ほど前にチームのワークショップで撮られた一葉。この頃はV社のハンドルバーを愛用。撮影: 中尾省吾

またジャレッドの最大の好敵手にして幼いころからの親友でもあるブライアン・スミスなどは、公称だとさらに1インチ背が低い5フィート4インチなんですが、長年タッグを組むリック・ハワートンと共に仕立て上げるマシンには、自身の体格とライディングスタイルに完全にマッチする、オーダーメイドで誂えた彼専用シェイプの特別なハンドルバーが取り付けられています。

画像: オーダーメイドのレース用マシンに、ツルシのハンドルバーは似合わない?

走るステージが200m級ショートトラック主体となる我が国のダートトラックレースシーンでも、細やかなセットアップを好むライダーはいて、ハンドル幅にも拘りを見せます。筆者が知る中では、常に左端を右より20mm短くカットして、同じ450ccマシンでも、専用シャシーの "フレーマー" とMXマシンがベースの "DTX" とどちらにも同じシェイプのハンドルバーを選び、全幅カットで異なる長さ数種類を準備して各地のトラックで活躍した、故・山下勝敏選手がその筆頭でした。

画像: 撮影: 斎藤淳一

撮影: 斎藤淳一

軽量級だってバタバタ転べば、世界の一級品MXバーも徐々にグニャリ。

フルバンク近く、前後輪が滑走状態から転倒することの際立って多いダートトラック競技では、落下系とか衝突系 (そんな言い方ないかもしれませんけど) とは異なる外力が、徐々にハンドルバーへとダメージを与えます。下の写真のハンドルバーは、MXを中心に世界的に圧倒的シェアを誇る英国製R社のATV・RACEモデル (筆者の知る限り国内未導入) 。ホンダCRF100F/XR100Rを使用することで有名な本場米国のダートトラックスクールでは、このモデルの左右1インチカット品が定番です。

画像: 軽量級だってバタバタ転べば、世界の一級品MXバーも徐々にグニャリ。

3年ほど前に筆者所有のCRF125Fのためにと新品を輸入して、ビギナー様たちへのスクーリングとかレンタル車として優に数百回、左側ばっかりに転がしてきたこのハンドルバー、乗っていて気になるほどではありませんでしたが、外して碁盤目の床に置いてみるとやっぱり多少は左端が上に曲がっています。肉厚6mm・硬質アルミ材のMXバーでこの使用年月 x 転倒回数なら全く文句なしですけど。

ライザー仕様の取り付け位置ってどんなハンドリングフィールなんでしょ?

冒頭からご紹介したN社のハンドルバーを筆頭に、MXバーのようなテーパーバー (取り付け部が太く手元は従来の細さの高剛性アルミハンドルバー) が目につくようになり、また手元への絞りは少なめでやや直線的なシェイプのハンドルバーが、近年レースシーンに増えているのも理由があります。

画像: ライザー仕様の取り付け位置ってどんなハンドリングフィールなんでしょ?

フューエルタンク・エンジン前後長の長い2気筒マシンの機動性を大きく向上させ、操りやすく車体をよりコンパクトにまとめるため、最近の本場のレース車両では上の写真のように、ハンドルバーを大きく後方へと移設する "バック・ライザー" が採用されることが増えてきました。よくよく見ればハンドルバーそのものの取り付け位置は、ステムシャフトよりさらに後ろです。つまりその分だけハンドルバーの絞りは減少させたい傾向、ということになりますね。

画像: 23ジェフリー・カーヴァーはP社のハンドルバーを使用。実はP社もV社もN社もほとんど同じシェイプです。

23ジェフリー・カーヴァーはP社のハンドルバーを使用。実はP社もV社もN社もほとんど同じシェイプです。

昨日の自分より速くありたいのであれば、マシンも昨日のままで良いはずはきっとありません。一見シンプルでオールドスクール = 普遍的な雰囲気ながら、進化と深化を止めない本場アメリカンレースシーンの技術的な側面も、冷静に見つめ続けていきたいものですね。

ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

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