2005年にレンジローバーブランド第2弾として登場した初代レンジローバー スポーツは、ゆったりとしたレンジローバーとは異なる、スポーティな走りが大きな注目を集めた。また同時に、その数年前に親会社がBMWからフォードに変わっていたこともあり、レンジローバーというブランドの行方も当時の大きな関心事となった。そこでMotor Magazine誌では、レンジローバー スポーツの試乗だけでなく、ブランドのあり方まで考察している。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年4月号より)

別物へと進化しながらも根底に流れる思想は不変

逆も真なり、ということもある。ランドローバー社の開発担当者と話をする時に、半ば冗談混じりでいつも訊ねてみる質問がある。

「ランドローバーは、SUV以外のクルマ、つまり、サルーンやスポーツカーを作らないのか?」彼らの答えはいつも決まっていた。「ノー。オフロードタイプの4輪駆動車しか作らない」

BMWがX5を、ポルシェがカイエンを、キャデラックがエスカレードを作ったように、自らの布陣を拡大強化するためにSUVを加えるのがプレミアムカーメーカーのここ最近の常道となっている。

それならば、SUV専門メーカーのランドローバーが、あえて反対方向に商品企画を拡げて上質なサルーンやスポーツカーを作ってもおかしくはないのではないか。

もちろん、ランドローバーはかつてのローバー社のグループ内にあって、4輪駆動車製造を任されていたという歴史的経緯はある。しかし、もうローバー社からかつての75や3500、2000などのような魅力的で優れた新車が送り出される望みが持てなくなってしまった今、グループの末裔とも言えるランドローバーが再興を担うようなことになっても不思議はない。ポルシェがフォルクスワーゲンの筆頭株主になる時代だ。

そんなファンタジーめいた想像がただの夢物語に聞こえないのも、ランドローバーがSUVしか作らないという確固たる経営方針があってこそのことだろう。

SUV、それもプレミアムSUVしか作らない。世界のプレミアムカーメーカーがラインアップを拡大する中にあって、SUVに限定してビジネスを展開しようとしていくランドローバーのブランド価値は、高まりこそすれ、下がることはないだろう。ユーザーとマーケットに対するこれほど明確なメッセージもないからだ。

しかし、企業にとって業績の現状維持はあり得ない。利潤を追求し、事業の規模を拡げるか、縮めるかどちらかだ。SUVしか作らないランドローバーは、どう事業を拡大して行くのか。

SUVしか作らないのなら、その中でバリエーションを増やしていくしかないだろう。フォード傘下入りしてからのランドローバー社は、矢継ぎ早に新型車を発表している。乗ると、そのどれもが新機軸を打ち出し、性能と官能において旧型を大きく凌駕している。

モノコックボディを採用し、BMWの開発によるV8エンジンを得たレンジローバーは、オフロードはもとよりオンロードでも比類のない乗り心地とハンドリングを実現し、ある種の万能車と言える高みに達していた。

ディスカバリーも、見事なモデルチェンジを遂げた。旧型のイメージを残しつつも、幾何学的で斬新な造形が施されたエクステリアデザインがとても魅力的だ。SUVに限らず、世界中の自動車の中で最も新しいスタイリングを持つ一台に数えることができるだろう。

ディスカバリーは、レンジローバーと異なり、モノコックボディにラダーフレームを組み合わせた「インテグレーテッド・ボディフレーム構造」を採用している。

ディスカバリーとレンジローバーはボディ構造こそ違え、新しい世代のランドローバーとして共通点を持っている。それは電子制御の活用だ。悪路や滑りやすい路面でのトラクションを細かく制御し、姿勢変化に対応する「テレインレスポンス」システムや、SUVに特有の大きなボディの揺れを、アンチロールバーの硬さを油圧モーターでコントロールすることで抑える「ダイナミック・レスポンス」システムなどを備えている。

国内外のさまざまなオンロードとオフロードでレンジローバーとディスカバリーを試乗してきたが、最新型の2台は電子制御によって、旧型から劇的に進化した。旧型と新型は、はっきり言って別物である。

旧型までの両車を過酷なオフロードで走らせるには、ドライバーに熟練したテクニックが求められた。路状況を見極め、慎重かつ大胆にクルマを操ることができなければ、タイヤは空転し、クルマはスタックするだけだ。

だが、今のレンジローバーやディスカバリーは違う。タイミングを誤ったスロットルワークやブレーキング、ハンドルさばきを行ったとしても、何ごとも起こらず走り切ってしまう。オフロード走行のビギナーとエキスパートに同じところを走らせても、その結果はほとんど変わらないのだ。

エキスパートが行っていた微妙なスロットルワークやブレーキング、荷重移動などを、電子制御デバイスが取って代わっている。だから、失敗がない。言い換えると、ドライバーの腕に頼っていた部分が電子制御によって自動的に解決されたわけである。

2005年のデビュー直後に、スペインの山奥で試したレンジローバー スポーツも、この点においては変わらなかった。足首まで埋まってしまうような泥や、大きな岩と石が続くようなデコボコの悪路でも、ハンドルを切るタイミングと量さえ間違わなければ、こちらの運転をクルマの電子制御デバイスが補いながら走らせてしまった。圧巻は、傾斜角30度近いツルツルの岩の長い斜面をノーマルタイヤで上り切ってしまったことである。最新のシャシとタイヤと電子制御デバイスの力だ。現行のランドローバー各車のオフロード走行のレベルが一気に底上げされたのである。

