2003年のジュネーブオートサロンでデビューした「ベイビーランボ」こと、ランボルギーニ ガヤルド。V10エンジンを搭載したこのモデルは大成功作となった。ではこのモデルの本質とは何だったのか。Motor Magazine誌では、2005年に追加されたガヤルド スパイダーe-gearの試乗をとおして、じっくりと検証している。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年8月号より)

かつてのミウラは繊細さと獰猛さを同胞していた

今年2006年3月のジュネーブ自動車ショーで見たランボルギーニの「ミウラ コンセプト」は最低だった。

オリジナルのミウラを深く敬愛している身にとっては、一刻も早く、その傍らを離れたくなるほどのヒドい代物だ。

何がヒドかったといって、このコンセプトカーのプロジェクトを推進した人物が、おそらくミウラの美しさにも魅力にも何ら敬意を払っていないとしか考えられないことだ。

ミウラの美しさとは、実物を目の当たりにしてみれば、誰にでも一目瞭然だろう。

まず、低く構えた姿勢と流麗なボディスタイリングの融合が素晴らしい。キャラクターラインは、ノーズから左右フェンダーに連なり、ウインドウガラスの下縁を通って大きく張り出したリアフェンダーの稜線に沿い、最後はスパッと切り落とされている。ギリギリに小さ過ぎないキャビン部分のボリュームと、ボディ全体との絶妙のバランス。

斜め前方から見ると女性的とも言えるほど繊細でエレガントなのに、後ろへ回ると対照的に男性的だ。

リアカウルはBピラーから後ろ全体がアリゲーター式に一体で開く。通常のリアウインドウがあるべき部分にはガラスは張られておらず、ルーバーが渡されているだけ。つまり、カウルの下に搭載されているV型12気筒エンジンと軽量化のために孔が穿(うが)たれたバックボーンフレームなどは何にも覆われておらず、剥き出しにされているようなものだ。

エンジンでも掛けようものなら、その作動音と6個のキャブレターの吸気音がルーバーの隙間から盛大に聞こえ、優しそうに見えていたミウラが獰猛な獣に変身して周囲の者を驚かす。

4LのV型12気筒エンジンを、1960年代の1.5L時代のホンダF1マシン「RA271」のように車体中心部に横置きし、レーシングカーのように軽量化のための孔がたくさん穿たれたバックボーンフレームシャシに組み付けてある。

発表された1966年当時には、おそらく衝撃を呼んだであろう独創的かつ先進的な設計だ。同時代のフェラーリやマセラティなども美しく、カッコいいことには変わりはないが、ミウラのように設計に前衛的な試みがなされているわけではない。コンサバといえば超コンサバだ。

デビュー時のミウラ(P400)は、公称最高速度276km/h。もちろん当時、世界一の超高性能だ。

ミウラは、単に美しいだけのクルマではない。優しい曲線と柔らかな曲面に包まれたボディの下には、コンペティションをも視野に入れたハイテクノロジーが隠れているのだ。その二面性がキャラクターであり、魅力となっている。

また、ミウラに限ったことではないが、この時代のクルマはみんな小さい。こんな小さなナリから、超高性能が発揮されるとは信じられない。

ジュネーブで見たミウラ・コンセプトは、それらオリジナルの美点がひとつも継承されなかった。何となくオリジナルに似ているけれども、アメリカのキットカーメーカーが作る「レプリcar」だと言われたら、そのまま聞き逃してしまう類いの姿カタチだ。

大きく、繊細さがどこにもない。大径タイヤはボディからハミ出さんばかりだし、前後左右上下のボディの絞り込みがほとんどない。安全対策その他の理由から、オリジナルを現代にそっくりとコピーできないことは理解できるが、無様(ぶざま)にフヤケているだけ。悪いジョークにしか見えない。

どこからどう見てもこの手の「復活もの」、「リプロダクト企画」には絶対に必要な、オリジナルへのリスペクトが感じられないのだ。ただ名前とイメージを利用しているだけ。これじゃミウラが可哀想だ。

