大きな注目が集まる中、いよいよポルシェ ケイマンSが上陸した。「911を凌駕してしまうのか」、「ボクスターのクーペ版なのか」「なぜSモデルが先行して登場するのか」「刺激的なのか、感動はあるのか」。さまざまな期待と疑問を胸にした、国内初試乗記を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年3月号より)

ボクスターとの違いをさまざまな場面で感じられる

南米に棲息するワニの名を戴いたポルシェ第4のモデル、ケイマンがいよいよ日本上陸を果たした。いや正しくは、デバリーが開始されたのはケイマンS。とりあえず今のところポルシェからは何のインフォメーションもないが、あとになって素のケイマンが追加されるのは既定路線である。

そんなラインアップもそうだが、もっと興味を惹くのが、ケイマンは一体誰のためのポルシェなのかということだ。まず、それが「ボクスター・クーペ」のような位置付けではないということは明らかである。

確かに内容はそれに近くとも、その名を使わなかったということは、つまりポルシェは違うポジションを与えたかったのだと想像できる。では、やはり多くの期待の通り、ミッドシップ+クローズドルーフの優れた素性を活かした、911を凌駕するリアルスポーツなのか。けれど、そう考えるとボディ剛性の面で不利なテールゲートを持つのは不自然だ。さらに、ボクスタより上、911より下の微妙な排気量の意味は何なのか。

……と、乗る前からアレコレ想像を喚起するケイマンSだが、その答を知るには、やはり実際に見て、そして乗ってみるしかない。

現実世界でようやく対面を果たしたケイマンSは、事前に写真やショー会場で見たよりもカッコ良く思えた。よりノーズが長くリアフェンダーが隆起して見えるが、実際は真横に並べてもボクスターとの差はほとんどない。丸みを帯びたルーフや、薄く平らなリアゲートが効いているのだろうか。

ドライバーズシートからの景色はボクスターと共通だ。けれど、ギアを入れて走り出すと、その瞬間にもはや違いが伝わる。ボディの剛性感が格段に高いのである。それはボクスターにはないオプションの19インチタイヤを履いても、なお「良い」と評せる乗り心地や、ステアリングの切り始めの微妙なしっかり感など、あらゆる部分で伝わってくる。ボクスターに不満などなかったのに、やっぱりポルシェはコレだよな、なんて思ってしまう。

続いて強い印象をもたらすのはエンジン。ボクスターSの3.2Lに対して3.4Lの、15psパワーアップしたフラット6ユニットは、低回転域から明らかにトルクフルで、とても走りやすいのだ。正しくは208ccの排気量の差は、思った以上に大きい。

と、思いきや、ペースを上げていくと別の面にも気付く。回転の高まりとともにサウンドのクリア度が増し、トップエンドまで突き抜けるように吹け上がる様はさすがの快感だが、その一方で、よく観察するとパワー感自体は全域で比較的フラットなのだ。

考えてみれば、先代911初期型と同じ3.4Lの排気量にバリオカムを付けて、最高出力は5psとはいえ負けるのはおかしな話。やはり、ここは様々な配慮が働いていると見るのが妥当だろう。

簡単に言えば、300psから上は911の領域だという棲み分けである。けれど、数字は単なる結果であり、別にそれは大した問題ではない。もっと重要なのは、これはこれでさらなる扱いやすさと相変わらずの刺激を両立させた、ひとつの新たな世界を形づくっているということである。おそらくマッチングは相当良いだろうティプトロニックも、早く試してみたいものだ。

では、一番の関心事項であるハンドリングはどうか。先にも書いたボディの高い剛性感と、それが可能にした硬めのサスペンションによって、操舵やアクセルのオンオフなどあらゆる操作に対するレスポンスは、実にタイトだ。けれど逆に、日常で感じる軽快感ではボクスターに分があるとも感じた。言うまでもなくルーフという高い位置にある重量物がないせいである。

