前作『四月の永い夢』がモスクワ国際映画祭で2つの賞を受賞した中川龍太郎監督の新作『わたしは光をにぎっている』。
今作を“翔べない時代の魔女の宅急便”と語る中川龍太郎監督のインタビューをお届けする。

デビュー作からこれまで海外の映画祭で数々の賞を受賞し、フランスの一流映画誌カイエ・デュ・シネマからその鋭い感性を絶賛され、前作『四月の永い夢』がモスクワ国際映画祭で2つの賞を受賞した中川龍太郎監督。今作では特別な才能があるわけではないけれど、都会の中で居場所を見つけながら現代を生きる若者の姿を描いている。
主人公の澪をTBS日曜劇場「この世界の片隅に」の松本穂香が演じ、渡辺大知や徳永えり、吉村界人、忍成修吾といった若手実力派俳優、更にベテラン俳優の光石研、樫山文枝といった素晴らしい役者達が集結して温かい物語を紡いでいる。

親友との思い出の場所が無くなってしまった違和感や、
悔しい気持ちがこの映画を作る原動力でした

ーー監督のオリジナル脚本になりますが、今作にはどんな思いを込められたのでしょうか?

「大学時代に僕に映画を教えてくれた親友が、大学を出たあと自殺しました。そのことをモチーフに『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(15年)と『四月の永い夢』(17年)という映画を作りました。その後、亡くなった彼とよく飲みに行っていたお店が都市開発で取り壊されていき、自分の中で友人との関係が二度にわたって切断された気持ちになりました。

もしもそのお店がずっと営業し続けていたら、彼を知らない友人と飲みにいっても“むかし親友とここに来てたんだよ”という会話もできますが、そのお店が取り壊されたことで亡くなった親友が、僕の記憶の中だけに閉じ込められてしまうような気がしたんですよね。そういうことへの違和感や悔しい気持ちがこの映画を作る原動力になっていました」

ーー場所に大切な人との思い出が残って、それを他の人とも共有したいといういうのは凄くわかります。それに自分が死んだあともその場所を知っている誰かが共有してくれるかもしれないという安心感もありますよね。

「そうなんですよね。ある場所にいくと匂いや音といったちょっとしたものでも過去の記憶を思い出します。自分が死んだあと、逆に自分が生まれる前を繋ぐ存在として場所というものの重要性はあると感じます。場所との接続があるから、未来の世代に少しでもいい想いや社会を残そうという気持ちも芽生えるのではないでしょうか」

画像1: 親友との思い出の場所が無くなってしまった違和感や、 悔しい気持ちがこの映画を作る原動力でした

ーー澪という役には松本穂香さんを当て書きされたそうですが、静かだけど芯が強い女性という印象を受けました。

「松本さんご自身も表面的にはおっとりされています。食事の席でもあまり自己主張されないイメージです。と同時に、すごく気が強い人なんだろうな、ということは直感的に思いました。そういう松本さんの両面性みたいなものを生かした役を書きたいと思ったんです。澪という役は基本的に静かだけど、ポイントポイントで気の強さを出していますよね」

ーー松本さんに“少女ではなく、子供として演じてください”とリクエストされたそうですね。

「脚本を読めば澪が未熟な存在であることは誰でも分かりますが、子供として未熟なのか、少女として未熟なのかということには実は大きな差があります。といいますのは、人間は自分の性を意識した時に自意識が芽生えると思います。でもその自意識は澪を演じる上では必要ないと思いました。風景の中に“女性”がいると目立ちます。綺麗な人であればあるほど浮き立ってきます。だけど子供という存在はどんな風景にも馴染みます。この映画は風景そのものと主人公の調和が重要だったので、あえて“子供として演じてください”とリクエストしました」

ーー確かに澪は風景に溶け込んでいましたし、透明感がありました。

「ただ、澪が銭湯の湯を片手で掬っているカットだけは女性っぽく演じて欲しいとお願いしました。彼女が大人になる通過儀礼としての水(湯)というか。それはキリスト教徒が水を触るみたいなモチーフも反映しているんですよ。このシーンでそれを思い浮かべる人はあまりいないと思いますが(笑)」

画像2: 親友との思い出の場所が無くなってしまった違和感や、 悔しい気持ちがこの映画を作る原動力でした

ーーなるほど、そういうことだったんですね! 改めて今作を観直したくなりました。銭湯と言えば、澪が閉店時間になってもゆっくりしているおじいちゃんに牛乳を渡すシーンがとても良かったです。

