2007年3月、ジュネーブオートサロンで公開されたW204型メルセデス・ベンツ Cクラスは日本でも大きな話題となっていた。新型Cクラスはどんなクルマなのか、新型Cクラスの登場でDセグメントはどう動くのか。新型Cクラスの国際試乗会に参加したMotor Magazine誌は、帰国後さっそく、日本市場でCクラスのライバルとなるであろうBMW3シリーズ、アウディA4、アルファ159をテストしている。ここでは新型Cクラスとの違いを想定したテストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年5月号より)

Dセグメントの全幅拡大に歯止めをかけたCクラス

いわゆる欧州Dセグメント(パサートやスカイラインといったD+も含めて)は、日本のサルーンマーケットで唯一、コンペティティブな市場を形成している。

その上(Eセグメント)とさらに上にも競争があるにはあるが、特定ブランドの強さや販売台数を考えれば、熾烈な争いが展開されているとはいえまい。日本市場にとって、今や貴重な競争(がまだ)あるサルーンマーケットが欧州Dセグメント相当クラスといえよう。

ここ最近の状況で言えば、輸入ブランドが堅実に売れた一方で、国産ではマークXの孤軍奮闘が目立つぐらいであったが、昨年秋にフルモデルチェンジしたスカイラインが少なからず人気を集めて、久しぶりに盛り上がってきた。ポストミニバンユーザーや団塊世代には確実なマーケットがあり、今後再び盛り上がる可能性を秘めている。今もう一度、力を入れるべきセグメントであると言っていい。

そんな日本のマーケットにおいて、W204新型メルセデス・ベンツCクラスは、はたしてどのように受け入れられるのだろうか。ライバルと目される各モデルとの比較を通じて、浮き彫りにしていきたい。

日本のマーケットにおいては、まずそのサイズが重要になってくる。単なる数字が一人歩きするのは勘違いの元だし、実際には例えば幅1800mmを超えたとしても動的な使い勝手にほとんど支障がないのも承知しながら、車検証上の数字が駐車場の契約ではモノを言うという現実にも理解が必要である。デビュー時にいろいろと物議を醸し出した現行型3シリーズも、全幅1.8m超というスペックなどほとんど気にせず乗られているように見える一方で、やはり数値オーバーがもとで購入を諦めた人もいるに違いない。

旧型Cクラスは、今や、Dセグメントの中でも最もコンパクト(=最も古い)な部類になってしまった。サイズ感でいうと、ちょっと短いレガシィB4のようなもので、それゆえ日本の込み入った道路事情にはよく馴染む大きさであったといえる。

新型はどうか。長さと幅はFFのA4と同じ。ホイールベースはFRの3シリーズと同じで、全高が両車よりわずかに高い。狙いすました大きさと言っていいだろう。

特に全幅1770mmには強い意志を感じるし、日本市場における精神的かつ実質的なメリットは非常に大である。この数字、スカイラインと同じであり、マークXよりも小さい。

結局のところ、Dセグメントの大きさは「この程度に収めるべし」というのが、メルセデスの考え方なのだろう。実際、スペインの試乗会で私の隣に座ったデザイナー氏も、また実験関係のエンジニアも、モノには限度があるという言い方で、サイズに関する一定の歯止めを示唆してみせた。それは、実際に乗ってみれば数字ほどの大きさなど感じないから大丈夫、といった安易な口上では済まされないという意思の表れであるのかも知れない。

ボディサイズで判断すると、だから今度のCクラスは、日本市場にもばっちり馴染むと言うべきだ。現行A4とほぼ同じ車両感覚で乗れ、そのうえホイールベースが長い。後から詳しく述べるが、後席の居住性に関しては元来FR車の方が上だったから、新型ではさらに良好になった。マークXの販売台数(と現時点でのマーケット規模)を知れば、ダイムラー・クライスラーとしては、ほくそ笑むしかないだろう。ことボディサイズに関して、ネガティブな要素は見つからないことを、マークXの人気が証明しているからだ。

画像: Dセグメントの世界基準となってきたBMW 3シリーズ。写真はBMW325i Mスポーツ。

Dセグメントの世界基準となってきたBMW 3シリーズ。写真はBMW325i Mスポーツ。

3シリーズの美点を研究し尽くした新型Cクラス

かくのごとく、絶妙なボディサイズで登場した新型Cクラスだが、大きさ的(&スペック的には)には最初から受け入れられる土壌が存分にあるとして、肝心の乗り味はどうだろうか。ここからは個別に比較していくとする。

まずは、同じFRの3シリーズと、である。もともと、このクラスを主戦場としていたのは3シリーズであり、その性格はといえば、自動車として実に古典的・根源的なものと言えよう。つまり、操る楽しさ、駆けぬける歓びの重視、というやつである。BMWのベーシックなラインアップとして、これを前面に打ち出すことに成功したのは、先々代のE36型だったように思う。ロングノーズに短いフロントオーバーハング、コンパクトなキャビンと流れるようなルーフラインにヒップアップなリアセクションと、新しいカタチをこのクラスのFRサルーンにもたらし、あまつさえ、等身大に運転を楽しめる性能を与えてみせたのだった。

