2005年、ゴルフGTI、ゴルフGTと立て続けにスポーツモデルをラインナップに追加したゴルフⅤ。その狙いはどこにあるのか、そこにフォルクスワーゲンが考えるスポーツ性とはどのように表現されているのだろうか。それを探るべく、Motor Magazine誌では「フォルクスワーゲンの強調するスポーツ性を追求する」というテーマを持ってドイツ取材を敢行、当時最新のゴルフのスポーツモデル4車にあらためて試乗し、各モデルの性格の違いと真意、その背後にあるフォルクスワーゲンの企業哲学を検証している。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年12月号より)

GTIを中心に広がるゴルフのスポーツ戦略

フォルクスワーゲン、このヨーロッパで最大の自動車メーカーは、全グループの生産台数を合わせると、昨年2004年に西ヨーロッパで272万台あまりの自動車を送り出した。

しかも昨年2004年から今年2005年にかけては、フォックス/ゴルフGTI/新型パサート/ゴルフR32など、続々とニューモデルを市場へと投入してきている。新機軸のパワープラントを備えるゴルフGTも発表されたし、フランクフルトモーターショーではオープンモデルのイオスを、そして東京モーターショーではポロGTIを発表と、一気に攻勢をかけてきている。興味深いのは、それぞれニューモデルが発表される場で、必ず「スポーツ性」が強調されていることだ。

そこで今回は、「フォルクスワーゲンの強調するスポーツ性を追求する」をテーマに取材、フォルクスワーゲン本社から最新のゴルフのスポーツモデル4車を借り出した。まずはその特徴をあげてみよう。

■ゴルフGTI

200psを発生する2Lのガソリン直噴ターボエンジンを搭載した、ゴルフの主力スポーツモデル。「ゴルフGTI」は、フォルクスワーゲンでもっとも歴史と伝統のある代表的なスポーツグレードである。

初代のゴルフGTIは1976年に1.6L/110psのエンジンを搭載してデビューしているが、当時まだこうしたスポーツモデルの市場に慎重だったフォルクスワーゲンは、販売台数を5000台に限定。ところが、当時、驚異的な最高速182km/hという性能を持ったハッチバックのスポーツモデルは存在しておらず、GTIは瞬く間にカルト的な人気を備えたクルマに成長していく。そしてその後継モデルを含めて、これまでに実に150万台のGTIが幸運なユーザーのもとに運ばれていった。

最新ゴルフGTIの性能は、0→100km/hが7.2秒、最高速度は235km/hと、やはりこのクラスではほとんどトップの性能を有する。それと同時に日常性を重視し、たとえば60→100km/hの中間加速は5速で7.5秒と、その実用性の高さと使いやすさは伝統的に残されている。

しかもこのゴルフGTIは、ベースになったゴルフが備えている「ユニバーサル」な、正確には「クラスレス」の香りをもっとも強力に漂わせており、オーナーのガレージにたとえポルシェやフェラーリが並んでいても誰もが納得できるという存在価値を持っている。もはやゴルフGTIは文化であり、「GTI」という3文字のアルファベットは、コンパクトスポーツモデルの代名詞となっているほどでもあるのだ。

画像: ゴルフGTI。ゴルフのスポーツモデルの象徴。FFホットハッチの代名詞的存在でもある。

ゴルフGTI。ゴルフのスポーツモデルの象徴。FFホットハッチの代名詞的存在でもある。

■ゴルフR32

ゴルフファミリーの中でもっとも新しく仲間に加わったモデル。R32は2003年に先代ゴルフにおけるアブソルートなトップモデルとして初めて登場した。まさに初代GTIのときのようにフォルクスワーゲンはおよそ5000台という販売目標を立てたが、その人気は予想した数字を大きく上回り、目標台数の3倍に当たる1万5000台が販売された。

そしてこの人気を確信したフォルクスワーゲンは、改めて先代R32の後継モデルを登場させたのである。しかし、前任モデルがそうであったように新型においても、R32は他のブランドにあるような単なる豪華な旗艦(フラッグシップ)モデルではない。あくまでも、スポーツ性をアブソルート(絶対的に)に求めたモデルなのである。

このモデルのためだけに用意された3.2L V型6気筒エンジンは、最高出力250psを発生し、最大トルクは320Nmにも達する。そしてゴルフの4WDモデル「4MOTION」に搭載されているハルデックスクラッチが採用され、4輪にパワーを伝達する。R32はフォルクスワーゲンが多くの様々なスポーツドライバーに向けて提供する、オールマイティなスポーツゴルフ、そのトップモデルなのである。

