「レースの朝は、早い」と情熱的で大陸系な感じで書き始めようかと試みましたが、ダートトラックレースの一日のスタートは実はあまり早くありません。少なくとも競技者や観客にとっては。本日は"日本で最も刺激的なダートトラックレースシリーズ"を目指しての設立からはや6年、筆者ハヤシの主宰する競技団体・FEVHOTSの"レース形式"の解説を縦軸に、この種目ならではのレースDAYの過ごし方、併せて皆さんにお伝えしたい"負けないための"レーシングTIPSをご紹介しましょう!

まずはパドックにバイクを下ろしましょうか。

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。先日とある自動車雑誌から "大きなクルマに乗る理由" というテーマでの取材を受けたのですが、インタビュー中、前ブレーキのないダートトラックマシンを載せ下ろしする方法が話題に上りました。

普通はラダーレールと呼ばれる "歩み板" をクルマ = トランスポーターの荷台後部入り口にかけ、マシンを押して載せたり下ろしたりするわけですが、一般的なモーターサイクルなら右手指をブレーキレバーにそえて慎重に動かすこともできます。が、我々のダートトラックマシンはご存知のように前ブレーキを装備しないためその方法は使えません。さて、どうしましょう?

画像: 撮影: FEVHOTS

撮影: FEVHOTS

答えはあまり面白くないかもしれませんが、今まで思いつかなかった方には目からウロコのテクニックのようです。誰かにマシンの後部を支えて手伝ってもらう場合は別として、ギアーを1速か2速に入れ、左手指でクラッチレバーを操作しながら動かせば、下り坂を不用意にコロコロ転がっていく心配がなくなります。

最近パドックで、クルマから下ろしついでにマシンを横倒しにして楽しそうに騒いでいる方を立て続けにお見受けしましたので、ツカミのコネタとして紹介しておきますね。

さあ、レーストラックに到着してマシンは大地に立ち、出場クラスへの参加受付と車両検査が済みました。トラック上では路面整備も着々と進んでいます。いよいよ楽しいレースDAYの始まり始まり!

ダートトラックならではのレースフォーマット、とは?

筆者の主宰するダートトラックレース団体FEVHOTSが採用するレース形式は、本場アメリカで、場末のローカルレースから全米規模の大きな大会までほぼ共通する、最もシンプルで合理的かつ伝統的なスタイルが土台。

周回タイムはその時々の路面コンディションによって大きく左右されるため、計測システムは一切採用せず、10数秒ごとの順位チェックはトラックマーシャル・レフェリーによる直接目視が基本。混戦でのフィニッシュ時はビデオ判定を導入し、着順を確認する補助としています。

事前に各クラス4~6台程度にグループ分け (開催トラックにより横一列で整列可能な人数が上限)

■プラクティス (練習走行) 4周 x 2回
■スクラッチヒート (予備予選) 4周 次の予選のためのグリッド決めとグループ分けのために行う
■ヒートレース (予選) 8周 上位は次の"トロフィーダッシュ"へ・下位は"セミファイナル"へ
■トロフィーダッシュ 4周 予選上位通過者による "賞金あり" のスプリント・決勝グリッド決め
■セミファイナル 8周 予選下位のライダーによる準決勝・下位は次の"LCQ"へ
■LCQ (ラストチャンスクオリファイ) 6周 上位は次の決勝で後方グリッドへ・下位は予選落ち
■ファイナルレース (決勝) 15~18周 最大15グリッド(15台)

他の種目では、練習→予選→決勝と大きく3回に分けて走るのが一般的ですが、ダートトラックはトラックコンディションが破綻しないよう、走行の合間に念入りな路面整備を挿みながら、少ない周回数からの走行を繰り返して決勝を目指します。

また着順により次の走行でグループの顔ぶれも変わるため、同じクラスにエントリーする他の競技者の技量やセットアップ、走行ラインのクセなどを決勝に向けて細かく分析しながら、マシンを含めコンディションを整え戦略を練るチャンスがあります。

画像1: 2018FEVHOTS Rd.2 2018-05-20 撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

2018FEVHOTS Rd.2 2018-05-20 撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

ダートトラックはスプリント。トラックINしたら常に"即全力"を目指しましょう。

練習走行はたったの4周が2回です。

当日の自分自身の身体のキレ具合とマシンのセットアップの確認・おおざっぱな路面状況の把握のためには、のんびり走っていてはなにもわからないまま終わってしまいますし、スロー走行は "レーシングモード" に入った他のライダーにとって邪魔にもなります。

