一度観たら忘れられない、好きになる。今もそんな評価で支持され続け、フランスで公開当初から驚異的な興行成績を収めたアニメーション作品『キリクと魔女』(1998)。その監督ミッシェル・オスロがフランス、パリの良き時代を描いた新作が、本作『ディリリとパリの時間旅行』です。そのオスロ監督に、アニメーションへのこだわりや、アニメーションの持つ力についてうかがうことが出来ました。ウイットに富んだお答えの数々には、監督ご自身が、まさに「メイド・イン・フランス」であることを感じるばかりです。

アニメーターというより、美意識の魔術師

『ディリリとパリの時間旅行』は、2018年アヌシー国際アニメーション映画祭のオープニング作品となり、2019年のセザール賞最優秀アニメ作品受賞に輝きました。

幼少期をギニアで過ごしたというオスロ監督、青年時代はアンジェの美術学校で、その後フランス国立高等装飾美術学校で装飾芸術を学び、短編作品を経て、数々の美しいアニメーション作品を手がけます。

その作品はいずれも‟芸術家としてのプロフェッショナル”から生み出されたというべき、宝石のような作品ばかり。監督は、言わば美意識の魔術師のような存在なのです。

経歴に加え、その実力で国際アニメーション協会議長を務め、2009年にはレジオン・ドヌール賞を授与された75歳の重鎮です。

ベル・エポックのパリを旅する少女ディリリ

主人公のディリリはフランスとニューカレドニアの混血児で、ベル・エポック時代のパリへとやって来た少女。知り合った少年オレルと意気投合、配達人をしている彼がパリを熟知していることから、主要な名所や著名な人々の元へと彼女を案内し、二人で縦横無尽にパリの街を廻ります。

画像1: ベル・エポックのパリを旅する少女ディリリ

本作品は観る者を、知らず知らずパリの良き時代へとタイムスリップさせ誘い、ディリリと共にめくるめく旅をする気分にさせてくれます。そうなったら、もうオスロ監督の魔法にかけられているというわけです。

凱旋門からオペラ座、ヴァンドーム広場やコンコルド広場、今年火災に見舞われたノートルダム寺院はもちろん、歴史的に価値あるさまざまな名所が実写の画像で登場。アニメと実写画像の融合から生まれる独自の世界観も心地よい。

そこで活躍するピカソ、ロダン、モネ、ロートレック、ルノワール他の多くの画家たち、ドビュッシーやサティなどの音楽家、物理学者のキュリー夫人や作家のコレットなどなど100人を超える各界の著名人たちの顔見せで、圧巻の演出となります。

画像2: ベル・エポックのパリを旅する少女ディリリ

華麗な世界を描く中にも、硬質な社会批判もにじませる

物語は、当時のパリで頻発していた、少女誘拐事件に巻き込まれていくディリリとオレルのミステリアスな冒険譚。女性の社会進出に対する圧迫や反発によって生まれた、「男性支配団」なる存在は、少女誘拐事件となって世間を騒がせていて、その有様こそ、差別やテロが席巻する今のパリやフランスにも通じていると感じたオスロ監督は、今に繋がる差別や暴力について忘れてはいけないという痛烈なメッセージを託し、重層的な作品に仕上げたのです。

美しくも毅然として、大人の鑑賞にも耐えるアニメーション作品としては稀少な存在と言えるでしょう。フレンチ・アニメの神髄を感じさせて巧みです。

パリの実写画像をアニメに組み込ませる試み

含蓄もあり、時にはお茶目なオスロ監督のお喋りは、どこかやはり、芸術的です。

──この作品そのものが、キラキラとした芸術作品そのものです。しかも、ベル・エポックの時代に活躍した有名人に加えて、パリの観光名所が余すところなく描かれます。日本人が一番憧れるようなフランス、パリですから大うけすること間違いなしですね。

「ありがとうございます。そうお褒めいただくと、逆に心配にもなって来ますね。なぜって、フランスの日本大使館には、パリに来て、その現実を見てショックを受けた日本人たちの心のケアをする部署があるんですよ。知っていましたか(笑)?この映画を観て、日本の方々が過大な期待をしてパリに来られたら、そこの部署が大わらわになったりしないかと、ね(笑)」

画像: パリの実写画像をアニメに組み込ませる試み

──そんな部署があるとは知りませんでした(笑)。それほどパリって世界的にも、夢を与えてくれる都市ですからね。

「でも、私がこの中でアニメ部分に組み込んだパリの名所は、当時の写真ではありません。私が時間をかけて一か所ごと、撮影したもの。いま現在、現存するパリですから、失望はさせないはずです。とはいえ、散乱しているタバコの吸い殻やゴミ箱、車や自転車はCG処理で全部消しています。そして、ベル・エポック時代には、絶対になかったものって何だかわかります?『落書き』ですよ! あれ、大嫌いですから、あれらを全部消すことも出来ました。やっぱり、美化してしまったかな(笑)」

独学で、何でも自分でやることが、こだわり

──そうした観光とか歴史とか、大河ドラマ的に見えて、実はベル・エポックの頃から今も変わることなく、世界的に存在する人種や女性差別。こういった「闇」の部分について非常に強いメッセージを発信しているところも印象的です。こうした強いメッセージを表現もできるから、アニメーションの制作にこだわり続けていらっしゃるのでしょうか?