画像: 2006年、ようやく日本上陸を果たしたポルシェ ケイマンS。ミッドシップとクーペボディの組み合わせは1953年のポルシェ550クーペを起源としている。

2006年、ようやく日本上陸を果たしたポルシェ ケイマンS。ミッドシップとクーペボディの組み合わせは1953年のポルシェ550クーペを起源としている。

911の価値を再確認させてくれるケイマンS

けれど、もっともっと真剣に攻め込んでいくとなれば、やはりケイマンSのタイトさは武器となる。実際、ステア応答のシャープさは、あるいは911をも凌ぐかもしれない。重量物が車体の中心近くにあるミッドシップだけに、それも納得。一方、911のリアの蹴り出すようなトラクション感は、ケイマンSには望むべくもないが、その分、よりフレンドリーな特性だとも言えるはずだ。

僕くらいの腕では911のあの重いリアを思うままにするのは簡単じゃない。そこへ行くと、ミッドシップで前後重量配分に優れ、後輪荷重が小さいためリアの接地感がやや甘く、ホイールベースも長い上に挙動が引き締まったケイマンSは、911よりも限界に近付きやすいのだ。

ちなみに付け加えておけば、ケイマンSは高速巡航時の快適性も911より高いと思えた。これは前後重量配分が適正でホイールベースが長いおかげに違いない。

意図的に抑えたのか? とも思えるエンジンパワーも、そんな走りやすさに繋がっている。295psのパワーとこのシャシの組み合わせは、扱いきれないほどではなく、けれど物足りなくもない良い案配。ワインディングでも思いきり踏んで楽しめるのである。そんなわけでケイマンS、走りは大いに楽しめた。あるいはコレ、日本の道でリアルスポーツとして楽しむには911より向いているかもしれない。

もちろん、その遥か先の高みを目指して自己研鑽に励みたくなるのが911の魅力なのは改めて言うまでもないとして、それとは違う楽しさがケイマンSには確かにある。個人的には、近く登場するだろう3L(?)の素のケイマンに17インチ辺りのタイヤの組み合わせなんて、もっと期待してしまう。

そう、ケイマンSはとても日本に向いている。2人乗りで構わなければという条件付きだが、使い勝手の良い大きなハッチゲートと前後計410Lものラゲッジスペースを持ち、またセキュリティの面で心配のないクローズドルーフなだけに、複数台所有が叶わず駐車場事情も良くない都市部のユーザーにとっても、ケイマンは十分に選択肢に入れられるのではないだろうか。

さらに、テールゲートを持つスタイリングは、存在として良い意味での軽みにも繋がっている。未だ世間では遊び人っぽく見られがちなオープンではなく、社会的成功やら何やらの証である911でも、もちろんない。最初に書いた通り、リアルポーツとは一線を画する適度な力の抜け具合も感じさせる。背負うものが小さく毎日気軽に乗れるケイマンSは、言わば21世紀のカジュアル・ポルシェ。あるいは昔の924や944に反応したような層にも響くんじゃないかと思うのだ。

そう考えていくと、ケイマンSは登場するや、すでに自らのポジションをしっかり確立しているように見える。ただし、これが911に代わるものではないのも、やはり確かだ。極端な話、誰だってケイマンSを極めたなら、次にはやはり911を乗りこなしてみたいと思うのではないだろうか。

そういう意味で、911の価値の再確認までさせるケイマンSだが、それというのも911ともボクスターとも違う独自のキャラクターを生まれながらに確立しているからこその話。ケイマンSはフリークを悩ませるだけでなく、きっとこれまでのポルシェでは捉えられなかった新たなオーナー層を開拓することになるに違いない。(文:島下泰久/Motor Magazine 2006年3月号より)

画像: ケイマンSのインテリア。アダプティブシート(オプション)はバックレストと座面左右のサイド部を空気圧で調整可能。ボクスターS(6MT)と比較して全長+10mm、全高+10mm。ホイールベースは同じ。

ケイマンSのインテリア。アダプティブシート(オプション)はバックレストと座面左右のサイド部を空気圧で調整可能。ボクスターS(6MT)と比較して全長+10mm、全高+10mm。ホイールベースは同じ。

ヒットの法則

ポルシェ ケイマンS(2006年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:4340×1800×1305mm
●ホイールベース:2415mm
●車両重量:1380(1410)kg
●エンジン:水平対向6気筒
●排気量:3387cc
●最高出力:295ps/6250rpm
●最大トルク:340Nm/4400~6600pm
●トランスミッション:6速MT(5速AT)
●駆動方式:MR
●車両価格:777万円(819万円)※2006年当時

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