「ポルシェの王道」と言えば、911であることに異論を唱える人はいないだろう。そこで今回は992型の「911カレラS」に試乗して、どんな伝統が受け継がれ、どんな革新がもたらされているかを検証する。(Motor Magazine 2020年4月号より)

グリップ力強化のためタイヤサイズを前後異形に

いつかは手に入れたいと焦がれつつも、なかなか距離が縮まらない物が僕にはいくつかある。クルマの場合は「ポルシェ911」がそれだ。2人の娘が独立したら…、とか数年以内には…、などと、いろいろタイミングを図ったこともあるのだが、911への距離感は縮まるどころか、ここのところどんどんと遠のいているような気がする。理由はやはり価格の高騰だろう。

996型や997型の時代には、素のカレラが確か1000万円を切る価格で存在していたと記憶している。しかし現行992型は素のカレラでも車両本体価格はざっくり1360万円。もちろんそれだけの良さが備わっているのは、中身を知ればわかるのだが、いつまで経っても縮まらない距離に最近は絶望さえ感じるようになり、ここしばらく、とくに評判がすこぶる良い992型に関してはなるべく見ないようにしていたところがある。

そこにカレラにじっくり乗ってみるという今回の企画。これはとても嬉しい試乗である反面、絶望感がさらに募りそうで心配だ。乗り出す前に装備品リストをチェックしてみた。カレラの税込車両価格は1696万8519円。今回の試乗車はこれに、軽自動車1台分くらいの価格となるPCCB(カーボンセラミックコンポジットブレーキ)をはじめ、小計423万円近くのオプションが装着され、税込の合計価格は2120万2506円となっていた。うーむ。これはもう唸るしかない……。 

値段のことはとりあえず忘れてともかく乗ってみる。992型はフロントのトレッドが一律拡大され、カレラに関してはリアトレッドも大きくなっている。その分フェンダーもワイド化されており、タイヤはフロントが245/35ZR20、リアが305/ZR21という前後異サイズになった。その目的は接地面積の拡大によるグリップ力の強化にあるのだが、それよりも僕は豊かになったフェンダーラインが、これまでの911にはない量感をもたらしているのが魅力的に映った。

キーを持って近づくと格納されていたドアハンドルが外側にポップアウトしてくる。空力を考慮して採用した電動式のドアノブだ。ノブが下がっている時は開きにくそうだが、隙間に指を入れるとしっかり反応してくれるので使い勝手は悪くないと感じた。

画像: 軽量/高剛性ボディが、極めてソリッドな乗り味を実現してる。

軽量/高剛性ボディが、極めてソリッドな乗り味を実現してる。

一新されたインテリアがポルシェの新時代を告げる

インテリアの雰囲気は一新されている。横長の10.9インチタッチスクリーンを中央に配置したため、991型のようにコンソールを縦方向に展開するのではなく、横基調のデザインとなった。必要な操作系はステアリングスイッチや、センターディスプレイ下に整然とレイアウトされて、991時代は満艦飾という感じだったフロアコンソール上のスイッチがずいぶんと整理されスッキリとした。ただ、好みはピアノブラックよりも992型で用意されているウッドトリムだ。これを選んでみるのもいいかもしれないと思った。

インテリアでもうひとつ変わったのがメーターパネルだ。センターにアナログ表示のタコメーターを配置する伝統は今回も守られたが、それを取り囲む4つのサブメーターは新型から液晶化された。その分、表示の自由度が高まり、さまざまな画面に切り替えて使えるようになったのはありがたいが、横方向に長くなったこともあって、一部がハンドルに蹴られてしまうのは気になるところ。

まずはその辺をざっとチェックしたところで、ハンドルコラムの右に生えているノブを捻ってエンジンを始動させる。エンジンスタートをプッシュボタンとするモデルが増える中で、頑なにノブの回転操作から離れないのも、ポルシェならではのこだわりと言えよう。

992型のトップバッターとして上陸したカレラ/カレラ4のエンジンは、先代991に引き続き3Lの水平対向6気筒ツインターボだ。ただし世代が進んだ分のパワーアップは行われており、出力で30ps、トルクで30Nmの増強が行われ、450ps/530Nmというパワースペックを実現している。