そのコンセプトは、相当な衝撃を伴って、マーケット内外に受け入れられた。このあとに登場する190改めCクラスには、その影響がまずサイドシルエットに俄に現れ、先代W203ではカタチのみならず走りにもその兆候がすでに現れはじめていた。

それでも、ブランドが誇るアイデンティティとして「それ一本」で突き進んできた3シリーズには、少なくとも独自のファン・トゥ・ドライブ観に一日の長があったと言わざるを得ない。少なくとも、対旧型Cクラスでは・・・。

現行3シリーズが、ドライバビリティ以外の点で勝っていたのは、居住性であった。この点に関していえば、新しいCクラスもセグメント内評価としては完全に克服できており、3シリーズのアドバンテージはなくなったと言っていい。これ以上に、広くて快適な後席を望むなら、D+セグメント、すなわちパサートや日産スカイラインを望んだ方がいいだろう。

残るは、いわゆるドライビングプレジャーである。改めて3シリーズに試乗すると、ドアを開けたときにズンと沸き起こる気分の昂揚にはじまり、片手運転を許さないエクササイズ感覚や、ごつごつしてはいるがショックの手応えも心地良い乗り心地、機械の精密な動きが手に取るようにわかるエンジンフィール、そして相変わらず素晴らしいコーナリング時の充実感など、クルマを運転するという行為そのものに関する限り、とても時間が濃密に過ぎて行くのがわかる。クルマ運転好きにとっては、この一連の雰囲気がたまらない。BMWの魅力は、これに尽きる。

メルセデス・ベンツも当然そこに注目した。何しろ、日本市場においても、団塊世代が憧れる筆頭のブランドがBMWであり、その理由の程度や経験の差こそあれ、運転する楽しさが挙がっている。保守的なイメージのメルセデス・ベンツよりも、若々しいイメージのBMWに憧れるという構造ができ上がっており、その原因がとりもなおさず、3シリーズを筆頭にBMWサルーン系のスポーティな乗り味にあったのだ。

新型Cクラスでは、それをアジリティと広く宣伝することになっている。標準の足まわりがすでにアジリティパッケージであり、望めばアドバンスド・アジリティパッケージも選べる。やや乱暴だがひと言で言い表すならば、俊敏な意のまま感覚となろうか。確かに、旧型Cクラスなどと比べれば、ノーマル仕様でもまるで異なるステアリングフィールである。切り始めからのノーズの動きに「ため」はほとんどなく、意識にずれなくキュッキュッと前輪が動き、ちゃんと車体が付いていくのだ。お見事!

ただし、3シリーズほど乗り手のステアリングワークに過敏かというと、そうでもない。動きは早いが、それなりにロールもあって、コントロールする余裕が残されている。それが、アマドライバーには心地良かったりする。3シリーズほどには、ステアリングホイールを握る手に汗がにじむことはない。スポーツ用品に例えるならば、3シリーズはその気と腕があればプロユースにも十分耐えうる道具であるが、新型Cクラスはといえば、プロ気分を存分に楽しめる、というレベルか。

反面、3シリーズのように、ドライバーにその気がなくともコーナーを心待ちにするかのような挑発的なマナーがなく、片手でのんびり乗れるのもCクラスの特徴だ。要するに、乗り手のやる気次第で、ベンツにもBMW風にもなる。それが、新型Cクラスのいうアジリティのひとつの表現だ。もっともアドバンスド・アジリティパッケージなら、動き出した瞬間に脇が絞まり、自然とシートを少し前に寄せたくなるが……。ちなみに、乗り心地のみで言うと、新型Cクラスの圧勝である。

画像: アウディA4。3シリーズと190が鎬を削っていたプレミアムDセグメントに遅れて参入したのがA4だった。写真はアウディ A4 3.2クワトロ。

アウディA4。3シリーズと190が鎬を削っていたプレミアムDセグメントに遅れて参入したのがA4だった。写真はアウディ A4 3.2クワトロ。

高速域では新型CクラスとA4との違いが顕著になる

ほぼ同じ大きさとなったアウディA4と比べるとどうか。実は、新しいCクラスのステアリングホイールを最初に握って、ゆるゆると走り始めた瞬間に思ったのが、ちょっとアウディっぽいモダンさがあるな、だった。

それも、A4は走り始めに節々の硬さを感じステアリングも重めで、タウンスピードに乗ってから初めてマイルドな乗り味になっていくのに対して、新型Cクラスはいきなり軽快で、当たりの柔らかい乗り心地をみせる。ソッコーで、アウディ風のモダンな乗り味を堪能できる点に、まずは驚かされた。ディーラーでのチョイ乗り試乗では、とても有効だろう。またしても、乗り心地では新型Cクラスの勝ち(ただしノーマル仕様で)だ。