そのジュネーブ自動車ショーでは、カロッツェリア・ベルトーネがミウラ誕生40周年を祝って、赤銅色のオリジナル・ミウラを自社のスタンドに展示していた。口直しのために、筆者はランボルギーニのスタンドから早々に抜け出して、ベルトーネに急いだのだった。

画像: 2005年に登場したガヤルドスパイダー。試乗車はe-gear仕様。その走りは意外なほど心地よく快適。ボディがしっかりしていて、サスペンションは確実に上下動を繰り返す。

2005年に登場したガヤルドスパイダー。試乗車はe-gear仕様。その走りは意外なほど心地よく快適。ボディがしっかりしていて、サスペンションは確実に上下動を繰り返す。

新しい時代の心地よさ、すべてで増した洗練の度

さて、ガヤルド・スパイダーである。ベースとなったガヤルド・クーペに乗った時には、兄貴分のムルシエラゴやその前身のディアブロなどとスタイリングイメージは似ているが、「乗った感じは全然別物」という印象を得た。

豪快で粗野なところが少なくなり、大人しくなった。エンブレムの暴れ牛が、野太いエンジン音を盛大に撒き散らしながら突進して行く感じだったのが、飼い馴らされてしまった印象だ。エンジン音は整い、無駄に大きくはない。

かといって、パフォーマンスがもの足りなくなっているわけではない。他のクルマに較べれば、ものスゴく速いのだ。四輪駆動の伝達能力の高さも手伝って、加速性能は第一級だ。姿勢変化をあまり伴わずに、まるで平行移動するかのようにダッシュする。

大きく印象を改められたのは、ドライビングポジションだった。ディアブロやムルシエラゴは、外見同様の奇天烈なものだったが、ガヤルドのそれはまともなのだ。これにはちょっと拍子抜けさせられた。突拍子もない服ばかり着ている変わり者かと思って話してみたら、意外にも常識人だったというようなものだ。

エアコンやオーディオなどを総合的にコントロールできる操作パネル、メーターやメーターパネルなど、アウディの上級モデルからの明らかな流用部分もあり、車内で「ランボルギーニ」を意識させられる部分は減った。すべての部分において洗練の度を増していることは、ランボルギーニがアウディ傘下となった影響なのだろうか。

そして、デビュー時のガヤルドから受けた印象は、この新しいスパイダーからでも概ね変わらない。しかし、イエローメタリックのボディに黒いソフトトップという試乗車の派手さといったら、ちょっと他に例えるものがない。

ソフトトップを上げていると、色が黒ということもあって、クーペのガヤルドよりも平べったく見える。クーペでは傾斜したガラスのリアウインドウからエンジンが覗けていたが、スパイダーではエンジンはボディの下に隠されてしまって、何も見えない。エンジンカバー部分がフラットなので、余計に平べったい。

オフィス街などを走ると、前後のクルマや対向車のドライバー、歩道を往く人たちなど、その場に居合わせた全員が眼を丸くしていた。軽蔑と憐憫が入り交じった視線が痛い。

高速道路に乗り入れると、ガヤルド・スパイダーは意外なことに快適だ。まず、静か。パッセンジャーと普通に会話ができる。背後から聞こえてくるエンジン音はたしかに迫力ものだが、回転を上げていくとひとつに収束して行くから、不快にはならない。レスポンスも鋭く、8000rpmまで一気に回る。

ムルシエラゴでは、こうはいかなかった。収束するどころか、エンジンとともにボディも一緒に弾け飛んでしまいそうなほどに激しかった。したがって車内は爆音で満たされる。それを「迫力」と感じるかどうかはその人次第だが、このガヤルド・スパイダーでも迫力不足と感じることは絶対にないはずだ。

