近年の新車販売価格は高騰していると言われている。絶対的な金額は高価になったが、物価、年収、景気動向などを加味した場合、相対的に高価になったと言えるのだろうか。2019年新車登録台数1位になったトヨタ カローラを例に考察する。

カローラの新車価格と平均年収の関係

画像: 日本を代表する大衆車となった初代カローラ。それでも国民の平均年収並みの価格なので、購入するにはそれなりの覚悟が必要だった。

日本を代表する大衆車となった初代カローラ。それでも国民の平均年収並みの価格なので、購入するにはそれなりの覚悟が必要だった。

トヨタ カローラは1966年の発売以来54年もの間、国産車のトップセラーの一角を維持している。1968年から2001年、2003年から2008年、そして2019年の国内普通車で新車登録台数1位になり、国民車と称されるまでになった。多く販売されているからには、価格も手頃に違いないが、実際に時代の物価や年収に対しカローラの新車販売価格はどれくらいの価値になるのだろうか。

1966年に発売された初代カローラの販売の中心グレードは、1100DXだ。その価格は、49万5000円。1966年の国税庁の調査による「1年勤務者平均年収」(以下「平均年収」と記す)が54万8500円なので、カローラは平均年収のほぼ1年分であり高価な存在だった。しかし時代は末期とはいえ高度経済成長期で、平均年収が右肩上がりの時代。カローラが初めて普通車登録台数1位となった1968年の平均年収は70万6300円にまで上昇し、相対的にカローラがやや安価になった。

平均年収に占めるカローラの新車販売価格割合を、本稿では「カローラ指数」と呼ぶこととした。1966年のカローラ指数は90.2だが1968年は70.1にまで下落している。カローラは初代モデルのままなので、当時のユーザーの感覚はバーゲンセールだったに違いない。カローラ指数はこの後も低下の一途を辿り、1969年には61.1、1970年には52.7になる。当時のカローラの平均年収に対する相対的な価値は、デビュー当初の半分になったと言える。

画像: 2代目カローラは価格の上昇に比較して平均年収が大きく伸びたために割安感が高い。若者層も多いこの時代は日本の将来が明るく見えた時期だ。

2代目カローラは価格の上昇に比較して平均年収が大きく伸びたために割安感が高い。若者層も多いこの時代は日本の将来が明るく見えた時期だ。

1970年に、カローラは初のモデルチェンジを受け2代目モデルへと移行する。モデルライフは1970年から1974年で、高度経済成長期が終焉し第1次オイルショックが勃発した。しかし国内景気は盤石だったようで、平均年収は上昇し続けた。2代目カローラの人気グレードはクーペデラックスで、価格は53万7000円。1970年の平均年収は93万9900円で、カローラ指数は57.1。初代モデル末期から4.4ポイント、価格は8.5%上昇したが、日本国内の登録台数1位は揺らがなかった。1974年のモデル末期は平均年収が182万1000円と2代目カローラデビュー時の2倍となったため、カローラ指数も半減し29.5となった。

世界経済は第1次オイルショックに引き続き第2次オイルショックも発生し、原油価格高騰により製造コストが上がり品物の値段が上昇した。カローラの価格も上昇し、3代目カローラHT1200DXが69万9000円、4代目カローラ 1500 4ドアデラックスが84万4000円と代を重ねるごとに高価になったのだが、平均年収の上昇率の方がはるかに高く、1979年のカローラ3度目のモデルチェンジ時で279万円を記録。この時の3代目のカローラ指数は25.1(ただし、この時1.2Lエンジンは1.3Lに拡大されているために参考値)、4代目が30.3と手ごろな価格を堅持していた。

1980年ごろの世界経済はオイルショックに加え、アメリカの貿易赤字が膨大に積み重なり、米ドルの破綻が危ぶまれていた。アメリカの貿易赤字はとくに対日貿易で顕著だったため、ドル安円高に協調誘導されることに決定し、1985年のプラザ合意を機に日本の為替は固定制から変動制へと変更された。このプラザ合意がきっかけとなり、景気はバブルへと向かい、日本経済は世界2位にまで成長した。

画像: まさに日本が空前のバルブ景気に踊るころに登場した6代目カローラ。年収の3分の1+αくらいで購入できたが。大衆車「カローラ」に乗るのが見栄の面から気恥ずかしく思えた時代でもある。