「あのおじいちゃん、実は94歳になる、僕の祖父なんです。“牛乳を渡されても挨拶はしないで”と言っても、根っこの人が良いからおじぎしちゃって(笑)。あのシーンみたいに閉店時間までいるおじいちゃんに“もう帰ってください”と言うのと、おじいちゃんと一緒に牛乳を飲んで時間を共有するのとでは人生の豊かさが全然違ってくると思うんです。それが例えたったの5分だったとしても。大きなスーパー銭湯とかだと“もう帰ってください”と言わざるをえないのではないでしょうか」

ーー今作を観て、人と人がちゃんと対面してかかわり合っていくことって大事だなと改めて感じました。

「僕が大学時代に暮らしていた街には昔ながらの商店街があって、そこを通るたびに顔を知ってる人達が誰かしら挨拶してくれたんです。そこから会話が生まれることもありました。だけど、それが商店街じゃなくて大きな商業施設だったらそんなことはありえなかったと思うんですよね。

生活の空間と労働の空間が地続きなのが商店街や銭湯の良さなので、そういうことをないがしろにして都市開発や町づくりをしてきた社会にはいささかの違和感を覚えます。ただ、単に憤っていても未来は開けないので、ある種の希望とともに澪に託したのが『わたしは光をにぎっている』です」

画像3: 親友との思い出の場所が無くなってしまった違和感や、 悔しい気持ちがこの映画を作る原動力でした

ーーここからはSCREENONLINE読者のために中川監督オススメの映画をご紹介頂きたいのですが、最近ご覧になって面白かった作品を教えて頂けますか。

「今年の釜山国際映画祭で観た『パラサイト 半地下の家族』(日本は来年1月10日公開)は素晴らしかったです。『ジョーカー』(19年)のように持たざる者が持っている者に暴力で対抗する話ですが、いままさに社会に起きていることと通ずるところがありますよね。これは黒澤明監督の『天国と地獄』(63年)もうそうですし、映画の存在する時代全般にわたって消えることのないテーマに感じます。それから『バーニング 劇場版』(19年)も最高でしたし、『荒野にて』(19年)、『永遠の門』(19年)、『幸福のラザロ』(19年)も面白かったのでオススメです」

ーー昔から好きな映画を1本挙げるとしたら?

「アメリカ映画では『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84年)は大好きです。友情の終わりと、ある文化の終焉を描いた作品です。時代と個人はあくまで呼応する存在であることを改めて感じました」

ーー最近注目している監督はいますか?

「今年のぴあフィルムフェスティバルで二つ賞を穫った『スーパーミキンコリニスタ』の草場尚也監督は気になりますね。売れないエキストラ女優の話なんですが、めちゃくちゃ面白かったです。凄く才能ある監督なので注目しています」

ーー中川監督のルーツになったのはウルトラセブン、三島由紀夫、スタジオジブリだそうですが、映画に関してはいかがですか?

「大学の時に先ほど話した親友がヒッチコックやジョン・フォードの映画を教えてくれました。それと同時に映画評論家の蓮實重彦さんの存在も知って、それがきっかけでエンタメ映画にも芸術性があるということが理解できたというか。言ってしまえば黒澤明作品もエンタメ映画だと思いますが、芸術映画としても極めて高度に作られています。

エンタメを芸術と思って良いんだということがわかったことで、映画に対する視界が開けましたし、そこから映画を作りたいと思うようになりました。アンドレイ・タルコフスキーやジャン=リュック・ゴダールのような難しい映画じゃないと芸術じゃないみたいなイメージがあったんですけど、そうではないことに気付けたのは凄く大きかったです」

(インタビュアー・文/奥村百恵)

画像: 中川龍太郎監督

中川龍太郎監督

【ストーリー】
亡き両親に代わって育ててくれた祖母・久仁子(樫山文枝)の入院を機に東京へ出てくることになった澪(松本穂香)。都会の空気に馴染めないでいたが「目の前のできることから、ひとつずつ」という久仁子の言葉をきっかけに、居候先の銭湯を手伝うようになる。昔ながらの商店街の人たちとの交流も生まれ、都会の暮らしの中に喜びを見出し始めたある日、その場所が区画整理によりもうすぐなくなることを聞かされる。その事実に戸惑いながらも澪は、「しゃんと終わらせる」決意をするー。

『わたしは光をにぎっている』
11月15日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
脚本・監督:中川龍太郎(『四月の永い夢』)   
脚本:末木はるみ 佐近圭太郎
出演:松本穂香
   渡辺大知 徳永えり 吉村界人 忍成修吾/光石研/樫山文枝
主題歌:カネコアヤノ「光の方へ」
配給: ファントム・フィルム
©2019 WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

画像: 11/15(金)公開 『わたしは光をにぎっている』 予告編 youtu.be

11/15(金)公開 『わたしは光をにぎっている』 予告編

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