画像: 2005年9月に日本で発表された初代レンジローバー スポーツ。ボディデザインはレンジローバーに似ているが、シャシはディスカバリー3と共通のインテグレーテッド・ボディ・フレーム。ホイールベースはディスカバリー3より短く、サスペンションなどの味付けも異なる。

2005年9月に日本で発表された初代レンジローバー スポーツ。ボディデザインはレンジローバーに似ているが、シャシはディスカバリー3と共通のインテグレーテッド・ボディ・フレーム。ホイールベースはディスカバリー3より短く、サスペンションなどの味付けも異なる。

小さくとも確実に存在する違いを尊重できる価値観

さて、レンジローバー スポーツとは、どんなクルマだろうか。

一見しただけでは、レンジローバーとよく似たエクステリアデザインが施されている。ブラックアウトされたピラーや、ひさしのように突き出たルーフエンドなど、レンジローバーの造形的な特徴も引用しているから、よく似ている。

しかし、レンジローバー スポーツのシャシは、ディスカバリーと共通のインテグレーテッド・ボディ・フレーム構造を採用している。スタイリングの文脈はレンジローバーで、シャシ構造はディスカバリーというねじれのようなものを発生させている。

ここで、レンジローバー スポーツに興味を持ち始めた人は、同時に疑問も抱くことになるだろう。レンジローバー スポーツとは、いったいどんなクルマなのか、と。日本市場向けには、レンジローバースポーツのエンジンは2種類用意される。ジャガー製の4.4L自然吸気と4.2Lスーパーチャージャー付きのV8だ。チューンが異なって、レンジローバーよりも最高出力と最大トルクが少ないが、基本的には同じエンジンだ。トランスミッションはZF製6速AT。

サスペンションのスプリングにエアを用いるところはレンジローバーと共通するが、フロントがレンジローバーがストラットなのに対し、スポーツはダブルウイッシュボーンになる。

最も大きな違いは、ボディがひと回りレンジローバーから小さくされていることだ。155mm短く、25mm細く、90mm低い。ホイールベースも135mm短い。並べてみると、スポーツの小ささは一目瞭然だ。引き締まって、若々しく見える。

運転しても、小さなボディのクルマを運転していることは体感できる。レンジローバーよりも自分の身体により近いところにタイヤがあって、クルマが動いている感覚だ。

レンジローバー スポーツの軽快感を際立たせているのは、小型化されたボディのせいだけではない。V8エンジンのパワーとトルクによるところも大きい。スーパーチャージャー付きで390ps、自然吸気版で299psという最大出力は、ひと昔前だったらスーパースポーツのものだ。重量が2.5トン前後もあるとはいえ、これで速くないわけがない。

速く、機敏な走りっぷりを支えているのは、スーパーチャージャー付きに標準装着されている「ダイナミック・レスポンス」システムだ。油圧モーターでアンチロールバーの硬さを変え、コーナリング時にロールを抑える。この効果は大きく、大型SUV特有の揺れが収まる。このシステムが付かない自然吸気版との違いは小さくない。SUVらしいロールを伴った鷹揚な乗り心地にも捨て難いものがあるが、速さを考慮すると必須の装備かもしれない。

シャシ構造を同じくするディスカバリーとの違いは、静粛性の高さと路面からの細かなショックの吸収性の高さだろう。ディスカバリーもSUVとしては上質なのだが、レンジローバー スポーツの方が一枚上手だ。

その基準で、さらに二、三枚上手なのがレンジローバーである。レンジローバーは、高級サルーンにも引けをとらない快適性を備えている。

これまでレンジローバーは、高い位置にドライバーを座らせ、ボディの四隅がよく見える「コマンドポジション」という考え方にもとづいてインテリアの設計がなされていたが、それはレンジローバースポーツでも健在だ。シートの背もたれを立ち気味にして着座すると、シックリくる。

インテリアの造形はレンジローバーに近い。さまざまな色と素材を巧みにコーディネートしたレンジローバーほど贅沢ではないが、プラスチック部品を多用したディスカバリーよりは大きく離れている。

レンジローバー スポーツについて述べ始めると、どうしてもレンジローバーとディスカバリーとの比較になってしまう。両車の間に割り込ませるようにして企画されたクルマだからだ。

さらってみれば、レンジローバー スポーツのプレミアム性とは、そのボディサイズの小ささとエクステリアデザインとインテリアにある。

細かな差や違いが多いが、決定的なものには至っていない。「似ているけれども、違う」というところにどれだけの価値を見出せるか。そこに、レンジローバー スポーツの価値も掛かっているのである。

SUVしか作らないからここまでパフォーマンスに磨きが掛かっているのだろうし、SUVしか作らないから、ニッチにニッチを重ね合わせたような一見するとわかりにくいクルマが成り立った。そう考えると、レンジローバースポーツは現在のランドローバー社を象徴する1台だと言えるだろう。(文:金子浩久/Motor Magazine 2006年4月号より)

画像: レンジローバーらしい個性を見せながら、走りはかなりスポーティ。BMW X5、ポルシェ カイエンあたりを意識したようにも思える。

レンジローバーらしい個性を見せながら、走りはかなりスポーティ。BMW X5、ポルシェ カイエンあたりを意識したようにも思える。

ヒットの法則

レンジローバー スポーツ スーパーチャージド(2006年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:4795×1930×1810mm
●ホイールベース: 2745mm
●車両重量:2590kg
●エンジン:V8DOHCスーパーチャージャー
●排気量: 4196cc
●最高出力:390ps/5750rpm
●最大トルク:550Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:1090万円(2006年当時)

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