まさに日本が空前のバルブ景気に踊るころに登場した6代目カローラ。年収の3分の1+αくらいで購入できたが。大衆車「カローラ」に乗るのが見栄の面から気恥ずかしく思えた時代でもある。

このような好景気の時代に発売されたカローラが、5・6代目モデルだ。バブル景気は1986年に始まったとされ、この時の平均年収は362万6000円。5代目カローラ4ドアセダン1500SEリミテッドが123万円で、カローラ指数は33.9。1987年に登場した6代目カローラセダン1500SEリミテッドが137万8000円で、平均年収は371万8000円。カローラ指数は37.1となる。

4代目のカローラ指数が30.3であったことを考慮すれば10~20%程度の値上げであるが、5代目カローラはシリーズ初のFFモデルであることで生産設備に多額の費用が投資されたという理由もあるだろう。また6代目モデルは当時のマークII以上の高級車に使用される上質な仕上げを多用したためという見方もできる。

バブル経済終息後、カローラの新車販売価格は下がらず横這いだった。バブル崩壊直後は「失われた30年」が始まり、いわゆる氷河期世代を生み出した。1997年にはアジア通貨危機の発生、5%への消費増税、山一證券、北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行の相次ぐ破綻で、消費マインドは落ち込んだ。

画像: バブル崩壊の時期に登場した8代目カローラ。コストダウンが図られた結果買い得感の高いものとなった。

バブル崩壊の時期に登場した8代目カローラ。コストダウンが図られた結果買い得感の高いものとなった。

この時代に販売されていたカローラは8代目モデルで、売れ筋は1.5SE-Saloonだった。新車販売価格は138万2000円で、平均年収は467万3000円。カローラ指数は29.6だ。国税庁が「1年勤務者平均年収」調査を1953年に開始して以来、1997年は最も高い平均年収であったにもかかわらず、8代目カローラはコストダウンと装備の簡素化により買い得感の高い価格を維持した。ただし6代目モデルからの乗換ユーザーの中には、段違いの品質の低下にがっかりした人もかなりいたようだ。

1968年から2001年までのカローラ指数は、おおよそ30台だ。しかしITバブルやいざなみ景気を背景に2000年に登場した9代目モデルから、値上がり傾向となる。9代目カローラセダンG(FF)の新車販売価格は151万8000円、平均年収は461万円、カローラ指数は32.9であった。カローラ指数的には安価なのだが、量販グレードの新車販売価格が従来の130万円台から150万円台へと上昇したのは、心理的に高いと感じる。また平均年収は1997年をピークに右肩下がりとなり、カローラはデビューから時間が経つにつれカローラ指数が上昇する。モデルが古くなっているのに割高感が増す現象が、カローラ史上初めて発生した。

画像: 11代目となるカローラアクシオに、エンジンと電動モーターによるハイブリッド車が加わった。そのため新車販売価格は200万円超。カローラ指数も50を超えた。

11代目となるカローラアクシオに、エンジンと電動モーターによるハイブリッド車が加わった。そのため新車販売価格は200万円超。カローラ指数も50を超えた。

この傾向は10・11代目モデルでも同様だ。しかも11代目のモデルライフ中に、現在も進行している「自動車の100年に1度の大変換期」が到来している。エンジン一辺倒だった動力源にはハイブリッドが選択肢に加わり、先進安全装備の「Toyota Safety Sense C」が標準搭載されるようになった。11代目カローラにハイブリッドが追加されたのは2013年で、新車販売価格はハイブリッドGで207万5000円。平均年収は413万6000円で、カローラ指数は50.2だ。

2015年にはG系グレードにToyota Safety Sense Cが標準搭載され、ハイブリッドGの新車販売価格は220万7127円へと上昇した。2015年の平均年収が420万4000円なので、カローラ指数は52.5で、Toyota Safety Sense C未装備のハイブリッドGよりも確実に値上がりした。

2018年、セダン、ワゴンに先行して発売されたハッチバックのカローラスポーツでは、全グレードにToyota Safety Senseが標準搭載された。さらにハイブリッドシステムのエンジンは1.5Lから1.8Lにスープアップしたため、旧来のカローラよりかつてのコロナ・カリーナクラスに近づいたこともあり、量販グレードのハイブリッドG「X」で252万7200円の新車販売価格となった。2018年の平均年収は440万7000円なので、カローラ指数は57.3で、2代目カローラ登場時並みだ。

