BMWの中で1シリーズとはどんな存在なのだろうか。Motor Magazine誌では、2006年秋、116i、118i、120iといった3台の1シリーズ試乗をとおして、その存在意義、BMWの流儀とはなにかに迫っている。そこには現在につながるBMWの姿が見える。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年1月号より)

名称はエントリーに位置することを示すが・・・

現在のBMWラインナップの底辺を受け持つモデル、2004年にリリースされた1シリーズが、そうした位置づけにあることに異論を抱く人はいないだろう。

と同時に、そのネーミングや設定価格から「ボトムエンド」に置かれたモデルというのは明らかでも、それがBMWというブランドの単なるエントリーモデルであったり低価格さを武器にしたクルマでは決してない、といった事柄も、そのパッケージングデザインや周辺各車との価格差のチェックを行ってみればすぐに明確になるはずだ。

確かにそれは、数あるBMWラインナップの最も下に位置づけられたモデル。だが同時に、それはまた3シリーズや5シリーズ、果ては7シリーズを擁する「BMWピラミッド」の最下部に素直に該当するものかどうかというと、むしろそうしたステレオタイプの考え方には似つかわしくないようにも思えるモデルである。

3/5/7シリーズをBMW本来の正統派路線と見るのであれば、1シリーズはそうしたクルマたちの真下ではなく、それらのライン上からは敢えて外れたところに置かれたスペシャルなモデルと僕には受け取れる。だからこそ、各社が放つ同等サイズの数あるモデルの中から特に指名をされて選ばれるのが、このBMW1シリーズというクルマなのではないだろうか。

そう、1シリーズはその名称こそ3/5/7シリーズ同様の奇数表示であるものの、クルマの狙い的にはむしろZ4や6シリーズといった偶数のネーミングを持つ、BMWラインアップ内のスペシャリティカー路線に近いようにすら思える存在なのである。

「BMWが、3シリーズよりもコンパクトで安価なハッチバックタイプのロワーモデルの開発を進めている」と報じられた当初、多くの人はそれがこのメーカーが初めて放つ、フォルクスワーゲン ゴルフに対する直接のコンペティターであると考えたはずだ。確かにそれまでのBMWには、いわゆる「ゴルフクラス」のモデルは存在しないという印象が強かった。

ハッチバックボディの持ち主として3シリーズにtiというモデルがかつて存在はしたが、それはルックス的にも「3シリーズセダンのリアエンドを切り落としたもの」という雰囲気が強く、独立した車種としての存在感には欠けていた。メルセデス・ベンツがAクラスなる革新的なブランニューモデルでゴルフへの宣戦布告を行った当時、下手をすれば「プアマンズ3シリーズセダン」とも揶揄されかねない3シリーズtiでは、いかにもインパクトが弱かったと言わざるを得ない。

そんな何とはなしに不完全燃焼気味な雰囲気が漂うところに、新たなハッチバックモデルが投入されるというニュースが伝われば、それは当然「BMWからもゴルフイーターがついに登場!」と目されても不思議ではないだろう。誰もが「いよいよBMWもゴルフクラスへ参入」と、そう感じることになったのは、だから当然といえば当然の成り行きでもあったわけなのだが。

なるほどカタログ上でチェックをする限り、そんな人々の期待感の中に満を持して登場となった1シリーズのボディは、いかにもゴルフを意識して生み出されたかのように思えるスペックの持ち主。全長は同じ4.2m台だし全幅もわずかに10mm違うのみ。BMWにとってみれば、こうしたサイズのハッチバックモデルに興味ある人に2台のカタログを見比べてもらい、あわよくば「今度はビーエムにしてみるか」というノリで購入してくれるユーザーが現れれば万々歳! と、あるいはそんな意図もあったのかも知れない。

しかし一方で、そんな1シリーズはもしも冷静にゴルフクラスという視点から様々なライバルたちと比較をされた場合、実はおおよそ「勝ち目のない1台」と言えるクルマでもある。特に、室内空間の合理的なデザインという点に照準を合わせてチェックをされると、ゴルフはもちろん、その他全てのFFハッチバック車に対して一瞬にして敗北を喫する。

実際に体感するまでもなく、後席での足元空間は見るからにタイト。大胆にもスペアタイヤ(とその置き場所)を廃したにもかかわらずラゲッジスペースは浅く、そして狭い。すなわち、本来2ボックスカーが競うべきいわゆるユーティリティ性能に関しては、まったく勝ち目のないのがこのモデルのパッケージングだったのだ。

ならばその分、フロント2席では圧倒的に余裕の空間を味わわせてくれるか、といえば、それも残念ながら当たっていない。そもそも、パワーパックをフロントミッドシップ気味にマウントするこのクルマのレイアウトでは、その分トランスミッションの膨らみが前席トーボード部分に侵入。それを回避しつつ必要な足元空間を得るために、前席はホイールベース内で後ろ寄りの配置を余儀なくされ、それに連れて後席とラゲッジルームもタイトになる、というドミノ倒し状態。そんな状況だから、パワーパックを横置きとし、エンジンルーム長を極限まで抑えた各FF車たちに空間的な対抗などできるはずもないのだ。