また逆台形のフロントグリルを強調する、いわゆる「ワッペングリル」のクロームフレームを新たに導入したゴルフR32は、デザイン面でも新しいフォルクスワーゲンのシンボルとなっている。

「絶対的なパフォーマンス」「特筆されるべき日常性」「完璧なまでの品質と装備」「全天候型のマシン」といった、様々な要求を持った贅沢な人たちからの要求に応えることのできる、スーパーゴルフなのである。

画像: ゴルフR32。V6エンジンを搭載したスペシャルモデル。4WDであることも特徴。

ゴルフR32。V6エンジンを搭載したスペシャルモデル。4WDであることも特徴。

■ゴルフGT(TSI)

最新のツインチャージャー式エンジンを搭載したゴルフGTは、フォルクスワーゲンの合理的スポーツ性を代表するモデルである。1.4LのFSI(ガソリン直噴)エンジンは、スーパーチャージャーとターボチャージャーの組み合わせによって最高出力170psを6000rpmで、そして最大トルク240Nmを1750-4500rpmという広い範囲で発生する。

しかも発表された燃費は、1リッターあたり13.9km。つまり1.4Lの排気量から1.6L並みの燃費で2.3Lに負けないパワーを与えられたエンジンというわけなのである。

その特徴は、アイドリングからおよそ3500rpm付近までの過給を行うスーパーチャージャー、そしてその上の回転域での過給をターボチャージャーがカバーするというツインチャージャーが採用されることだ。

これまでこの形式は、ランチアやニッサンで試みられてはいるものの、システムが複雑となり、それに伴って重量もあったため、後に現れた可変タービンブレード付きのターボチャージャーにとってかわられてしまった。しかしフォルクスワーゲンでは、両過給器のマッチングを再検討して新たに解決策を発見、市販化を決定したのである。

今回のテストで感銘したのは、やはりそのパワフルなエンジンと走りの軽快さである。わずか1.4Lだから当然すべてのパーツ、そして補機類も軽い。そのために、スロットルを踏み込むと、何のためらいもなくエンジン回転が上昇していく。スーパーチャージャーとターボチャージャーの切り替えもまったくスムーズで、一体どこまでをスーパーチャージャーが受け持っていたのかもわからない。もちろん、ターボラグとは無縁だ。

フォルクスワーゲンはこのTSIエンジンをこれからトゥーランを始めとする様々なモデルへと展開しようと考えており、それによってブランドとしての「合理的スポーツ度」の平均値はさらに上昇するものと期待される。

画像: ゴルフGT TSI。1.4L直噴ターボ+スーパーチャージャーを搭載した「新時代FFスポーツ」。

ゴルフGT TSI。1.4L直噴ターボ+スーパーチャージャーを搭載した「新時代FFスポーツ」。

■ゴルフ2.0TDI

最後に、参考のためにテストした2.0TDIについても触れておかなければならない。今日の乗用車用アドバンスド・ディーゼルエンジンの基礎を作ったのは、フォルクスワーゲンのTDIエンジンである。

1993年6月に登場した直噴式のターボディーゼルエンジンは1.9Lの排気量から90psという、当時のスタンダードであったターボディーゼルエンジン(75ps)に比べると格段のパワーとドライバビリティを持って登場した。そしてもちろん、燃費にも優れていたので、あっという間に市場へ普及していった。

その後、このディーゼルエンジンにおける「低中回転域のトルクの太さ」こそが、高回転型のガソリンエンジンとは違った意味での「スポーツ性」を呼び起こすこととなり、「GTD」なるディーゼルエンジンのスポーツモデルまで誕生したのだ。

もちろん、ディーゼルエンジンは現段階で完成し尽くされているわけではなく、今回の東京モーターショーにおける「エコレーサー」のような形(小排気量のツインチャージャー式TDIエンジン)でも、さらなる新しい可能性が探られているのだ。

画像: ゴルフ2.0TDI。高回転型のガソリンエンジンとは異なるスポーツ性をアピール。

ゴルフ2.0TDI。高回転型のガソリンエンジンとは異なるスポーツ性をアピール。

カッコ良いことは絶対条件、そしてそれぞれの存在価値

ここまで各モデルの性格の違いと狙いを説明してきたが、なぜフォルクスワーゲンは「スポーツ精神」にこだわっているのだろうか。

その理由のひとつは、ヨーロッパの人々は「移動の質」というものに非常にこだわっているということだ。中でもっとも求められているのは、「速く、安全に、そして快適に目的地への到着を約束してくれる」ということなのである。

