レース用語でDNFと言えば"Do Not Finish (完走せず)"。事情はあれど基本的に残念なやつです。もっとガッカリなのはDNS = Do Not Start (出走できず) ですが・・・。さて、今日のテーマは全然その話ではなくて、誰でも・乗れる・フォーフィフティでD・N・F。素人お断りなイメージの最強モトクロスレーサーである450ccマシンに、ダートトラックの場面なら、小さなオーバルからなら、きっとあなたもなんとか乗れて、よくよく慣れたらガパっと全開したりできるかも?というお話。もちろん足回りや各所アレコレの最低限を、この種目の特性にキッチリ合わせて造り込まれたマシンであることが大前提です。"登山靴でサッカー" は全然オススメしませんけど!

不真面目で荒っぽくて極端に○○な本場の定説は "オトナは普通ヨンゴーでしょ" ?

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。現代のダートトラックレーシングにおいて、各メイカーのラインアップや、一般的なレースでの "クラス分け" を元に考えてみると、マシンカテゴリーというのは大雑把に以下のようなグループに大別できるでしょう。ひとまず今回は単気筒エンジンのマシンにだけフォーカスすることとします。

・キッズ / ユースのマシン → 50cc, 65cc, 85cc, 100cc〜150cc等。体格と年齢に合った車両選び。

・100〜150ccくらいの "ミニバイク" クラス。

・150〜230ccあるいは250cc程度の "トレール車"。

・350, 400, 500〜600ccといった "大排気量エンジン"。

・4ストローク250cc, 450ccのモトクロス用レーシングエンジン搭載のマシン。

画像1: 撮影: FEVHOTS

撮影: FEVHOTS

今日特にお話したいのは上記リストの最後の項、250ccと450ccのモトクロスレーサーについてです。各メイカーが発表しているスペックシートをご覧いただければご理解いただけると思いますが、排気量は倍近く違うこれらの2種類のマシン (かつて2ストローク主流の時代はそれぞれ125ccと250ccというクラス区分でした) 、車体の大きさはほぼ同じ。車重にしてもほんの数キロしか変わりません。しかし、実はそれぞれの出力特性・ "キャラとしておいしいところ" は全く異なります。

本格的なモトクロス競技の世界では、ありったけの力を振り絞って走らせる250ccと、暴力的なパワーを御し手なずけて可能な限りスムーズに走らせる450cc、というのがおそらくそれぞれの具体的なイメージでしょう。体格や身体能力の差から大排気量車の扱いが不得手なライダーもいるはずです。

また、軽いマシンが基本的に有利で、特性として一般的にはソフト・マイルドを志向する国内でのオフロード耐久レース "エンデューロレース" カテゴリーでは、4ストロークならどちらかと言えば450ccより250cc、あるいはより軽量な2ストローク125ccが好んで選ばれる傾向です。

画像2: 撮影: FEVHOTS

撮影: FEVHOTS

本日のテーマに立ち戻って、ダートトラックレーシングでの場合を考えてみます。この種目のためのマシンは、必ずしも軽ければ軽いほど有利ということはありません。進入での安定した滑走と、立ち上がりでの後輪加重→加速、そのいずれにおいても、バランスを保つのに重要なのは、ヒラヒラ軽快なことより、車体の重心位置・・・より低く・・・ある程度の重量感をもつマシンのほうがここでは遥かに扱いやすい。参考までにホンダの2020年モデル、250ccと450ccの重量差は4.5kg程度です。

画像3: 撮影: FEVHOTS

撮影: FEVHOTS

レッドゾーンまでビンビン回して乗るタイプの250cc車に比べ、450ccクラスのマシンはよりパワーバンドが広く、また当然ながら全域で分厚いトルクを発生させます。スロットル全開・パワー使い切りを直ちに実践できないライダーでも、注意深く操れば、ほんの少しずつ挑戦と理解を深めていけば、ことダートトラックにおいて、450ccは "一握りの特別なライダー以外手を出すべきでないモンスターマシン" ではありません。少なくともモトクロスに比べれば遥かにハードル低く、この競技に適した特性を見出し実体験することができるはず。我々の走るフィールドは単純なオーバルレイアウトが基本ですし、根源的な操作方法は100ccや230ccでのアクションとなにも変わりません。