「言うなら、アニメーションの大家と謳われるウォルト・ディズニーのようになりたいと思ったことは一度もありません。ビジネスというか職業としては、彼は良き存在だとは思いますけれどね。私は、本当に自然な形でこの素晴らしい職業、アニメーターになったという感じですね。独学で作り続けて来ました。子ども時代は非常に活発な子でしたが、私自身が今やっていることというのは本当に10歳の頃から変わっていないと思います。そして、何でも自分一人でやりたがることも」

──それが独学ということなんですか?

「今回の作品も、原画を書き、色を塗り、デジタルでCGモデリングするのも私がやっています。私自身が、作品を創りながら作品の中で‟歌います”し、‟踊ります”し、歴史学を‟語っている”のです。衣装も選び、洋服もすべて私のデザインですよ。飛行船も飛ばしますし、下水道管理人でもあるし(笑)」

画像: 独学で、何でも自分でやることが、こだわり

アニメーション作りは、ラッキーにことが進んで行く

──アニメーションだからこそ、一人でやりたいことを自在に、出来るということですね。

「今回ラッキーなことに、パリの美術館や様々な場所に許可を求めるとみんな、どうぞ、どうぞという感じで歓迎してくれて、下水道まで見せてくれました。休館日で、誰もいない美術館で、私一人で写真を撮らせてもらえました。パリのオペラ座は屋根の上へ上るのは禁止ですが、これも、どうぞ、どうぞということで、地下から屋根まで上ることも出来た。下水道の管理局も、好きなように下水道を探検してくださいと言ってくださった」

画像: アニメーション作りは、ラッキーにことが進んで行く

──芸術の力のなせるわざですね。とにかく、お一人で何でも出来るから、映画を作るなら、監督にとっては、アニメーション以外はありえないと言ってよろしいのですね?

「そうですね。アニメーション映画の製作は理想的な仕事だと思っています。本当にラッキーなことばかりで仕事が進むんです」

──独学の中にも、影響を受けた存在はいらっしゃるのでしょうか?

「影響を与えられた人物はと言われたら、特定できないくらいいます。存在している芸術家全員からと言ってもいいくらい。思えば、やはり、生い立ちや出自の面では恵まれていたと言えます。ちゃんとした文明のあるフランスというところを母国とし、両親とも教師で、家にはいつも本がありました。子ども時代から世界に目を開かされるような環境の中で育ってきたことが、まずは私に大きく影響しているでしょうね」

美しいと感じるもの、すべてから影響を受ける

──とても自然に芸術に導かれていたんですね。

「中でも、日本の北斎というアーティストには、12歳、もしかしたらもっと前から影響を受けていたと思います。北斎を通じて、私自身はとても自然な形で日本人になっていました! そして、中学1年生の頃には古代エジプトの文明を知り、その時に自分はエジプト人になっていましたっけね(笑)。ギリシャ文明を知った時にはギリシャ人に(笑)」

──素晴らしい感受性ですね。

「でも、ローマ文明を知った時にはローマ人にはならなかった。なぜなら美しくなかったからです(笑)。美しいことが、人に影響を与えるんです。イタリアのルネッサンスには、かなり惹かれ、そうすると私は、ルネッサンスを通じてイタリア人になっていましたからね。他には、ペルシャの小さな模型のようなものがあることを知れば、それにも魅了され、19世紀末のあるイギリスのイラストレーターの存在を知れば、すごく影響を受ける。ことほどさように、多種多様な影響がごく当たり前のように成長と共に、自分の中に組み込まれているんです。ですから、そういう意味では万人から影響を受けているわけで、僕自身が作り出しているものにはオリジナリティなんていうものはないと思っています」

画像: 美しいと感じるもの、すべてから影響を受ける

芸術こそ、世界を守るという想いを今に繋ぐ

なるほど。素晴らしい先人たちの存在と、彼らが残した芸術作品から影響を受けていらっしゃる。だから監督の生み出す作品はそれらの結晶というわけですね。

毎回作品づくりにはほぼ、6年をかけて作り上げるというオスロ監督。今回の作品のテーマであり強いメッセージは、女性や少女たちを不当に扱い、虐げる男たちの「悪」を扱いたかったといいます。そして、フェミニズムを扱う時、その舞台といえば、女性が裾の長いドレスを着こなしていた最後の時代の、ベル・エポックの頃がふさわしいと考え、ここから今回の作品へのこだわりが生れたのだと。そのうえで、当時から今の時代に至って、ご自身も含めた芸術家や文化人たちの存在あればこそ、「悪者」たちの好き放題にはさせないと言うのです。

その力を信じ、その想いを込めて完成させたのが本作です。芸術の力があれば、地球を守ることさえ出来ると信じるミッシェル・オスロ監督。強い存在です。アニメーション作品を通して、守るべきを守るという強い力を感じさせてくれたインタビューでした。

画像: ディリリとパリの時間旅行 youtu.be

ディリリとパリの時間旅行

youtu.be

『ディリリとパリの時間旅行』
2019年8月24日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

監督/ミッシェル・オスロ
音楽/ガブリエル・ヤレド
声の出演/プリュネル・シャルル・アンブロン、エンゾ・ラツィト、ナタリー・デセイほか
配給/チャイルド・フィルム
後援/フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
2018年/フランス・ベルギー・ドイツ/フランス語/94分/ヴィスタサイズ/カラー
日本語字幕/手束紀子
原題:Dilili a Paris
公式サイト:http://child-film.com/dilili
© 2018 NORD-OUEST FILMS-STUDIO O -ARTE FRANCE CINEMA-MARS FILMS-WILD BUNCH -MAC GUFF LIGNE-ARTEMIS PRODUCTIONS-SENATOR FILM PRODUKTION

                                

前回の連載はこちら:
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