映画祭のフィナーレを迎える前日の2019年5月24日、ある視点部門のクロージングセレモニーが執り行われた。(現地レポート/岡田光由)

全体的に低調気味だった今回のある視点部門

今年の出品作は18本、しかも半数が監督デビュー作とあって期待されたが、スバ抜けた作品や人気を集めた作品はあまり見られず、少々失望気味。さらに昨年よりも出品作がプレス関係者に見られやすい上映スケジュールになったにも関わらずである。マスコミの話題にのらないということは、作品の力不足というわけだ。

セレモニーは昨年同様、始まる前に映画祭をサポートしてくれた市民ボランティアの皆さんがステージにあがり、観客からの感謝の拍手を浴びた。彼らは入口でのセキュリティーチェックや会場の案内など朝早くから深夜まで、懸命に働いてくれた。本当に感謝、感謝である。

その後、映画祭総監督ティエリー・フレモーの司会で、ナディーヌ・ラバキ審査員長ら審査員たちが登壇し、それぞれから各賞が発表された。その結果、大賞は、有力視されたブラジル人監督カリム・アイヌズによる女性解放ドラマ「ジ・インビジブル・ライフ・オブ・ユーリディス・ガスマオ」に輝いた。40年代のリオデジャネイロを舞台に、フェミニズム運動に関わっていく姉妹の奮闘ドラマで、ナディーヌ・ラバキら女性審査員たちの心を掴んだのだろう。アイヌズ監督は5年前にベルリン映画祭のコンペ部門に選出されたキャリアも受賞にいくらか響いたのではないか。

画像: ある視点部門の審査員と受賞者たち

ある視点部門の審査員と受賞者たち

他に前評判がよかったのはオリベール・ラクセ監督の「ファイア・ウィル・カム」。山火事を引き起こし服役した男が帰郷し、再びの山火事に直面して破滅へと向かう中、母親との愛をとらえた一編。アメリカからマイケル・アンジェロ・コビノ監督の「ザ・クライム」も注目された。片や家庭を持っている友人と、その妻やその場の女性に甘えてしまう嫌な男の友情ドラマとは。当然、片方の主人公に腹が立って、気持ちよくなかった。過去にコンペ部門に何度か選出されたことのある大物監督ブリュノ・デュモンの「ジャンヌ・ダーク」は、10歳の少女をジャンヌにした異色の伝説ドラマ。作品は不発だったが、大物だけに特別賞を授与したのだろう。

また審査員特別賞を与えられた「リベリテ」には驚かされた。フランス革命前にパリから逃げて来た貴族たちが夜中に繰り広げるSMショー的なセックスのオンパレード。それらを薄暗い森の中でじっととらえるのだ。監督はスペインの鬼才と呼ばれるアルベール・セラだそうだが、終始カメラでとらえるだけ。まるでコンペ部門に出品のアブデラティフ・ケシシュ監督の「メクトウブ、マイ・ラブ:インターメッツォ」と変わりない。これも若い男女たちのビーチやクラブでの語らいやきわどい行動を延々と3時間半、カメラを据えてとらえるだけ。これを素晴らしいと考える人もいるんだなあと思った。

画像: 受賞挨拶するカリム・アイヌズ監督

受賞挨拶するカリム・アイヌズ監督

さてセレモニーのハイライトは、やはり演技賞に輝いたキアラ・マストロヤンニだった。彼女が登壇するだけで、ステージがパッと明るくなる。やはりスターだ。作品はクリストフ・オノレ監督の「オン・ア・マジカル・ナイト」。フランスの原題は「シャンブル212」。つまり倦怠期を迎え、夫との喧嘩で家出した妻が宿をとったのが自宅アパルトマンの向かいのホテル212号室。そこから自宅での夫を眺めているうちに、昔浮気した男や関係した男たちが部屋に現れ、マジカルな一夜をすごしながら自分の人生を見つめ直すというファンタジー。浮気性というか、本能に正直な妻を、キアラが嫌みなくコミカルに演じているのが評価されたのだろう。彼女を眺めていると、やはりマルチェッロ・マストロヤンニとカトリーヌ・ドヌーヴの二大スターの顔が浮かんでくる。どこかマストロヤンニ、どこかカトリーヌの面影を残して、生き生きとふるまう彼女には、天性のスター気質が備わっていて羨ましい限りである。

■受賞一覧
大賞 「ジ・インビジブル・ライフ・オブ・ユーリディス・ガスマオ」(カリム・アイヌズ監督)
審査員賞 「ファイア・ウィル・カム」(オリベール・ラクセ監督)
演技賞 キアラ・マストロヤンニ(クリストフ・オノレ監督「オン・ア・マジカル・ナイト」)
監督賞 カンテミル・バラコフ(「ビーンポール」)
審査員特別賞 「リベリテ」(アルベール・セラ)
審査員クープ・ド・クール賞 「ア・ブラザーズ・ラブ」(モニカ・ショクリ監督)、「ザ・クライム」(マイケル・アンジェロ・コビノ監督)
特別賞 「ジャンヌ・ダーク」(ブリュノ・デュモン監督)

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