フォルクスワーゲンとポルシェが共同開発を進めていたSUVモデル、トゥアレグとカイエンがデビューを飾ったのは2002年パリサロンでのこと。そして2006年にアウディQ7が3列7シートを設定する独自のコンセプトで登場してその状況に変化が訪れた。そして2007年、トゥアレグとカイエンはフェイスリフトされ、Q7はV6エンジン搭載モデルを投入、Motor Magazine誌ではこの3つのブランドの最新モデルの試乗を行った。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年7月号より)

フェイスリフトで確実に力強さを増したトゥアレグ

2002年のパリサロン。その舞台をアンベールの場に選んだポルシェカイエンとフォルクスワーゲン・トゥアレグ。しかし厳密に言えば、わずか1日ながらもその姿を世に早く現したのは実はカイエンであった。

プレスデイ初日を翌日に控えた2002年9月25日の夜、ポルシェはパリ市内のホテルでプレスカンファレンスを開催した。「ポルシェ史上初のSUV」であるカイエンは、ここでトゥアレグに先駆けて公開されたのだ。

そうしたスケジュールが果たしてフォルクスワーゲンとの合意の下に決定されたものか否かは知る由もない。が、世間に与えるインパクトを考えればやはり先駆けての発表をしたかったというのは事実だろう。そんな前夜祭の場でヴィーデキング社長は力強くアピールをした。「このクルマは、ファーストカーとして使える初めてのポルシェである」と。

一方、翌日のショー会場でのカンファレンスという正攻法によって発表されたフォルクスワーゲン トゥアレグは、将来的には追加バリエーションも存在することを明らかにした上で、しかし実際に展示されたのは6気筒のガソリンモデルと10筒ターボのディーゼルモデルにとどめられた。こちらもまた、どのような話し合いが持たれたのか、あるいはそのようなものは存在しなかったのかは明らかでないが、カイエンとバッティングする8気筒のガソリンモデルは姿を見せず、「我々のトップモデルは最大トルクが700Nmを遥かに超え、最高速も225km/hに達するディーゼルモデルである」と、暗にそのようなメッセージの込められたディスプレイが行われた。

そんなポルシェへの遠慮の姿勢を見せながらのデビューとなったトゥアレグも、今ではグンとパワーアップ。それでも、スペック上では常にわずかながらもカイエンに対する後塵を拝するという微妙な設定が続いている背景には、今でも両者に何らかの話し合いが持たれ続けていると考えるべきなのであろうか。

今回テストドライブを行ったトゥアレグは、V6およびV8エンジン搭載モデル。そして、そのいずれもが走り出した瞬間に従来型以上の力強さを味わわせてくれたのは、もちろん気のせいなどではない。V6モデルで39ps/50Nm、V8モデルでも39ps/30Nmという出力向上を実現させたのだから、それも当然。実際、V8モデルの0→100km/h加速タイムは7.5秒、V6モデルでも8.6秒をマークするというから、もはや現実に「なかなかの俊足」と言うに値する速さの持ち主だ。

テスト車はV6モデルがコンベンショナルなサスペンションに18インチのタイヤ。V8モデルがエアサスペンションに19インチタイヤという、ともに標準仕様の組み合わせだったが、個人的には、よりドライなフットワークを味わわせてくれるV6モデルに好感が持てた。パドル操作に素早い反応を示し、DレンジでもMT風にメリハリの効いた変速を行う6速ATとパワーがグンと増したV6エンジンの組み合わせは、押し出し感の強いルックスに相応しい力強い走りを提供してくれる。

もちろん、V8モデルのようなパワーの緻密感は望めないし、路面への当たりのソフトさという点ではエアサス装備のV8モデルには負けるが、むしろ「フォルクスワーゲンのSUV」らしい走りの感覚を演じるという観点からは、より高い得点を与えたくなるのがV6エンジン搭載のトゥアレグだった。

画像: 2007年5月にフェイスリフトされたフォルクスワーゲン トゥアレグ。もっとも大きな変更点はエンジンのアップグレード。V6エンジンは3.6LとなりFSI化、V8は排気量こそ変わらないがこれもFSI化されている。

2007年5月にフェイスリフトされたフォルクスワーゲン トゥアレグ。もっとも大きな変更点はエンジンのアップグレード。V6エンジンは3.6LとなりFSI化、V8は排気量こそ変わらないがこれもFSI化されている。

