第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞するなど、国内外で圧倒的評価と人気を誇る映画監督・黒沢清が、1か月におよぶオール海外ロケに挑んで完成させた『旅のおわり世界のはじまり』。SCREEN ONLINEでは黒沢清監督の単独インタビューが実現。今回はインタビュー第二弾をお届けする。

【ストーリー】
 舞台は中央アジア、ウズベキスタン。バラエティ番組のリポーターを務める葉子(前田敦子)は巨大な湖に棲む“幻の怪魚”を探すため、かつてシルクロードの中心地として栄えたこの地を訪れた。胸に秘めた夢は、歌うこと。その情熱を心の底に押し込めて、目の前の仕事を懸命にこなしている。収録を重ねるが、約束どおりにはいかない異国でのロケで、苛立ちを募らせるスタッフ(加瀬 亮、染谷将太、柄本時生)。ある日の収録後、ひとり街に出た彼女は導かれるように、美しい装飾の施された劇場に迷い込む。そして扉の先で、夢と現実が交差する不思議な経験をする──。心の居場所を見失った主人公が、旅の果てで出会ったものとは……?

『愛の讃歌』のオリジナル版は狂気に近い愛を歌っている

ーーウズベキスタンの街を一人で彷徨う葉子を見ていると、自分が海外旅行に行った時に不安な気持ちで街を歩いた思い出が蘇りました。監督は映画祭や撮影で海外に行かれることも多いので、そういった経験を今作に反映した部分もあったのではありませんか?

「そうですね。海外の映画祭に呼んで頂くことも多いので、色んな国で現地の方と接してきた経験を反映している部分はあります。ほとんど知らない国で言葉もあまり通じないというだけで最初はどうしても警戒してしまいますが、通訳さんを通したり自身の拙い英語で現地の方との会話を試みると、意外な共通点が沢山見つかったりするんです。すると少し触れ合っただけで“同じ人間なんだ”とか“同じようなことを考えて悩んでいるんだな”という当たり前のことが改めて実感できる。更に急にその国の文化や街、人が親しい存在に思えて、警戒心もなくなり、凄く親密な気がしてくるんです。そういった経験がそのままこの映画には反映されていると思います」

ーー個人的に印象に残ったのが薄暗い地下道のシーンで、少しだけホラー的な展開を期待してしまいました(笑)。

「確かに地下道のシーンはハラハラドキドキするかもしれませんね(笑)。日本では歩道橋や横断歩道が沢山ありますけど、海外では大きな道路を渡るための横断歩道がないことも多いので地下道を使うんです。僕も実際にウズベキスタンで真っ暗な地下道をよく通っていたので、“ここは大丈夫なのかな?”と不安になることもありました(笑)。それをそのまま反映させています」

画像1: 『愛の讃歌』のオリジナル版は狂気に近い愛を歌っている

ーーそれとは対照的に美しい景色が画面いっぱいに広がったり、可愛いヤギが登場するなどホっとできるシーンも沢山ありました。

「そういう小さな気づきで一喜一憂することが、異文化と出会うことなんです。その気づきこそが第一歩で、その国ともっと親密になれるかどうかというのは、ほんの小さな勇気や何かきっかけが必要なのではないかなと思います」

画像2: 『愛の讃歌』のオリジナル版は狂気に近い愛を歌っている

ーー劇中で葉子が『愛の讃歌』を歌いますが、この曲を選ばれた理由をお聞かせ頂けますか。

「劇中にナボイ劇場というとても美しい劇場が登場しますが、実はウズベキスタン側からナボイ劇場をどんな形でもいいので撮影で使って欲しいというオーダーがあったんです。それで色々と悩んだ結果、葉子が歌手を夢見ているという設定にして、ナボイ劇場で歌う幻想を見ているというシーンを入れようと思いついて。どんな曲にしようかと考えていた時に、劇場でイマドキのポップスを歌うのは違うよなと。声高らかに歌えて、誰もが知ってる曲はなんだろうと考えた時に僕が好きな『愛の讃歌』が思い浮かんだんです」

ーー改めて良い曲だなと思いました。

「実は日本語に翻訳された歌詞で一番ポピュラーなものはオリジナルの歌詞とだいぶ違うんです。フランス語のオリジナル版はほとんど狂気に近い愛を歌っているので、今回はオリジナル版に近い翻訳の歌詞で歌ってもらいました。“世界が終わっても愛し続ける”という歌詞もあって、かなり強烈なメッセージなんですよね。幸いにも著作権をクリアしたので、ワンシーンだけではもったいなく思い別のシーンでも歌って頂きました(笑)」

画像3: 『愛の讃歌』のオリジナル版は狂気に近い愛を歌っている

ーー前田さんも相当練習されたのではありませんか?

「彼女は歌うシーンにかなり気合いを入れて挑んでいました。プロの歌手でもあるので歌なんてお手のものかと思っていましたが、“だからこそクオリティの低い歌は歌えない”という思いで相当練習されていたようです。『愛の讃歌』を歌うシーンは歌詞にも注目してご覧頂きたいです」

画像4: 『愛の讃歌』のオリジナル版は狂気に近い愛を歌っている

ーー監督は海外に行かれた際に映画館を訪れることもありますか?

「たまに行きます。以前、中国で当時大ヒットしていた四川大地震を扱った映画『唐山大地震』(2010年/日本では2015年)を中国の映画館で観たのですが、劇場にいるほぼ全員が携帯でしゃべりながら観ていることに大きな衝撃を受けたことがあります(笑)。“いま映画はこんな展開になってるよ”と話しているのか、全く関係のない話をしているのか不明ですが、誰一人“うるさい”と文句を言う人もいないので、これが中国では当たり前なんだなと。全編中国語なので内容の全ては理解できないですし、そういう文化なんだと諦めて最後までおとなしく鑑賞していました(笑)」

画像1: Photo by 森田ツクル

Photo by 森田ツクル

ーー(笑)。最後の質問になりますが、旅をテーマにした映画でオススメの作品はありますか?

「旅映画ではなくサスペンス映画なのですが、ロマン・ポランスキー監督の『フランティック』は面白いです。ハリソン・フォード演じるリチャードが奥さんとパリを訪れるのですが、突然奥さんが消息不明になってしまうんです。言葉が通じないパリの街を彷徨いながらリチャードは必死で奥さんを探すのですが、裏通りや屋根の上を歩くなどドタバタと小さな冒険を繰り返して行く様が面白くて大好きで。奥さんがいなくなるという怖い展開にも関わらず不思議とパリに行きたくなったりして(笑)。ハリソン・フォードの代表作だと思いますし、大傑作なので是非ご覧頂きたいです」

画像2: Photo by 森田ツクル

Photo by 森田ツクル

(インタビュアー・文/奥村百恵)

『旅のおわり世界のはじまり』
2019年6月14日(金)全国ロードショー
監督・脚本:黒沢 清
出演:前田敦子、加瀬 亮、染谷将太、柄本時生、アディズ・ラジャボフ
配給:東京テアトル
©2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO

画像: 映画『旅のおわり世界のはじまり』予告編(6/14公開) youtu.be

映画『旅のおわり世界のはじまり』予告編(6/14公開)

youtu.be
コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.