組み合わされるトランスミッションは7速から新開発の8速へと多段化されたDCT(PDK)。シフトバイワイヤとなったため、セレクターはレバーではなく小ぶりなトグルスイッチのような形状になった。ギアチェンジのマニュアルシフトは、もっぱらステアリング左右のパドルによって行う。

自然吸気の水平対向気筒が991型の後期型で姿を消し、すべてがターボによる過給エンジンとなった時は、NA時代を懐かしむ声も多く聞かれたが、どうしてどうして、この3LツインターボもレスポンスはNAばりに鋭い。

タービンを大型化しているようだが、いわゆるターボラグが増えている様子は微塵もなく、むしろ低回転域のアクセルペダルの踏み込みに対する反応は鋭さを増し、全域でトルクの余裕も増しているように感じられた。クランクの芯がきっちり出ているような、精度感の高い回転フィールは健在だし、高回転まで回した時の甲高い快音や、鋭いアクセルレスポンスはさすがポルシェの作るスポーツユニット。やっぱり911はいつの時代も本当に魅力的だ。

画像: 試乗車はスタンダードインテリアのブラック。これにオプションのアルミニウムインテリアパッケージを装備する。

試乗車はスタンダードインテリアのブラック。これにオプションのアルミニウムインテリアパッケージを装備する。

RR特有のクセが減りナーバスな挙動が解消

ところで今回、僕が試したカレラはフロントにトルクを伝える機構を持たないRRのハイパフォーマンスモデルだ。4WD機構を備えるカレラ4と乗り比べると、以前は高速域でフロントの接地性がやや薄れる感じで直進安定性に不安を感じることもあったのだが、991型時代からこうしたRR特有のクセはかなり減っており、そしてこの992型ではほぼ感じられなくなったというのが素直な感想だ。

フロントタイヤは常に的確に路面を捉え、ターンインは実にスムーズだ。前後異サイズのタイヤまで採用して後輪のグリップを高めたのが功を奏しているようで、タイトターンからの立ち上がりでも安心してアクセルペダルをガンガン踏んでいける高いスタビリティを実現していた。

一抹の緊張感を覚えながらジワジワとパワーを掛けていた過去の911もそれはそれで面白かったのだが、路面状況や姿勢変化に伴う接地荷重の変化にナーバスになり過ぎず、安心して踏んでいけるのは、これはやはり進化と言うほかないだろう。

さらに992型はアルミの使用比率を高めた軽量/高剛性ボディも話題となっている。911に乗っていつも感心するのは、いかにも強固なボディとシャシが、極めてソリッドな乗り味を実現していること。この伝統は今回もしっかり守られていた。

ただ、カレラはベースのカレラと比べればパワフルなスポーツモデルという位置づけなので、足まわりは相応に硬い。ボディが強固なので荒れた路面でも進路が乱されるようなヤワな動きは見せず、ギャップを押し切っていくような逞しさがあるし、サスペンションストロークにさほど余裕があるわけではないのに、姿勢をフラットに保つあたりにもスポーツカーとしての実力の高さを実感する。荒れた路面や大きなデコボコに対しては、比較的正確にその衝撃を乗員に伝えて来る。

もちろん日常の足として使える快適性は確保しているが、セダンのような滑らかな乗り味を期待するのはお門違い。911はきっちりスポーツカーなのだ。そしてだからこそ、僕は長い間恋焦がれているわけである。(文:石川芳雄)

画像: 電子制御のウエストゲートバルブを持つシンメトリック構造の大型ターボチャージャー2基により過給を行っている。

電子制御のウエストゲートバルブを持つシンメトリック構造の大型ターボチャージャー2基により過給を行っている。

■ポルシェ 911 カレラ S主要諸元

●全長×全幅×全高=4519×1852×1300mm
●ホイールベース=2450mm
●車両重量=1540kg
●エンジン= 水平対向6DOHCツインターボ
●総排気量=2981cc
●最高出力=450ps/6500rpm
●最大トルク=530Nm/2300-5000rpm
●駆動方式=RR
●トランスミッション=8速DCT
●車両価格(税込)=1696万8519円

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