およそSUVとは思えぬカイエンのパワフルさとシャープさ

カイエンはトゥアレグとは逆にまずは8気筒シリーズのみをデビュー時のラインアップとし、いかにもポルシェ車らしいパワーエリートぶりを前面に打ち出した点が興味をそそる。当初発表された4.5Lエンジン搭載の『カイエンS』と、そのユニットをベースにツインターボ化を図った心臓を積む『カイエン・ターボ』の最高出力は340psと450ps。この時のトゥアレグV6ガソリンとディーゼルモデルの最高出力がともに220psだったから、ボディ骨格などに強い血縁関係を持つ両者でありながら、そこで必要以上の競合イメージが生まれてしまうことは、こうした巧みな戦略によって回避されたのだ。

ポルシェが6気筒モデルの発表を遅らせるもうひとつ大きな理由になったのは、そんなV6ユニットの生い立ちにも関係しているのだろう。よく知られているように、ポルシェが「他のサプライヤーから供給を受ける」と称するこのエンジン本体は、かのフォルクスワーゲンの手によるもの。もちろん、その搭載にあたってはシリンダーヘッドまわりを中心に「ポルシェ・チューン」が施され、実際にその出力はトゥアレグ用よりも1割以上のアップしているが、その昔に「フォルクスワーゲンのエンジンを積んだポルシェは本物のポルシェではない」などとも揶揄された記憶を持つポルシェとしては、カイエンに「100%ピュアなポルシェ」というタイトルを与えるため、意図的にこのV6モデルの投入を遅らせたと考えるのが自然な見方だろう。

今回試乗を行った最新のカイエンは、そんな曰わくありげな6気筒モデルと、ついに500psの大台を表示するに至ったターボ付きの8気筒モデルの2台。いずれも、走り出した瞬間に感じる大幅なパワーアップは、直噴化と排気量アップという2つの手段を同時に採った効果そのものだろう。

中でも、期待以上に逞しい走りを披露してくれたのが、290psをマークする3.6LのV6エンジンを搭載した「素のカイエン」だ。実際の動力性能が従来型比で格段にアップをしただけでなく、それが発するサウンドもなかなか迫力ある、いかにもポルシェに相応しいもの。パフォーマンスをアップさせたV6エンジン搭載のトゥアレグに比べても、さらに明確に迫力を増した走り味を実現させた点に、ポルシェの意地が見え隠れする。

一方の『ターボ』は、フルブースト状態に達すると「もはや手をつけられない速さ」と表現するしかない圧倒的加速力を発揮する。もっとも、その頃には車速もそれなりのハイレベルとなるから、日本ではちょっと手に余るスピード性能の持ち主と言わなければならないかも知れない。それゆえ、ピークパワーは抑えられる代わりに低回転域ではよりトルクフルで逞しく、アクセルレスポンスもさらにシャープに感じられる自然吸気の8気筒エンジンを積む『S』グレードの方が、日本には、よりお似合いという印象も強い。今回はテスト車の手配が間に合わなかったが、国際試乗会での印象を思い返せば「サウンド面も含め、事実上最もスポーティな動力性能が色濃く味わえるカイエン」は、この『S』グレードであると報告したい。ちなみに、試乗したカイエン・ターボには、新たにオプション設定されたPDCCや標準サイズに対し2インチアップの、20インチのタイヤが装着されていた。

「0.6Gの横力まではゼロ・ロールを目標とする」というチューニングが施されPDCCを装備したそんなテスト車の走りは、275/40の20インチというファットで巨大なタイヤを履くこともあり、コーナリング時のリアの追従性がおよそSUVとは思えないほどにシャープで、スポーティなテイストが満点。従来型で見られたタイヤのグリップ力頼りで曲がっていくような印象はグンと薄れた。57万円という恐ろしく高価(!)なアイテムではあるが、それだけの絶大なる効果を実感させる、ポルシェならではの秘密器でもあったのだ。

一方、コンベンショナルなサスに17インチのタイヤを組み合わせたV6モデルも、やはりSUVとしては異例なほどにダイレクトなハンドリング感覚が一杯。路面の凹凸に対する当たり感にはメカサスならではの硬質感もあるが、それでもやや硬めながらダンピングの効いたドライなフットワークのテイストは、これはこれで「やはりポルシェらしい走り」という雰囲気をタップリ演じてくれるものでもある。