画像4: 撮影: FEVHOTS

撮影: FEVHOTS

日本には独特の運転免許制度 (400ccを境とした普通 / 大型二輪の区分) や車検制度 (250cc以下は事実上検査なし) があるため、乗り物としての実体以上に、250ccの簡便軽快なイメージが好まれる傾向もあります。軽く取り回しが楽で、さまざまな維持費も安く、普通二輪免許で乗れることは、ストリートを移動する手段としては有利ですが、スポーツ用品という面では、唯一の選択ではありません。

ところで、ここまで掲載した写真、何か気づいたことありませんか・・・?

トップ画像からここまで、ナンバー21の450cc "DTX" に乗る5人のライダーは、このスポーツを始めて数年の女性・60代の中級者・オーバルレース出場まだ1戦の駆け出し・初めてのダートトラック経験から多くても10回223ccに乗っただけの初心者・数ヶ月に1度レンタル100ccで走ることを楽しんで2年目くらいのライダー、です。皆じっくり慎重にではありますが、それぞれのペースで、モトクロス競技車としては最強クラスにある450ccマシンとの対話を楽しんでいる様子が伝わりませんか?

加えて、北米のオフロードバイクマーケットにおいて、250ccクラスのマシンは日本ほど重用されません。広大な "オープンエリア" と呼ばれるライディングシーンや、ダイナミックなデザインの当地のオフロードトラックでは、見るからにオフロード経験の浅いライダーであってもそれなりの安全マージンを保てれば、450ccで楽しむことだってさほど難しくはありません。"夕方会社帰り、地元のコースへ寄ってヨンゴーにチョイ乗り" みたいな状況を、しばしば目にすることができるのです。

さらに言えば、その出力特性からも、本場アメリカのダートトラックシーンでは、250ccモトクロスベースのDTXは、中学生あたりが乗るマシン、という見立てです。プロアマ問わず、オトナと同じような体格になる10代半ば以降のライダーなら、自然に450ccクラスを選ぶ環境・雰囲気がそこにはあります。トラックの大小、人の気質?当地と日本の違いを求めればいくつも条件は上げられますが、案外ピーキーなのに250ccに拘って、450ccを味見することなく遠ざけるのはもったいないですよ。

いまAFT: 全米選手権 "450ccの部" を走るためのスタンダードな仕様といえば?

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こちらのレースナンバー65のホンダCRF450R、ダートトラック仕様 = DTX化がなされた車両はAFT: 全米ダートトラック選手権単気筒クラスのライダー、コリー・テクスター選手のもの。ベース車両であるモトクロスレーサーとはパっと見るからに装いの異なる、フラットなダートオーバルでの高速走行に最適化されたマシンです。ダートトラック関係者以外にはなんとなく "異形のマシン" ぽい違和感も与えるかもしれませんが、この姿こそ450ccDTXの最もスタンダードなプロポーションです。

細かく取り上げていけばキリはありませんが、モトクロスマシンのDTX化には、以下のようなポイントがあります。

・前後19インチのワイドホイール + ダートトラックレース専用タイヤへの換装。

モトクロスマシンのノーマルは前21インチ / 後19インチですが、フルスケール (小排気量ミニバイクを除くと) ダートトラックレーサーは前後19インチが基本です。専用レーシングタイヤもそのサイズしかありません。リム幅は前2.15 ~ 2.75 / 後2.50 ~ 3.50あたりのそれぞれ数サイズから選択します。

