2020年4月現在、日本で市販されているEV(電気自動車)にはトランスミッション(多段変速機)が採用されていない。ところが過去やレーシングカー、海外市場を見てみるとそうとは限らないという。なぜモデルによって違いがあるのだろうか。

まずトランスミッションの役割を考える

最近のクルマのカタログにはあまり掲載されないが、昔はエンジンのパワー特性を表すグラフ、性能曲線が掲載されていた。これを見ると、出力(馬力)とトルクともに低回転時の数値は小さく、回転の上昇とともに数値が大きくなる。そして、最大値を記録した後に少しずつ数値が小さくなる。

低回転時には出力もトルクも低いのがエンジンに共通する特徴。最新のディーゼルエンジンは、ターボによる過給で1000rpm台から実用に十分なトルクが出ているものも多いが、それでもアイドリングやそれより少し上の回転域でのトルクはそれほど大きくはない。ここが、エンジンとトランスミッションの組み合わせが必要だというポイント。

軽自動車であっても最近では1トン近くあるモデルも多く、そんな重いクルマを静止状態から動かすには、それなりに大きなトルクを必要とする。そこでエンジン回転をあまり高めることなく、レスポンス良くクルマを発進させるために、ギアによって減速してトルクを増幅させるわけだ。発進した後は、スピードが高まるにつれて必要なトルクも少なくなる。そこで、エンジン回転を押さえながら、駆動輪の回転を上昇させるギアも必要になる。

トルクの増幅と駆動輪の回転上昇、これらをスムーズに行うためのギアを複数組み合わせたものがトランスミッションである。

クルマのパワーユニットとして優れた特性を持つモーター

エンジンはギアによって低回転域のトルクを増幅させていたが、モーターは起動時(0rpm・クルマが発進するとき)から最大トルクを発生することができるという特長を持つ。また、モーターの種類や制御によって多少異なるが、基本的に回転が高まるにつれてトルクが低下していく。そういう意味で、クルマという重量物を動かすパワーユニットとしてモーターはとても優れている。

しかも、そのパワー特性ゆえ複数のギアを組み合わせるトランスミッションを基本的に必要としないのだ。これはパワートレーンの軽量化やコストダウンにも寄与する。ただし、現在は重くて高コストな駆動用バッテリーが必要なため、車両全体で考えると重く、価格もまだまだ高い。

このように、EVにトランスミッションが必要ないことはわかったが、現在市販されているEVはモーターの回転を直接駆動輪に伝わっているわけではない(モーターと駆動輪の回転数が同じではない)。例えば国産EVの日産リーフ。EM57型という交流同期モーターのスペックは、最高出力150ps/3283−9795rpm(ノーマルグレード)となっている。このモーター回転数をそのまま駆動輪に伝える(時速に換算する)と、約400〜1200km/hと実用域からかけ離れてしまい非効率的。そこで多くの市販EVは、モーター出力軸の回転数を1セットのリダクションギアで減速させてタイヤに伝えているのだ。

画像: 最新のEV、2代目 日産リーフのモーターには1セットのリダクションギア(写真右側)が組み合わされている。

最新のEV、2代目 日産リーフのモーターには1セットのリダクションギア(写真右側)が組み合わされている。

EVであっても、レーシングカーはトランスミッションを使っている。EVの最高峰レース「フォーミュラE」は現在、最大6速までのギアボックスを使えるレギュレーションを採用している。速さを追求するとEVでもトランスミッションを装備したほうがいいという考え方もできる。

トランスミッションを搭載した市販車がまったくないワケではない。スポーツカーでは過去にテスラが2速トランスミッションを使っていたし、最近ではポルシェも採用している。ポルシェ タイカンは2019年に登場し、「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー2020」でパフォーマンスカーとラグジュアリーカー部門の2冠に輝いた。車両前後にモーターを配置する4WDで、リアアクスルに自動切換式の2速トランスミッションを装備している。今後もEVスポーツカーはトランスミッションを組み合わせる可能性はあるが、日常生活での使用を重視する量販モデルにトランスミッションは採用されないだろう。(文:丸山誠)

画像: 2速トランスミッションを搭載する電気自動車、ポルシェ タイカン。日本での正式デビューは2020年夏を予定していると言われている。

2速トランスミッションを搭載する電気自動車、ポルシェ タイカン。日本での正式デビューは2020年夏を予定していると言われている。

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