画像: カイエン・ターボ。昨年2006年12月にマイナーチェンジが発表され受注が開始されていた新型カイエンがいよいよ日本にやってきた。フロントランプの薄型化により眼光が鋭くなった。

カイエン・ターボ。昨年2006年12月にマイナーチェンジが発表され受注が開始されていた新型カイエンがいよいよ日本にやってきた。フロントランプの薄型化により眼光が鋭くなった。

明確に姿カタチ、そしてコンセプトまで変えたアウディQ7

そんなトゥアレグやカイエンよりも明確にひと回り大きなボディを携え、いかにも「棲む世界が違う」という雰囲気をアピールするかのようなルックスの持ち主がアウディQ7。しかし、それこそが、Q7が世に生まれることを許された重要なポイントと見ることもできる。すなわち、もしもQ7がトゥアレグ/カイエンと同様のボディサイズを持つSUVとして企画をされていたら、果たしてフォルクスワーゲングループはこのモデルを発売することを決断したか、という問題だ。

確かに、SUVは特にこのところのアメリカ市場での人気を考えた時、どうしてもなくてはならない存在と考えられる。例えば、ポルシェがカイエンで大きな成功を収めたのは、「911やボクスターに乗るアメリカのオーナーの多くはファーストカーとしてSUVを所有する」という綿密なマーケティングに基づいたクルマづくりを行った結果によるもの。いわゆるプレミアムSUVとなれば車両価格もそれなりに高く、すなわち高収益を上げるためには何としてもラインアップに加えたい存在と映るはずだ。

しかし、アウディが単純にこのクラスへの参入を果たしたとしたら、それは取りも直さず、すでにそうしたカテゴリーで戦うモデルのシェアを脅かす結果になってしまう。乗用車ラインナップの場合と同様、フォルクスワーゲンとの棲み分けはその質感や価格面でコントロールできたとしても、そこでポルシェとエールを分かち合うのが至難の業であることは明らかだ。

というわけで、アウディはさらに大きなボディの3列シート付きというパッケージングで、見た目上でも既存のSUVとは明確に異質な衣装を身にまとってのリリースとなった。さらに、「ポルシェの一員」というブランドイメージがようやく確立され、セールスも好調が伝えられる6気筒カイエンに対する無用な刺激を避けるべく、まずは8気筒モデルのセールスを行ってから、後に6気筒モデルを時間差を設けて訴求したのではなかろうか。

生産過程において、各モデルが顔を揃える工程が存在するにもかかわらず、いずれのブランドも「自社モデルは固有の開発」を主張するのがまた興味深い。強い血縁関係は持ちつつも決して「兄弟車」とは認識して欲しくないというのが、この3車に一致する考え方でもあるのだ。

ところで、新着なった6気筒エンジン搭載のQ7で走り出してみると、これまでの8気筒モデルよりも最高出力が70psものマイナスとなるにもかかわらず、その動きに不自然な重々しさなど感じない。2.3トンに迫ろうという車両重量は見た目通りの重量級だが、にもかかわらず走り出しの瞬間に力不足を感じることもない。新エンジンが低回転から太いトルクを発してくれる有り難さを実感できる瞬間だ。

カイエン・ターボのテスト車が装着の275/40というサイズに比べれば多少はエアボリュームが大きい計算にはなるものの、やはりオプションとして履いていた275/45サイズの20インチタイヤは、残念ながら走り味という点では良い影響は及ぼしていなかった。エアサスペンションを装着していたものの、それでも路面凹凸を拾ってのドタバタ感が予想外に強く、本来の質感の高いテイストには届いていないように感じられた。カイエン・ターボよりもそんな印象が強かったのは、ボディが大きく、ホイールベースが長いことが影響したのかも知れない。ルックス上では確かになかなか魅力的な大径ホイールではあるが、走りの質感という点では標準装備の18インチタイヤを履くモデルに軍配が上がりそうだ。

フォルクスワーゲンとポルシェとアウディという、それぞれが遠からぬ親戚関係を持つ3者の関係——そんなお互いの微妙な立ち位置は、トゥアレグ、カイエン、そしてQ7というまさに今回紹介のモデルたちが見事に代弁をしているようにも思える。お互いに不可侵の関係をキープしながらも、それぞれが発展を遂げて行かなければならない。そんな難しさと矛盾が、この3つのプロダクツの仕上がりに図らずも反映されているようにも感じられる。

