初代BMW1シリーズ(E87)がドイツで発表されたのは2004年のこと。Cセグメントでは実用面を重視してFFとするのが常識であったが、BMWはFRレイアウトであることで走りを追求してプレミアムであることを主張、確かな存在感を示すことに成功した。そして2005年秋にはそのコンパクトなボディに3L直6エンジンを搭載した「130i」を投入している。そしてこのモデルの発表が、1シリーズの地位を確実なものにしていくことになる。それはどういうことなのか。Motor Magazine誌では、130iを中心に、1シリーズのスポーツ性についてじっくりと検証している。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年1月号より)

プレミアムな存在の1シリーズに追加された特別なモデル

個人的な話だが、実は2004年BMW1シリーズがデビューした時、僕はその購入を真剣に検討して当初導入された120iで見積もりを取っていた。結局、やはりMTじゃないと……という思いなどもあって購入はやめたのだが、今でも1シリーズは機会があれば自分のものにしたいと願うクルマの上位にランキングされている1台である。

それは単にサイズがちょうどいいとかFRだとかいうだけでなく、それが今までにない新しいジャンルを切り拓くクルマだと感じたからに他ならない。

BMW1シリーズ、価格はこのセグメントの中では飛び切り高価なクルマである。2L NAエンジンを積む120iは素の状態で370万円。似たようなところでアウディA3スポーツバック2.0FSIも339万円するが、それでも差は30万円以上ある。さらに、ゴルフGTなら299万2500円で買える。けれど120iというか1シリーズは、相対的にはともかく絶対的には、ちっとも高価だと思わせない。

それまでのCセグメントカーのプレミアム化は、要するに内外装の仕立てが高級になり、装備が豪華になって、かつ値段はそれほど変わらないというものだった。ところが1シリーズは、しっかり高いお金を取り、それを納得させる。要するに、このサイズでこの価格に見合うと誰もが認める内容を、1シリーズは、もしかしたら初めて備えたということ。言い換えれば、本当の意味でプレミアムなCセグメントカーが遂に登場した。そう感じたのだ。

そんな1シリーズに、満を持して追加されたのが130i Mスポーツである。これまた個人的には、またもグラリとしてしまう1台。何しろ搭載されているエンジンは、330iに搭載されて新しいBMWエンジンの目指す新しい方向を明確に指し示したマグネシウムブロックの3L直列6気筒。ギアボックスには待望の6速MTが組み合わされる。また、熟成著しいアクティブステアリングも、1シリーズで初めてオプション設定されるなど、いま考えられるBMWの旨味のすべてが、そこに詰まっているのだから。

日本仕様では標準設定となるMスポーツの外装パーツを纏い、専用のルマンブルーで塗られた外観の第一印象は、写真で想像したよりはるかに良かった。大幅に増しているはずの吸入空気量を想起させるフロントのロアグリル形状にしても、下半分をディフューザーっぽくしたリアバンパーにしても、特別なデザインではないが確かな凄みがある。しかもMスポーツサスペンションのおかげで車高は15mm低いのだ。これで格好良くないハズがない。

そして、うまいなぁと思わず唸ってしまうのが、この130iの登場に合わせて、他グレード用にもMスポーツパッケージが設定されたことである。

こうすれば130iの姿とうまくリンクして、単品で世に出るよりもはるかに強力なイメージを打ち出すことができる。これも至極真っ当な戦略だが、やはりよく考えているなと思わずにはいられないのである。

ドアを開け、上質なボストンレザーが張られたスポーツシートに身体を滑り込ませる。ステアリングホイールやシフトノブはMスポーツ専用。早速、そのグリップ部分がディンプル加工されたステアリングホイールに手をかけると、リムが柔らかな握りでちょっと驚いた。

BMWのステアリングと言えば、割と細めで革をギュッとキツく巻いたものが定番。それが最近ではリムがどんどん太くなっていて、特にMスポーツは僕の手だと持て余すなと思っていた。ところが、このステアリングホイールは握りは太いのに、その柔らかさゆえに手がしっくり馴染む。個人的に、レザーをキツく巻いた細身の握りが好みだったのだが、これは良いなと思った。さすがM社の仕事だ。