しかし、実用一点ばりのエンジン性能を持った真四角な移動ボックスを欲しいとは誰も思わないだろう。彼らは贅沢なことに、クルマと共にそこに投影される自分がカッコ良くなければ納得しないのである。これは、ヨーロッパでは老若男女を問わない。それを実現してくれるのが、本来は「スポーツカー」という存在なのである。

しかしこの高価でエゴイスティックな乗り物は、経済的、あるいは社会的に余裕のある人以外にとってはアフォーダブルな存在ではない。つまり、多くの人にとってそれは購入できないものなのだ。すると、自分の選択肢の中から少しでもスポーティなクルマを探すということになるわけだ。そのときの判断はやはり、スポーツカー、あるいはスポーティなクルマを作っているメーカーを探すことからまず始まる。スポーツカーやスポーティなクルマを作っていないメーカーは、この時点で除外されてしまうのだ。

それゆえに社名が「国民車」を意味している「フォルクスワーゲン」にとって、自らのスポーツスピリットを高々と掲揚することには、大変重要な意味があるのだ。しかしフォルクスワーゲンのスポーツ性は、国民車(フォルクスワーゲン)であるがゆえに、BMWが目指すものとは違っていなければならない。それは、対象としているユーザーの数が3倍近くも多く、そしてその層も広範囲だからである。

フォルクスワーゲンが市場に送り込むスポーツスピリットを備えたクルマとは、(当面のところ)ゴルフGTIのように比較的財布の軽い若者を狙ったライトウエイトスポーツコンパクトであり、大パワーモデルとしては、それを前後輪へと伝えるR32が代表モデルとなる。これを要約すれば、「合目的であり合理的なスポーティカーが、フォルクスワーゲンのスポーツモデル」なのだ。

もちろん将来的には、イオスを始めとするさらに一段進んだ「スポーツ性」を標榜するクルマが登場する可能性は大いにある。こうしたクルマが一般ユーザーにとって支えとなり、フォルクスワーゲンへの傾倒を促し、ロイヤリティを強めるからだ。

「スポーツ性を通じて、多くのユーザーに愛されるべきクルマ作り」、それこそがフォルクスワーゲン・スポーツスピリットの本質なのである。(文:木村好宏/Motor Magazine 2005年12月号より)

画像: ゴルフR32(左)とゴルフGTI。R32はセンター2本出しマフラーが特徴。

ゴルフR32(左)とゴルフGTI。R32はセンター2本出しマフラーが特徴。

画像: ゴルフ2.0TDI(左)とゴルフGT。TDIはマフラーをあえて見得ないようにしている。

ゴルフ2.0TDI(左)とゴルフGT。TDIはマフラーをあえて見得ないようにしている。

ヒットの法則

ゴルフGTI エンジン主要諸元

●エンジン形式:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●ボア×ストローク:82.5×92.8mm
●圧縮比:10.5
●最高出力:200ps/5100rpm
●最大トルク:280Nm/1800-5000rpm
●平均燃費:12.6km/L(EU総合)
●CO2排出量:199g/km
※欧州仕様

ゴルフR32 エンジン主要諸元

●エンジン形式:V6DOHC
●排気量:3189cc
●ボア×ストローク:84.0×95.9mm
●圧縮比:10.9
●最高出力:250ps/6300rpm
●最大トルク:320Nm/2500-3000rpm
●平均燃費:10.3km/L(EU総合)
●CO2排出量:233g/km
※欧州仕様

ゴルフGT エンジン主要諸元

●エンジン形式:直4DOHCターボ+SC
●排気量:1390cc
●ボア×ストローク:76.5×75.6mm
●圧縮比:10.0
●最高出力:170ps/7000rpm
●最大トルク:240Nm/1750-4500rpm
●平均燃費:13.8km/L(EU総合)
●CO2排出量:173g/km
※欧州仕様

ゴルフ2.0TDI エンジン主要諸元

●エンジン形式:直4DOHCディーゼルターボ
●排気量:1968cc
●ボア×ストローク:81.0×95.5mm
●圧縮比:18.5
●最高出力:140ps/4000rpm
●最大トルク:320Nm/1750-2500rpm
●平均燃費:10.3km/L(EU総合)
●CO2排出量:159g/km
※欧州仕様

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