速度を上げてゆくと、両車のキャラクターの違いが明確になる。A4は、乗り手にしっかりと速度感を感じさせつつ、しかもいつでも軽快に動ける準備があることを乗り手に教えつつ、その上で安定感たっぷりに走る。これは、速度を上げていけばいくほど、という類のもので、特にクワトロモデルでは顕著。日本の高速道路では残念ながら宝の持ち腐れだが、アウディの岩のような安定感(それでいて乗り手がどうしようもないような硬さではないのがミソ)を味わうには、アウトバーンのような場所で150km/hを超える必要があるのだ。

対する新型Cクラスは、基本的にこれまで同様、乗り手に気合いがなくともまったり動かすことができ、高速の安定感も上々だ。ただし、速度域ではあくまでも160km/h以内のことであり、それ以上の領域におけるノーマル仕様の動きには、特に高速コーナー中のリアに、若干の不安を感じた。

ここで一旦、ドイツ・プレミアムブランド御三家のDセグメントをまとめておく。新型Cクラスは、街乗りでA4に負けないモダンな乗り心地を見せる一方、ワインディングでその気になればBMW風に走ることもできる。それでいて、まったり乗れば懐の深いメルセデス・ベンツそのもの。BMW 3シリーズとアウディA4に対しては、実にオールマイティなパフォーマンスを見せてくれると言っていい。ただし、それぞれあくまでも風味であり、現BMWオーナーをそう思わせることができるかどうかは、また別問題である。

他のDセグメントモデルとも簡単に比べておこう。「FFのBMW」をひとつの目標においたであろうアルファ159は、結果的にパッケージのよく似たアウディA4と、少なくとも同じベクトル上にある乗り味を見せる。運転している感じや心地良いと思える雰囲気がより強いのが持ち味だ。それでいて、日常性は同レベルにまで仕上がっている。そういう意味では、3シリーズに対する新型Cクラスの関係は、デビューの前後はあるものの、アルファ159に対するアウディA4、と言えるのかも知れない。159の魅力は、3シリーズのように動きたがるものの、その先をラクに楽しめる点にある。

プジョー407との比較も、この延長線上で語るとわかりやすい。要するに、アルファ159からわかりやすい快楽を取り除き、地に足のついた、地味だが滋味溢れる、モダンだが懐の深い、そんな乗り味が407の魅力だ。

アルファ159も、プジョー407も、それぞれにCクラスにはない個性を有しているのは確か。新型Cクラスのスタイルも派手になり、どこか気の抜けない存在になった今、あらためてこの両車を検討するのもオツだろう。ただし、1.8mを「本気」で超える車幅が気にならないなら、ではあるが。

車幅の話でいうと、パサートもDセグメントと言ってしまうには、大きいクルマだ。それゆえ、すべてにわたって余裕があるし、乗っていて大きさをネガティブに感じることもない。どころか、いまどき珍しくしっとりとした乗り味で、新型CクラスやA4をモダンと言うなら、こちらはクラシックと言うべきだろう。すべてを知り尽くしてから乗っても、遅くない。そう見えてしまうクルマでもある。

まだまだ比較できるDセグメントはあるが、紙幅も尽きようとしている。最後に新型Cクラスが、日本のDセグメント市場に与える影響はというと……。「甚大である」というしかない。(文:西川淳/Motor Magazine 2007年5月号より)

画像: アルファ159。159が目指したのは「FFの3シリーズ」だろう。その一方で、同じパッケージングのA4を意識しなかったとも言えない。写真はアルファ 159 2.2JTS ディスティンクティブ。

アルファ159。159が目指したのは「FFの3シリーズ」だろう。その一方で、同じパッケージングのA4を意識しなかったとも言えない。写真はアルファ 159 2.2JTS ディスティンクティブ。

ヒットの法則

BMW325i M-Sport 主要諸元

●全長×全幅×全高:4525×1815×1425mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1510kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2496cc
●最高出力:218ps/6500rpm
●最大トルク:250Nm/2750-4250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:595万円(2007年)

アウディ A4 3.2クワトロ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4585×1770×1430mm
●ホイールベース:2645mm
●車両重量:1660kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3122cc
●最高出力:255ps/6500rpm
●最大トルク:300Nm/3250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:600万円(2007年)

アルファ 159 2.2JTS ディスティンクティブ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4690×1830×1430mm
●ホイールベース:2705mm
●車両重量:1570kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:2198cc
●最高出力:185ps/6500rpm
●最大トルク:230Nm/4500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●車両価格:399万円(2007年)

【参考】新型W204型メルセデス・ベンツ C280 主要諸元

●全長×全幅×全高:4581×1770×1444mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1555kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:231ps/6000rpm
●最大トルク:300Nm/2500-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速:250km/h
●0-100km/h加速:7.3秒
※欧州仕様

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.