我が国で一般公道を走る自動車の前後に取り付けられる "ナンバープレート" のことを、北アメリカ大陸では "ライセンスプレート" と呼びます。それに対し、各種スポーツ・競技で個人を識別するための "ゼッケン" はドイツ由来の和製語で、モーターサイクルに付けられる(日本で言う)ゼッケンプレートのことを米語では "ナンバープレート" と呼称。そんなややこしい豆知識からはじまる本日のコラムは、ダートトラッカーらしい佇まいを醸し出すレース用ナンバープレートにまつわるお話です。

ややこしい? ナンバープレートの呼称のことはさておき・・・

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。ダートトラックレーシングマシンの"らしさと雰囲気"を生んでいる要素といえば、フロントブレーキのない軽量スリムな車体に大径19インチの専用タイヤetc・・・挙げれば色々ですが、パッと目を惹く特徴として、車両のフロントと両サイドに計3枚装着される "ナンバープレート" もそのひとつ。

画像: thevintagent.com
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各メイカーのモトクロスレーサーをベース車両とする "DTX" スタイルのマシンはもちろんこの限りではありませんが (むしろ全米選手権のルールでは純正準拠の形状を維持することが求められます) 、アメリカ人の郷愁を誘う "フレーマー" スタイルの、あるいは2気筒マシンのナンバープレートは、当地発祥のエクストリームスポーツであるダートトラックレーシングのプライドとオリジナリティ、そして創意工夫の精神を表す、象徴的なアイテムだと言えるでしょう。

古来よりダートトラックでは"ラウンデッド・レクタングルス・プレート"が定番!

画像: www.nextmotochampion.com
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こちらの写真は1970年代のカリフォルニア、アスコットハーフマイル。マート・ローウィルが6番を付けていることからおそらく1971年シーズンかと思われますが、50年近く前からダートトラックレーシングの本場では、横長の "角丸長方形" プレートが使われていることがお分かりいただけるかと思います。一般的なプレートサイズは横12インチ x 縦10インチ。角の丸みは半径約1インチ。

画像: pwheelie.blogspot.com
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英国製モーターサイクルが多く活躍した1960年代も、他のオフロードレースカテゴリーとは違い、ダートトラックレースシーンで楕円形ナンバープレートを見かけることはほとんどありません。写真の10番と45番のマシンは、前輪とのクリアランスを稼ぐため、プレート下部に凹みを設けています。

こうして長く伝統的に横30cm x 縦25cmのプレートを使うイメージが定着していた本場のダートトラックマシンですが、レースが高速化するに従って、本来の競技ルールでは許可されない、一回り小さいフロントプレートをコッソリ使う者も現れるようになりました。

このあたりは "勝つためのいたちごっこ" と見なされ、よほどの優位性がない限り、絶対悪として断罪されることも少ないのがアメリカ的なおおらかさですが、全米プロダートトラック選手権 = グランドナショナルチャンピオンシップが、2017年に "American Flat Track" シリーズへと名称を変えて以降は、フロントのナンバープレートは少々不格好ながら12 x 12インチの角丸正方形を採用し、これを厳守するよう、レギュレーションが新たに改訂されました。

画像: www.americanflattrack.com
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郷に入りては雰囲気狙い。本場のナンバープレートにまつわるコネタあれこれ。

"それらしい雰囲気" を生むプレートのディテールには、他にも以下のようなものが挙げられます。

画像: フロントナンバーは、フォークに平行に。隙間少なめで中央上下の2カ所を固定するとそれっぽい。

フロントナンバーは、フォークに平行に。隙間少なめで中央上下の2カ所を固定するとそれっぽい。

エアロダイナミクス (空力効果) を生み "パフォーマンス向上を狙う" パーツの使用が、規則で厳しく禁止されるダートトラックレーシングでは、"フロントナンバーはフォークに平行であること" という文言がルールブックにあります。