・前後サスペンションのショートストローク化。

ジャンプのない平面路を走るダートトラックレーシングではまったく不要で、むしろネガの要素となる長大なサスペンションストロークを捨て、内部加工により "シャコタン化" します。フロントフォーク突き出しやリアのローダウンリンクで車高を下げる方法は、サスペンションの重要な動きを追い込み切れないので不適当です。

・競技に最適化された排気系モディファイ。

この車両に付けられたいわゆる "腹下レイアウトのマフラー" はモトクロス競技ではありえない選択です。が、高回転を常用するダートトラックレーシングでは、①エンジン周囲の温度を下げ内燃機内部のトラブルを防止する目的や、②車体全体の重心を下げマシンの運動性能を向上させるため、③エンジンパフォーマンスを競技に合わせ込むため、などいくつもの理由から、このような "ダウンパイプ" を選択することも少なくありません。その特性は走り出してみれば一目瞭然、モトクロス車ノーマルとは明らかに異なるフィーリングに変化しています。

画像: news.vanceandhines.com
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そして意外な盲点ですが、ノーマルからのもう一つの大きな変更点は、

・"バックトルクリミッター付きクラッチシステム" が3年前から全車必須装着となっていること

スーパーモトではおなじみのいわゆるスリッパークラッチとかオートクラッチと呼ばれるものですが、高速走行中のエンジンブローでミッションロックして大クラッシュすることを防ぐため、そしてこの種目の運動特性にモトクロスマシンを合わせるために考えられた仕組みでもあります。

上の走行写真の21号車、筆者ハヤシの450ccにはこのシステムが取り付けてありますが・・・新品で買うと結構お高いんですけど・・・もう付いてない車両には一生乗りたくないくらい、良いです。ありとなしでは全く車体の挙動が変わります。詳しくは・・・乗ってみればわかります。

こちらは筆者ハヤシの "公用車" 。皆さんいつでも乗っていただいて結構なやつ。

画像: 撮影: 菅原健大

撮影: 菅原健大

こちらの2014年式ホンダCRF450Rは、筆者ハヤシの "練習車" 。これから先我が国のあちこちで長く共に走ることになる "後輩" の皆さんに、大排気量車恐るるに足らず!誰でも乗れる!ということで、可能なら毎回でも試乗してもらえるよう、各部に次々と手を加えています。

画像5: 撮影: FEVHOTS

撮影: FEVHOTS

気づきにくい小さなポイントでは例えばココ。本場では多くのライダーが古くから行う手法で、フレームからのエンジンマウントを取り外してしまうモディファイです。メイカーや年式にもよりますが、硬い印象で剛性感の極めて高いモトクロスマシンを、車体をしならせ横向きに走らせるためには非常に有効だ、ということをお貸しして乗り比べたライダーには感じてもらえているはずです。

最近は慣れてきてしまったのか排気系とオートクラッチのおかげでマイルドに過ぎる印象になってきました。圧縮の高い社外ピストンやカムシャフトをそろそろ試してみる時期なのかもしれません。

扱いやすさを生み出すにはそれなりの資金と準備が必要ですが・・・ねえ?

本当なら完全ノーマルのモトクロス車も1台用意して乗り比べてもらえばさらに良いのですが、この種目に合致したマシンを "作り込んでいく" ことの意味は、毎週のプラクティスで一緒に過ごすライダーの皆さんには少しずつお伝えできているのではないかと考えています。

軽量で手頃な100cc級のミニバイクも、馴染みの深い250cc級も、どれだって乗れば楽しいんですけどね、デッカイのも楽しいので是非ともビビりながら慎重にトライしていただきたいところです。

そして、どうせ乗るなら良い状態、スポーツの方向性に合致したマシンを正しく用意してください。道具を使う以上、資金も準備も知識も必要ですが。乗りかかった船!やるならとことん!ふと思いついて我ながら良い例えだと思って冒頭に書いたんですが、"登山靴でサッカー" みたいなおかしな状況に身をおかないよう、くれぐれもお気をつけて。

相談ならいつでも乗りますよ。
ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

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