高速道路が快適に感じられるのは、ボディの剛性感が高いことも大きく作用している。ガヤルド・スパイダーのシャシは、アルミニウム製だ。アルミニウムスペースフレームに各種のアルミニウム押し出し成形パーツを溶接接合してある。

鋳鉄の「ガッシリ」ではなく、軽くて硬いアルミニウム特有の「カッシリ」とした剛性感が、好感度を上げている。路面からの入力や、クルマの動きが大きかったりした場合でも、シャシがヨジれるように感じることもない。ムルシエラゴやディアブロでは、シャシのヨジれなのか路面からの入力なのか判然としないまま、ガタゴト、グニャグニャし続けていた。ボディがしっかりとしているから、サスペンションは確実に上下動を繰り返すことができる。だから、乗り心地が「心地よい」のだ。

画像: 繊細でエレガントな雰囲気と獰猛で迫力ある獣の要素が同居する。

繊細でエレガントな雰囲気と獰猛で迫力ある獣の要素が同居する。

どうあるべきかという問いに対する現代の回答

高速道路を降りても、ガヤルド・スパイダーへの好印象は続く。

ロボタイズド・マニュアルトランスミッションの「eギア」は、初期ガヤルドのものよりも洗練度を増した。この類いのトランスミッションに付きものの、オートマチックモードでのガクガクとしたクラッチワークが姿を消し、実にスムーズに変速を繰り返す。またマニュアルモードでの変速時のショックも小さい。マニュアルモードでショックを小さく走るコツは、変速時にスロットルペダルを戻すのではなく、踏み続けることだ。ダウンシフト時のブリッピングも威勢良く、「演出」たっぷりだ。

少なくとも、走行中のガヤルド・スパイダーからは、ムルシエラゴやディアブロなどから感じた不満や不都合はない。カタチこそ、人を驚かせるようなランボルギーニ流だが、運転している限り、ランボルギーニを感じない。だがそこに寂しさを感じる自虐性は、筆者には備わっていない。自動車としての品質が一段も二段も上がったことを訝(いぶか)る人の方が少ないのではないだろうか。粗野なところ、野蛮なところがランボルギーニだと感じていたとしたら、その認識を改めなければならないだろう。ガヤルドは、新しい時代のランボルギーニなのだ。

新しい時代のランボルギーニは、卓越した動力性能とクオリティを備えながら、奇抜なスタイルで見る者を蠱惑(こわく)する。

フェラーリやマセラティにも、それぞれの魅力があることは言うまでもない。ランボルギーニの魅力とは、ミウラの二面性に感じるような「意外性」にあるのではないだろうか。

「美しそうに見えて美しいクルマ」や「速そうに見えて速いクルマ」にはない驚きが、ランボルギーニには宿っている。ランボルギーニとは、「驚きのスーパーカー」なのだ。

ミウラの魅力の源となっている意外性がかたちを変えて現代に甦ったのが、ガヤルド・スパイダーやガヤルドではないだろうか。アウディ傘下に収まったとしても、そのランボルギーニの伝統に変わりはない。「驚きの意味」が変わったのだ。(文:金子浩久/Motor Magazine 2006年8月号より)

画像: ランボルギーニ社がどのグループに属するのかということを雄弁に物語るインテリアデザイン。だがそのことは、新しいファンにとってはプラスとなることでもある。

ランボルギーニ社がどのグループに属するのかということを雄弁に物語るインテリアデザイン。だがそのことは、新しいファンにとってはプラスとなることでもある。

ヒットの法則

ランボルギーニ ガヤルド スパイダーe-gear 主要諸元

●全長×全幅×全高:4300×1900×1184mm
●ホイールベース:2560mm
●車両重量:1570kg
●エンジン:V10DOHC
●排気量:4961cc
●最高出力:520ps/8000rpm
●最大トルク:510Nm/4250rpm
●トランスミッション:6速AMT(e-gear)
●駆動方式:4WD
●0→100km/h加速:4.3秒
●最高速: 314km/h
●車両価格:2362万5000円

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