しかしステムヘッドに寄せてタイトに配置され、中央上下2点を固定されたプレートは、ほんのわずかに空気の抵抗でしなり、"偶然の結果として" 若干の整流効果を生むとのこと。ホントかウソか、1990年代からはこの固定方法を選ぶマシンが俄然多くなります。

画像: 透明樹脂製の薄いプレートに "裏から" 文字とバックグラウンドを貼り付けるのが古くからの手法。

透明樹脂製の薄いプレートに "裏から" 文字とバックグラウンドを貼り付けるのが古くからの手法。

本場のプロ選手権でプレートの素材として使用が許されるのは、厚さ1.1ミリ以下の金属製か1.6ミリ以下の樹脂製です。ほとんどのマシンは透明ビニール樹脂のプレートに、 "裏から" 数字と背景色を張り込んで作られます。これは、クッショントラックでの前走者からの "ルースト" によってナンバーが剥がれることを防ぐ工夫。走行後の高圧洗車で吹き飛ばす心配もなくなるというわけですね。

余談ですが、オフロードバイクが上げる "ルースト" の語源は "Rooster Tail = 雄鶏のシッポ" の意。

画像: 特別な条件でしか選べないナンバーがある?

特別な条件でしか選べないナンバーがある?

1番プレートは前年度の年間シリーズチャンピオンが付ける、のは他のカテゴリーでも一般的ですが、固定ナンバー制が慣例の本場のダートトラックシーンでは、過去の年間チャンピオン経験者のみが、2〜9番のヒトケタナンバー "シングルディジット" を使用することができます。

伝統的に、100番以降の3ケタのナンバーはほぼ使用されないことになっていましたが、昨年からのAFTの大幅なルール改訂により、その一部がルーキーイヤーの選手への割り当てとなりました。

数字の後のアルファベットは、アメリカ全土を20あまりの地方戦エリア = ディストリクトに分け、その地区ごとに割り当てられる記号です。"65F" のFはオハイオ州。YやZは北カリフォルニア、もし日本の住所であなたが選手登録する場合は、通常"E"を与えられ、南カリフォルニアやハワイと同じディストリクトに登録されることになります。

画像: ダートトラックらしい = 泥臭い?独特の"伝統的な"フォントを選ぶライダーが多い。 ルールブックにはずいぶん昔から使用フォントの指定があるが・・・ほぼ全員守らない。

ダートトラックらしい = 泥臭い?独特の"伝統的な"フォントを選ぶライダーが多い。
ルールブックにはずいぶん昔から使用フォントの指定があるが・・・ほぼ全員守らない。

見た目の統一感を生むのは副産物。本来の目的は円滑なレース管理のためです。

画像: 撮影: 神戸紀之

撮影: 神戸紀之

筆者の主宰するレースシリーズFEVHOTSでは、レギュラーライダーの皆さんには白背景/黒文字を掲示していただくようルールを定めています。例外として新規参加でレース経験の浅い方には、周りへの周知のため白背景/赤文字の "ルーキーナンバー" を使う仕組みも用意してはありますが、ナンバー色のルール明文化の一番の理由は、誤りのない正確な着順管理や、安全で迅速な救護対応など、主に運営上の合理性を追求する結果です。

結果として見栄えの善し悪しもないわけではありませんが、1周10数秒のトラックを10数台で10数周させる場合、どうしても周回遅れが発生します。直接目視とビデオ撮影で二重のチェックを行っているとはいえ、てんでバラバラのナンバー色だったとしたら・・・担当するクルーへの負担が増えることは想像に難くありません。

先頃シーズンを終えた本場アメリカのAFTシリーズは、さっそく来期に向けた新シーズンのルールブックを一般公開したようです。前年からの変更点が赤文字になっていたりとなかなか親切な造りで、このスポーツを知る方ならじっくり読み込んで、なぜそうなのかと考えたり歴史的な成り立ちなども想像して楽しめる内容だと思います。全部英語ですけど。ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

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