画像: 130i M-Sportと118iのテストを担当した島下泰久氏。130i MSportは、2005年10月4日、日本に導入が開始された。

130i M-Sportと118iのテストを担当した島下泰久氏。130i MSportは、2005年10月4日、日本に導入が開始された。

溢れ出る低速トルクがMTとの相乗効果を生む

重めのクラッチペダルを踏み込み、ゴツいシフトノブを握りギアを1速に。動きは少々渋いが、それは仕方ない。何しろこのクルマ、おろし立てでまだ数百kmしか距離を重ねていないのだ。いたわるように、けれど慣らしも兼ねて大胆に走らせることにする。

発進させる瞬間、まず驚き、そして嬉しく感じたのが、溢れるほどの低速トルクだ。平坦な道ではもちろん、多少の上り勾配でも左足を浮かせさえすれば、むずがることなくスッと車体が前に出る。踏み込みは重いと感じたクラッチペダルも、スプリングの設定が絶妙で、徐々に戻していくのも苦ではない。このダイレクトな駆動の伝達感は、よく出来たMTならではの歓びだ。

それにしても分厚いトルクだ。街中では3速に入れておけば事実上、シフトノブに触る必要はないくらい。4速50km/h、エンジン回転数が1500rpm近くにまで下がっても、そこから踏んでいけばスルスルと速度を上げていくフレキシビリティは驚異的だ。

そして、この時から耳に届いていた野太いエグゾーストノートからも想像できたように、さらにその先にはめくるめく世界が待っている。回転上昇に比例して絞り出される265psのパワーは1450kgのボディをみるみる加速させる。

100km/h時のエンジン回転数は、6速:2400rpm/5速:2800rpm/4速:3500rpm/3速4700rpmと低めのギア比も、それに貢献しているのは間違いない。あり余るパワーはシフトアップの度にDSCのランプを点滅させ、DTCモードで落ち葉舞うコーナーで乱暴に踏み込んだら、リアがズバッと滑った。そんな具合で扱いには慎重さが必要だが、それは痛快でもある。

正直に言えば、エンジンは渋さが取り切れず、トップエンドの伸びはまだまだという感じはあった。けれど、今回の500km程度のドライブでも滑らかさは増していったから、きっと気持ち良さはさらに高まっていくはずだ。

試乗車には1シリーズ初のアクティブステアリングがオプション装着されていた。まず気付いたのは、3シリーズの場合と同じく装着するとステアリング中立付近のねっとりした重さが緩和され、手応えが素直になるということだ。もちろん動きは軽快感がさらに際立つ。このサイズでアクティブステアリングが果たして必要か?と最初は考えたし、なくても困らないとも思う。

けれど、もはや特有の違和感も解消されているだけに、あって困ることは何ひとつなく確実に歓びは増す。これは当然、街中での走りやすさにも効いている。そして130i Mスポーツは乗り心地も悪くない。

1シリーズと言えば、特に導入初期には歯を食いしばるほどの鋭い突き上げがあったものだが、この130iは、確かに硬めとは言え以前よりはるかにうまく大入力をいなすようになったのだ。

実は、これは1シリーズ全体に共通する進化である。今年頭に登場した116i/118iは、特にこの乗り心地の面で大幅な進化を果たしていた。それは、やはりタイヤの銘柄が多くなったせいもあるが、大きいのは、やはり急激に熟成が進んだということなのだろう。

実際のところ、118iや116iに乗ると、最初に乗った120iより明らかにステアリングフィールが心地よい。内装もまったく変わっていないようで、どこか精度感が増して見える。おそらく今120iに乗っても、同じように進化しているはずだ。