画像: 2006年にV8エンジンを搭載して登場したアウディQ7に、2007年4月、3.6FSIクワトロが追加設定された。

2006年にV8エンジンを搭載して登場したアウディQ7に、2007年4月、3.6FSIクワトロが追加設定された。

互いの領域を侵すことなく、互いに支え合う綿密な関係

3者の中にあって、フォルクスワーゲンはやはり「庶民的」な雰囲気の持ち主と言えるし、これからもそうあるべきなのだろう。規模の拡大を目指してそのための突破口を余りに性急に探し出そうとすると、例えばエクスクルーシブなフラッグシップモデルを狙って開発されたフェートンのように、多くのユーザーの戸惑いを招く結果となる可能性も依然大きそうだ。過去に「フォルクスワーゲン初のピュアスポーツモデル」という掛け声とともにリリースされたコラードが、やはり結局は認知をされることなく終わってしまったように、フォルクスワーゲンのブランドを使いながらイメージ重視型の高級車やスポーツカーを生み出そうとす際のハードルは、自身が考える以上に高そうでもある。

かたやポルシェはといえば、こちらはこの先も「常にクラストップの性能の持ち主」という決まり事から抜け出すのは不可能だろう。トップの座を今後も守りきるためには、グループ企業の行動をある意味「制圧」する政治力も必要となって行くに違いない。フォルクスワーゲンを子会社化しようという動きには、そんな意味合いも含まれているようにも思える。今のポルシェ社の繁栄が、実は綿密なマーケティング力によってこそ生まれたことを忘れるわけには行かないのだ。

そんなフォルクスワーゲンとポルシェを脇に置きながら、アウディは決して大きいとは言えない自由度の中で、引き続き難しい会社のハンドリングを要求されることになる。そしてそんなこのメーカーの辛い部分は、常にメルセデスとBMWというライバルの動きに翻弄されざるを得ないところにある。まるでFR車作りへの未練を残すかのように前輪位置を大幅前進させたA5のパワートレーンのレイアウトを目にしたりすると、思わずそうしたことを考えさせられてしまうものだ。

ポルシェを脅かす存在になることは許されず、かと言って常にメルセデスやBMWに負けないプレミアム性と話題性に富んだクルマは継続的に送り出さなければならない——それが、このメーカーのクルマづくりの難しさだ。(文:河村康彦/Motor Magazine 2007年7月号より)

ヒットの法則

フォルクスワーゲン トゥアレグV6 FSI 主要諸元

●全長×全幅×全高:4755×1930×1730mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2260kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3594cc
●最高出力:280ps/6200rpm
●最大トルク:360Nm/2500-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●0→100km/h加速:8.6秒
●最高速:227km/h
●車両価格:549万円(2007年)

フォルクスワーゲン トゥアレグV8 FSI 主要諸元

●全長×全幅×全高:4755×1930×1710mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2330kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4163cc
●最高出力:349ps/6800rpm
●最大トルク:440Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●0→100km/h加速:7.5秒
●最高速:244km/h
●車両価格:735万円(2007年)

ポルシェ カイエン 主要諸元

●全長×全幅×全高:4810×1930×1700mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2250kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3598cc
●最高出力:290ps/6200rpm
●最大トルク:385Nm/3000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●0→100km/h加速:8.5秒
●最高速:227km/h
●車両価格:692万円(2007年)

ポルシェ カイエン ターボ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4810×1930×1695mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2460kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●排気量:4806cc
●最高出力:500ps/6000rpm
●最大トルク:700Nm/2250-4500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●0→100km/h加速:5.1秒
●最高速:275km/h
●車両価格:1398万円(2007年)

アウディQ7 3.6FSI クワトロ 主要諸元

●全長×全幅×全高:5085×1985×1740mm
●ホイールベース:3000mm
●車両重量:2270kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3594cc
●最高出力:280ps/6200rpm
●最大トルク:360Nm/2500-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●0→100km/h加速:8.5秒
●最高速:225km/h
●車両価格:698万円(2007年)

アウディQ7 4.2FSI クワトロ 主要諸元

●全長×全幅×全高:5085×1985×1740mm
●ホイールベース:3000mm
●車両重量:2350kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4163cc
●最高出力:350ps/6800rpm
●最大トルク:440Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●0→100km/h加速:7.4秒
●最高速:240km/h
●車両価格:945万円(2007年)

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.