基本的にトラックに入ったら全力でプッシュし続け、上位を目指して最大限の努力を重ねる以外、するべきことは何もありません。

あ、そうそう、日常の練習走行の中で、休憩のためのスローダウンの際に、後ろのライダーに手を上げて合図を送ることに一生懸命 (必死?) のライダーを見る機会があるのですが、"黙っていても勝手に抜かれるライン" を走れば、後続との交錯を避け、安全にトラックOUTすることができますよ。追走車にわざと抜かせてやるのも一種のテクニック。レース中のその逆を目指せばよいだけですから。

ウェイティングエリアとは"ライバルに待っていてもらう場所"ではありません。

次のご自身の走行時間が迫っても間際まで準備が終わらず、ライバルたちを毎回のようにトラック入口のウェイティングエリア (待機スペース) で待たせてしまうあなたは、今日もきっと勝てません。

画像2: 2018FEVHOTS Rd.2 2018-05-20 撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

2018FEVHOTS Rd.2 2018-05-20 撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

■前のグループのレース展開は見ていましたか?
■今この瞬間のトラックの乾き具合、濡れ具合、荒れ具合は?
■トラックマーシャルはあなたのグループが走る前に路面整備を行う素振りをみせていますか?
■このあと一緒に走ることになるライバルの動向は?

誰よりも早く支度を済ませ、ウェイティングエリアへ移動。前のグループのレース内容から路面状況の変化を予測。集まってきたライバルたちの様子を横目で観察しつつ、マシンを暖気し油温水温エンジン音を確認。

そして頭の中をクリーンに保ち、スタートした瞬間からのアクションと戦術をイメージ。才能や経験や練習量の差を埋めるには、用意周到であること、冷静であることが大変重要です。

画像3: 2018FEVHOTS Rd.2 2018-05-20 撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

2018FEVHOTS Rd.2 2018-05-20 撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

逃げ切りと追い上げ以外にレース中にやることってある?なくない?

練習でできなかったことはレースでも決してできません。

嘘だ俺はできると鼻息を荒くする方は日常の練習なんか一切不要?そんなはずはないですね。センスとか感性は重要ですが、その有りや無しやで勝敗が決まるわけではありません。

練習では様々なテーマをもってトライとエラーを繰り返しながらできることをひとつずつ増やし、そしてそれをレース本番で確実に実行できるよう、さらにさらに精度と深度を磨く。

実際経験する前にイメージするのは難しいことですが、レース中にするべきことは数えるくらいしかないんです。極力シンプルに捉え "その時" に備えましょう。

■転ばずレース終了まで全力で走り続けること
■他のライダーを転ばさないこと・転倒に巻き込まれないこと
■前のライダーを追いかけ続け・可能な限り早く抜かすこと
■後ろのライダーから逃げ続け・決して抜かされないこと

画像4: 2018FEVHOTS Rd.2 2018-05-20 撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

2018FEVHOTS Rd.2 2018-05-20 撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

CLASS ACT!! お互いの気配を感じ、その瞬間に披露できる最高のショウを。

真剣に取り組まなければ怪我をするリスクも高まる、ダートトラックレーシングという一種の "エクストリームスポーツ" に挑戦するうえで、適度な緊張感と非日常を楽しむ感覚はもちろん大切です。

しかしガチガチの過度な緊張・予備的な経験由来の一定程度の確信をもてない状況への無謀なチャレンジは、あなた自身ばかりでなく他の競技者の身をも危険にさらすことになってしまうでしょう。

画像5: 2018FEVHOTS Rd.2 2018-05-20 撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

2018FEVHOTS Rd.2 2018-05-20 撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

本日のテーマであった "負けないためのレーシングTIPS" はもちろん完全版ではありません。あなた自身の手で完成させていただく必要があります。

勝つために貪欲に取り組むと同時にひとつずつ弱点を減らし、負けない努力をひたむきに淡々と続け、経験を積み重ねること。そして我々FEVHOTSが目指す、"CLASS ACT" としてのダートトラック・レーシング・ムーブメントに、競技者として、あるいは観客やファンとして皆さんにご参加いただける日が来ることを、心から願っています。

画像: 撮影: 中林大樹

撮影: 中林大樹

筆者主宰のFEVHOTSでは来る10月14日(日)、長野県上伊那郡中川村にいよいよ新装なった "オートパーククワ・1/13マイルダートトラック" にて、新レーストラックの杮落しをかねたノンタイトルテスト戦を開催予定。

かつて我が国のダートトラックライダーが経験したことのない、極小オーバル・多人数での超接近戦の実現に向け、新たな一歩を踏み出すことになります。今後の展開やテストレースの模様なども改めてこちらでご紹介しますね。ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.