限られた全長の中で、最大限のキャビンスペースとラゲッジスペースを融通し合おうというのが、そもそもの2ボックスパッケージングの狙いどころ。となれば、この1シリーズのデザインは、そんな本来の2ボックスカーの発想を冒涜すらしていると言ってさえ、過言ではないかも知れない。

そんな中、そうした様々なネガティブ面に免罪符を与えるのは「このクルマがBMWの作品である」というただ一点。何があってもFRレイアウトのシャシに直6気筒エンジンを搭載することを死守し、可能な限り50:50の前後重量配分を追求すると宣言しているのが今のBMW車であり、そしてもちろんそれは、合理的な2ボックスパッケージングの前にも優先されるべき事柄であるからだ。

画像: 116i。ボトムエンドに置かれた1シリーズの中でも最も廉価なモデルとして設定されているが、その価格は300万円近い。エントリーモデルとはいえ、プレミアムな価値を持っている。

116i。ボトムエンドに置かれた1シリーズの中でも最も廉価なモデルとして設定されているが、その価格は300万円近い。エントリーモデルとはいえ、プレミアムな価値を持っている。

どの部分への対価なのか金額だけでは比較できない

もしもこの先、自らの作品に合理的な2ボックスパッケージングを与えたいというのであれば、それは『BMW』ではなく『MINI』のブランドでリリースすることになるだろう。

「もはや『MINI』とは単なる車名ではなく、ブランド全体を示すネーミングである」と、すでにBMWはそう明らかにしている。

BMWのブランドを冠した1シリーズとは、だから決してゴルフのライバルなどであろうはずはないのだ。

2ボックスハッチバックボディの持ち主ながらも合理的パッケージングの追求は諦めるという大胆な禁じ手(?)に挑み、こうしたサイズの持ち主としては他に例のないスペシャルでプレミアムなモデルとして世界のマーケットに挑むBMW1シリーズ。本国ドイツでは2Lのディーゼルエンジン搭載仕様も選択肢に入るものの、日本市場では例によってガソリンエンジンを搭載したAT仕様の中からのチョイスに限られる。

1.6Lで115psのエンジンを搭載する116i、2Lの129psエンジンを積む118i、そして同じく2Lながら150psという最高出力を発するエンジンを搭載する120iという3種類の4気筒モデル。そして唯一、3Lの6気筒エンジンを搭載する最高出力265psの130iという合計4種類が、日本での1シリーズのラインアップのすべてだ。

ちなみに、各種のボディパーツキットやスポーツサスペンション、17インチのシューズなどから成る『Mスポーツパッケージ』は、130iには標準装備で、118iと120iには36万円、116iには42万円というオプション価格で用意されるアイテム。今回の3台のテスト車の中では、118iのみがその装着車であった。

最も価格訴求型のである116i。しかし、それでもその価格は300万円に近く、さらにナビゲーションシステムを選択して実際に乗り出すとなれば、ざっと見積もってもおよそ350万円……と、ゴルフなどに比べればはるかに割高感は強い。が、それは、前述のようにこのクルマの狙ったキャラクターを考えれば納得すべき事柄。ハードウエアそのものに加え、ブランド力という点にも対価を支払うべきがプレミアムカーの条件。こう考えるならば、たとえベーシックグレードであっても周辺各車よりも明確に高いプライスタグを提げるのは、むしろ1シリーズというクルマにとっては『絶対必要条件』なのだ。

一方、それではそんな116iを、それよりも上級グレードとしての位置づけを持つ118iや120i、あるいは同じボディを備えながらも場合によっては別格とも見られる6気筒エンジン(それも150psもハイパワーな!)を搭載の130iと比較した場合、そこでの116iはどのような価値観の持ち主に感じられるか、となると、これが「そうした上級モデルたちに全く見劣りをしない、あくまでも1シリーズの一員らしいテイストを味わわせてくれる」と、こう評価をできるのは、このモデルの大きなポイントだ。

もちろん、動力性能にはそれなりの低下を見るし、そうしたアンダーパワー分を補うために自然とアクセル踏み込み量が大きくなりがちなので、ゆえにそれだけノイズレベルも辛いものとなりがち。が、それでも本質的な走りのテイストは、この116iでも、はるかにハイパワーな心臓を積んでさらにずっと高価な130iでも、「何ら変わらない」という表現が当てはまる。

こうして、搭載エンジンが変わっても装備レベルに違いがあっても基本的な乗り味が変わらないのは、実は「良くできたプレミアムカーに共通するテイスト」と経験上そう述べることができる。116iでも130iでも「1シリーズは1シリーズ」なのだ。