画像: かつてのエントリーカーというイメージは薄れたカローラスポーツ。安全対策の装備やトヨタブランドの再構築などで、割高感が高いのは事実だ。

かつてのエントリーカーというイメージは薄れたカローラスポーツ。安全対策の装備やトヨタブランドの再構築などで、割高感が高いのは事実だ。

新車販売価格は、確かに高価になっている。カローラの場合でいえば、33年間連続登録台数1位を誇っていた時代のカローラ指数が30台であったが、昨今のハイブリッド化やASV(Advanced Safety Vehicle:先進安全自動車)化などによりカローラ指数も50台になった。加えて平均年収の減少により支出負担も多くなり、カローラは質・価格ともに高級車となった。カローラが高価になったのは新技術の導入だけでなく、トヨタブランド内のヒエラルキーの変化も影響している。

平たく言えば、かつてのミドルクラスセダンが軒並み消滅し、現在のプレミオ/アリオンも風前の灯。これからのミドルクラスセダンはカローラとプリウスが担うといった具合に、車格がアップしている。車名は同じカローラでも、トヨタセダンのエントリーモデルであった初代モデルとミドルクラスの12代目モデルでは内容が大きく異なるのだ。(文:猪俣義久)

カローラ指数の変遷

1966年 初代カローラ 90.2
1967年 初代カローラ 79.8
1968年 初代カローラ 70.1
1969年 初代カローラ 61.1
1970年 初代カローラ 52.7
1970年 2代目カローラクーペ 57.1
1971年 2代目カローラクーペ 50.8
1972年 2代目カローラクーペ 44.3
1973年 2代目カローラクーペ 36.7
1974年 2代目カローラクーペ 29.5
1974年 3代目カローラ 38.4
1975年 3代目カローラ 34.4
1976年 3代目カローラ 30.5
1977年 3代目カローラ 28.4
1978年 3代目カローラ 26.9
1979年 3代目カローラ 25.1
1979年 4代目カローラ 30.3
1980年 4代目カローラ 28.6
1981年 4代目カローラ 27.3
1982年 4代目カローラ 26.4
1983年 4代目カローラ 25.6
1983年 5代目カローラ 37.4
1984年 5代目カローラ 36.2
1985年 5代目カローラ 35.0
1986年 5代目カローラ 33.9
1987年 5代目カローラ 33.1
1987年 6代目カローラ 37.1
1988年 6代目カローラ 35.8
1989年 6代目カローラ 34.2
1990年 6代目カローラ 32.4
1991年 6代目カローラ 30.9
1991年 7代目カローラ 31.3
1992年 7代目カローラ 30.7
1993年 7代目カローラ 30.9
1994年 7代目カローラ 30.7
1995年 7代目カローラ 30.6
1995年 8代目カローラ 30.2
1996年 8代目カローラ 30.0
1997年 8代目カローラ 29.6
1998年 8代目カローラ 29.7
1999年 8代目カローラ 30.0
2000年 8代目カローラ 30.0
2000年 9代目カローラ 32.9
2001年 9代目カローラ 33.4
2002年 9代目カローラ 33.9
2003年 9代目カローラ 34.2
2004年 9代目カローラ 34.6
2005年 9代目カローラ 34.8
2006年 9代目カローラ 34.9
2006年 10代目カローラアクシオ 38.9
2007年 10代目カローラアクシオ 38.7
2008年 10代目カローラアクシオ 39.4
2009年 10代目カローラアクシオ 41.6
2010年 10代目カローラアクシオ 41.0
2011年 10代目カローラアクシオ 41.3
2012年 10代目カローラアクシオ 41.4
2012年 11代目カローラアクシオ 38.9
2013年 11代目カローラアクシオ 50.2
2014年 11代目カローラアクシオ 50.0
2015年 11代目カローラアクシオ 52.5
2016年 11代目カローラアクシオ 52.4
2017年 11代目カローラアクシオ 53.2
2018年 11代目カローラアクシオ 52.1
2018年 12代目カローラスポーツ 57.3

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