モンスターエンジンに昂ぶるシリーズ 第14回は、空中で繰り広げられるレース、空のF1とも呼ばれるレッドブル・エアレースだ。今回は小さな機体に詰まった精密メカを解説しよう。

自動車業界だけにとらわれず戦闘機や戦艦、鉄道など、陸・海・空をゆく、あらゆるマシンに搭載された超ド級で怪物のようなエンジンたちを紹介する「モンスターエンジンに昂ぶる」。短期集中連載“第二弾”として2018年末-2019年始に掲載していこう!

実はモンスター級じゃなかった、エアレース機体のエンジン

インディ500で佐藤琢磨選手が東洋人初の優勝という歴史的快挙の興奮が冷めやらぬ2017年6月4日、日本でもメジャーになったレッドブル・エアレースで室屋義秀選手が、前戦サンディエゴ大会に続き2連勝。千葉大会2連覇の快挙を挙げた。

「空のF1」と呼ばれるエアレース。パイロットとともに、主役であるレース機はどのようなマシンか? 詳しく見ていこう。

F1マシンが、けっして最速&最大出力のクルマではないように、レッドブル・エアレースのレーサーも最高速度と最大出力を競う航空機ではない。決められたサーキットコースを、いかに最短のタイムで駆け抜けるか。速度は無論、キレのある驚異的な運動性能がレーサーの「キモ」なのだ。

レースは、上端までたった25mのパイロン(上を飛び越したり、接触すればペナルティ)で指示された、1周約6kmのコースを、時速370km以上で2周回飛ぶ。パイロンとパイロンの間は、時間にして1秒前後。ゲート型パイロンは「厳密に水平飛行で通過」、スラロームは90度バンクで切り返すことになる。

コース両端の折り返しは、なんと10Gに達する垂直大旋回となるが、10G状態が0.6秒以上続くと即時失格(パイロットの安全面を配慮)。平面方向のコースアウトや高度15m以下の飛行も即時失格と、F1よりはるかに厳しいルールがある。

画像: カラーリングを大幅に変えた室屋選手のジブコ・エッジ540 V3。ベース機は全長約6.3m、全幅約7.4m、空虚重量約530kgという、コンパクトなエアロバティック機。

カラーリングを大幅に変えた室屋選手のジブコ・エッジ540 V3。ベース機は全長約6.3m、全幅約7.4m、空虚重量約530kgという、コンパクトなエアロバティック機。

室屋選手の機体には、こだわりの工夫が施されていた?

推進力のカギとなるエンジンとプロペラは、徹底した品質管理による、完全な同一仕様の支給品。不正がないよう、支給方法も抽選という徹底ぶりだ。エンジン排気量は8.9Lで300hp+というのも、エンジンの最高出力競争ではなく、レースを公平に行うためと安全な速度を考慮しての規定。

画像: エンジンは「厳正に同一仕様」の、ライカミング・サンダーボルト AEIO-540-EXP。空冷水平対向6気筒 OHV/12バルブ。排気量は約8.9L。燃料噴射式。100オクタン価低鉛航空ガソリンで、出力は300hp/2700rpm 。レース時出力は多少異なる。

エンジンは「厳正に同一仕様」の、ライカミング・サンダーボルト AEIO-540-EXP。空冷水平対向6気筒 OHV/12バルブ。排気量は約8.9L。燃料噴射式。100オクタン価低鉛航空ガソリンで、出力は300hp/2700rpm 。レース時出力は多少異なる。

エアレーサーは自動車レースと違い、スタートゲートを370km/h以下で通過した後は、スロットル全開のままパイロンを縫いながら、ゴールゲートまで駆け抜けるため、安定したトルクと絶対的信頼性が最優先なのだ。

日本に初上陸した2015年当時の機体は4種類あったものの、2017年期はMXエアクラフト・MXS-Rが1機ある以外、全機ジブコ・エッジ540V3となった。MXS-Rはフルカーボン製の低翼機だが、鋼管フレームにカーボン張りのエッジ540に、信頼性が集まったという。

画像: 同じベース機でもダクトの形状は各チーム違う。プロペラはハーツェル社のC7690EXのみで、3翔固定ピッチ、カーボンコンポジット製。風切り淵にはアルミ合金が貼られている。

同じベース機でもダクトの形状は各チーム違う。プロペラはハーツェル社のC7690EXのみで、3翔固定ピッチ、カーボンコンポジット製。風切り淵にはアルミ合金が貼られている。

機体を覆うカーボンカバーのデザインは、各チームの空力的工夫が見られる。とくに面白いのがエンジンカウル正面左右のエンジン冷却孔と下部のエアインテーク付近で、メカニックが最大効率を目指して個性となっている。

またコクピットを覆うキャノピー(風防)も設計の見せどころ。パイロットの頭にギリギリぶつからない小型さだけでなく、前半の透明部分も複雑な3次曲面をしている。パイロットより後方は垂直尾翼へとつながるファストバックが主流だが、室屋機のみ旧日本軍や現代の戦闘機と同種の水滴型を採用する。2017年の速さはここにあるとも言われている。

画像: 室屋機(下)の大きな特徴は、操縦席を覆うキャノピーが水滴型、今流で言うバブルトップ形状。2016年のシリーズチャンプ/M.ドルダラーのエッジ540(上)はファストバックキャノピーである。

室屋機(下)の大きな特徴は、操縦席を覆うキャノピーが水滴型、今流で言うバブルトップ形状。2016年のシリーズチャンプ/M.ドルダラーのエッジ540(上)はファストバックキャノピーである。

計器も厳格に規定されているが、2017年モデルを見るとフルデジタル化が進み、ディスプレイの大きさや配置は、パイロットの好みとなっている。

2014年から急速に採用されたのがウイングレット(翼端翼)だ。すでに最新の旅客機でも省エネ目的で見られるが、主翼の翼端を上方に向けたり、小さな補助翼を追加して翼端の乱流を制御し、より高い運動性が得られるという。どのチームも試行錯誤しているのと、レース会場ごとに工夫が異なるのも面白い。

エアレースは、資金力による性能差を抑えながら、パイロットの腕で魅せる工夫が満載されている。(文&Photo CG:MazKen/ホリデーオート2017年8月号より)
※編集部註:本文中の内容は、2017年当時のものです。

画像: フルデジタルディスプレイの2017年型レース機。計器も厳正に規定どおりなければならない。ただしディスプレイの配置と大きさは、パイロットの好みだそうだ。整備中に不要に操縦桿が動かないよう、ロープで固定している。エッジ540が鋼管フレーム+カーボン張りであることがわかる画像でもある。

フルデジタルディスプレイの2017年型レース機。計器も厳正に規定どおりなければならない。ただしディスプレイの配置と大きさは、パイロットの好みだそうだ。整備中に不要に操縦桿が動かないよう、ロープで固定している。エッジ540が鋼管フレーム+カーボン張りであることがわかる画像でもある。

画像: ハイテクメカのカギといえる、ウィングレット(翼端板)。翼端流の研究は近年の旅客機でも盛んで、まだ未知数。P.ポドランセック機の画期的(?)特徴は下向きのウイングレット。これが最高とのメカニックの発想だそうだ。ちなみに床に置いてある空缶は、千葉コースのパイロン配置。

ハイテクメカのカギといえる、ウィングレット(翼端板)。翼端流の研究は近年の旅客機でも盛んで、まだ未知数。P.ポドランセック機の画期的(?)特徴は下向きのウイングレット。これが最高とのメカニックの発想だそうだ。ちなみに床に置いてある空缶は、千葉コースのパイロン配置。

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