さらに、これらを含めて1シリーズを考えた時、さすがだなと唸らされるのは、どれに乗っても各々に走りの世界がしっかり完結しているということである。たとえば116iなど、排気量もパワーも130iの半分ほどでしかないのに不満に思うことはない。パワフルだとは思わないが使い切れる楽しさ、歯切れの良い身軽さが確かにある。

それが118iになると、実用域の充実したトルクで余裕をもって流すことができるし、120iなら積極的に踏んでいって気持ち良いシャープさに浸ることができるという具合だ。

その一方でいずれにも共通しているのは、その走りっぷりが明確にスポーティさを感じさせる躾となっていることだ。確かにBMWはどれもそうだが、例えば3シリーズと較べた場合、ステアリングのダイレクト感にしても、操舵してから後輪が絶妙に回り込んでクルマ全体で旋回態勢に入っていくまでの間合いにしても、すべてが素早くキレがいい。

3シリーズは、それだって十分過ぎるほどスポーティなセダンだが、1シリーズとの対比では、より挙動はしなやかで、その中にスポーツ性を内在させているように感じる。ホイールベースこそ違えどコンポーネンツは基本的に同じはずなのに、これだけしっかり性格分けができているのは、要するに何を作りたいのかが最初から明確だったということだろう。

画像: 130i MSport。Mフロントスポイラーやサイドスカート、スポーツサスペンションなどが装備されるが、他1シリーズに設定されたM-Sportパッケージ装着車と外観上の違いはわずかに「130i」のエンブレムだけ。

130i MSport。Mフロントスポイラーやサイドスカート、スポーツサスペンションなどが装備されるが、他1シリーズに設定されたM-Sportパッケージ装着車と外観上の違いはわずかに「130i」のエンブレムだけ。

明快なスポーツだからこそ他グレードにもMTが欲しい

しかし、そうだとわかると現状には物足りないところも出てくるということは言っておかなければならない。今回130i Mスポーツに乗り、他の1シリーズや3シリーズと較べて考えて改めて思ったのは、1シリーズはもっとMT車を設定すべきではないかということだ。

今回の130i Mスポーツの好印象には、率直に言ってMTだったという作用も小さくない。それは感情的な理由ではなく、特有の歯切れ良くダイレクトな走りっぷりが、1シリーズの走りの世界をこれまで以上にクリアに見せ、そして今まで以上の感慨をもたらしたからこそだ。

130i Mスポーツも、内容を考えれば120iとの価格差は小さ過ぎると感じるものの、絶対的にはやはり安価なクルマではない。それだけに、たとえば116iや118i、そして120iにこそMTの設定があれば、より多くの、幅広い層にBMWの深遠な世界を見てもらえるはずだし、1シリーズの位置付けもより明快になるはずだ。数はそう出ないだろうが、そこに有るということだけでも、BMWブランドのイメージにとってプラスになる部分は少なくないと思う。何しろ彼らは『駆けぬける歓び』をこそ前面に掲げているのだから。

とは言え1シリーズ、現状でも素晴らしいクルマだ。パッケージングから何からこれほど個性的で、走らせて楽しいクルマは他にはそうそうない。それはもう、このセグメントでは……なんて議論を超えて、真の意味でのライバルなど、もはや存在しないと思うほどだ。130i Mスポーツの登場は、そんな1シリーズの魅力と実力を、あらためて認識させてくれたのである。(文:島下泰久/Motor Magazine 2006年1月号より)

画像: 118i。新たに登場した130i以外の1シリーズは直4DOHCエンジンとなる。116iは1596cc、118iと120iは1995cc。

118i。新たに登場した130i以外の1シリーズは直4DOHCエンジンとなる。116iは1596cc、118iと120iは1995cc。

ヒットの法則

BMW 130i M-Sport(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4240×1750×1415mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1430kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:265ps/6600rpm
●最大トルク:315Nm/2750rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FR
●車両価格:487万円

BMW 118i(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4240×1750×1430mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1360kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1995cc
●最高出力:129ps/5750rpm
●最大トルク:180Nm/3250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:329万円

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