このあたりが、装備の充実したハイエンドグレード車ではそれなりの質感を示してくれるものの、装備を省いたモデルでは途端に安っぽい走り味となる「並のクルマ」とは大いに異なる。

一方、見方を変えると116iでしか感じられない美点というものもいくつか認められた。たとえば、エンジン可動部分のマスの小ささが好影響を及ぼしてか、タコメーター上のレッドラインに向けての高回転域での伸び感は、同じ4気筒エンジンでもむしろ118iや120i用バルブトロニック機構付きの2Lエンジンのそれを上回るほどだし、低速域ではランフラットタイヤ特有のコツコツ感を伝えつつも、それでも「今回のテスト車では最も穏やか」と表現できる路面凹凸の乗り越え感を実現させていたあたりにも、そうしたコメントが当てはまる。

画像: 118i Mスポーツパッケージ。見た目でも乗り心地でも、わかりやすいスポーティさが感じられる。

118i Mスポーツパッケージ。見た目でも乗り心地でも、わかりやすいスポーティさが感じられる。

何のために存在するのか、特別な価値に共感して選ぶ

ただし、「BMW車はエンジンが命!」とそんな期待感を持つ人にとっては、高速道路の上り勾配でフと気付くと走行速度が徐々に落ちていたりする116iの動力性能にはやはりちょっと不満を抱くかも知れない。そうした人にはこの際118iではなく、一足飛びに120iをオススメしたい。

加速の力感の違いは、116iと118iの間よりも、118iと120iの間の方がずっと明確。120iに乗ると、116i/118iとは加速感もブレーキのフィーリングも明確に異なることに誰もがすぐに気付くだろう。まずはその動力性能面で「あぁ、自分は今BMW車に乗っているんだナ」という意識をより明確に味わうことが可能になる。そんなわかりやすさを備える4気筒モデルが120iだ。

一方、前述のように今回の4気筒3台のテスト車の中では118iのみがオプションである『Mスポーツパッケージ』を装着していた。ひとつひとつのアイテムを個別にオプション装着していった場合に比べると大きな割安感が漂うのがこのパッケージオプションだが、見た目上でも乗り味的にもわかりやすいスポーティさの演出を狙ったそのチューニングの手法には、特に走りのテイストの点でかなりの好き嫌いを生み出すことにもなりそうだ。

そのフットワークテイストは端的に言って、リラックスしたクルージングを楽しむためにはあまりに硬く、常にヒョコヒョコと動いて落ち着き感に欠ける印象が否めない。

昨今のMのマークの付くBMW車は、このブランドならではのスポーティなテイストをわかりやすく表現しようとその走り味の刺激度がやや過剰なほどと思えるものが少なくない。今回のテスト車の118iの場合も、そうしたことからどうもこのクルマが装着をしていた「Mスポ」のキャラクターにばかり目を奪われがちとなった印象は否めない。前述のように価格的には強い割安感が漂うものの、その装着にはそれなりに慎重を期すべきだろう。

BMWラインアップの底辺に導入をされた、まだ若いモデルである1シリーズ。それは、5ドアハッチバックというボディ形態を身にまとうものの、実は3シリーズや5シリーズなど、これまでお馴染みのモデル以上に高いプレミアム性を意図した特別なモデルなのだ。

ドライバーズシートこそが最上のポジション、というBMW車に共通の思想はもちろん1シリーズでも何ら変わることはない。その上で実現された、まるでピュアなスポーツカーばりの圧倒的に高い「人とクルマの一体感」を味わわせてくれるハンドリング感覚に、「これならば、後席が多少狭くてもまぁ仕方がないか」と、敢えてこのクルマを選んだ人々の多くはそう納得させられることになるだろう。

そして、そうした感覚はもちろん、シリーズ中で最も低い価格を謳う116iの場合でも何らの変わりもないもの。このあたりが、今や圧倒的なプレミアム戦略の巧みさでますますの知名度アップを図りつつあるBMW社発の、いかにもBMW車たるところと言えるのである。(文:河村康彦/Motor Magazine 2007年1月号より)

画像: 120i。そのパンチのある走りは、BMWに乗っているという実感を持つことができる。

120i。そのパンチのある走りは、BMWに乗っているという実感を持つことができる。

ヒットの法則

BMW 116i 主要諸元

●全長×全幅×全高:4240×1750×1430mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1350kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1596cc
●最高出力:115ps/6000rpm
●最大トルク:150Nm/4300rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:295万円(2006年)

BMW 118i Mスポーツパッケージ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4240×1750×1415mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1370kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1995cc
●最高出力:150ps/6200rpm
●最大トルク:200Nm/3600rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:368万円(2006年)

BMW 120i 主要諸元

●全長×全幅×全高:4240×1750×1430mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1360kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1995cc
●最高出力:129ps/5750rpm
●最大トルク:180Nm/3250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:373万円(2006年)

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