痛かったろう、痛くなかったはずがない。

7月28日、鈴鹿8耐の土曜に転倒、けがをしてから3週間。右肩鎖関節亜脱臼というケガを負った中須賀克行(ヤマハファクトリー)が、全日本ロードレースの後半戦のスタートを、きっちり勝ち切った。
ケガ以来、初めてのライディングとなった17日金曜の事前走行。ここで3番手タイムをマークした中須賀は、思ったより自身のけがが軽かったことを確認したという。
「転んで以来、初めて乗りました。大丈夫かな、ちゃんと走れるかな、って感じだったんですが、思ったよりちゃんと走れました。でも、全力で走ろうと思ったら……3周が限度かな。痛ったいですよ、なんか痛み止めが効かなくて」(中須賀)
ツインリンクもてぎは、ご存知の通りストップ&ゴーと呼ばれるレイアウト。ガバッと開けてギュッと停める、全開全閉ハードブレーキングが続く。ハードブレーキングが持ち味の中須賀にとって、強みが出せない、しかも体力にも不安が残る一戦。
ここまでのシーズンの流れを整理しておくと、中須賀は7戦6勝を挙げてランキングトップ。ランキング2位の渡辺一馬(チームグリーン)/高橋巧(Team HRC)に34ポイント差をつけて独走している。このレース、思い切って休むのも考えだろう。ポイントリードが減るのが怖いならば、せめてポイントを獲得して、6位/15ポイント、いや10位/11ポイントでも獲っておけばいい。表彰台に乗れたら望外の結果――本人に確認はできないし、そう水を向けても「なに言ってるんですか、勝ちに行きますよ」と言うに決まっている。

画像: 予選を終えての中須賀 この時点では、まだ23周の決勝に不安があった

予選を終えての中須賀 この時点では、まだ23周の決勝に不安があった

土曜の公式予選はノックアウト方式。Q1から、中須賀の後輩、野左根航汰(ヤマハファクトリー)の調子がいい。
「もてぎは地元だし、いちばん好きな、走り込んでいて相性のいいコース。僕のライディングスタイルに合っているというか、どこの区間がどう、ってことはないんですが、攻め甲斐がある、攻めたらタイムに結び付くコース。逆に鈴鹿なんかは、頑張ってもタイム出なかったり、難しいです」(野左根)
中須賀は2番手タイム。ただし、負傷の影響もまだある。
「まだちょっと万全じゃないですね。フロントローに並べたらいいな、ダメかな、と思ってたんで、意外と走れた。3周アタックして、4周目も行こうと思ったら力が入らなくて……。この状態でもタイムが出るようなマシンを作ってもらって、トレーナーさんも走るたびに場所を変え、貼り方を変えてテーピングしてくれたり、不安だけど諦めない。諦めたらそこでレース終わっちゃうから」
3番手の高橋巧は、鈴鹿8耐でヤマハファクトリーに敗れて、全日本で巻き返したい、そんな後半戦のスタート。
「金曜の合同走行で転んじゃって、ちょっと流れを途切れさせちゃいましたけど、予選はまずまず。4輪との併催で、走るたびにコンディションが違うんですけど、だいたい想定してたタイムで回れました。転んで、ちょっと攻めきれなかったかな。明日の朝フリーでマシンをキチッと作って、決勝に臨みたい」

画像: 決勝日朝のフリー走行 開始すぐに真後ろにつけた野左根(写真後方)を引き離す高橋

決勝日朝のフリー走行 開始すぐに真後ろにつけた野左根(写真後方)を引き離す高橋

しかし、決勝日の朝フリーで、この高橋がキレた走りを見せる。コースサイドで写真撮影していて、走りもキレているし、休まずに走り続ける気合の入りっぷり。タイムも、なんと自身の予選を上回るほどで、この高橋の走りを見た野左根が「ヤバい、巧さんが速すぎる」とボヤいたほど。事実、フリー走行が始まってすぐ、高橋の後方につけていた野左根は、ほんの数ラップで引き離されてしまっている。もちろん、ふたりともレースペースで走っていたわけではないだろうけれど、野左根は高橋を優勝への敵だと認識している以上、真後ろで走りを見ていたかったはず。それもできないスピード差だった。

画像: 1周目のビクトリーコーナーはこの順

1周目のビクトリーコーナーはこの順

決勝レースも、その高橋の好スタートから始まる。高橋の今シーズンのスタートはズバ抜けていて、鈴鹿8耐でも、レオン・ハスラムにホールショットを奪われながら、2コーナーでは抜き去っているし、8レース目となる全日本でも、1コーナーで他車にぶつけられた開幕戦のレース2以外は、ほぼホールショットを決めている。
やや遅れて中須賀、後方に津田拓也(ヨシムラスズキ)をはさんで野左根、中須賀、渡辺一樹(ヨシムラスズキ)、渡辺一馬(チームグリーン)、秋吉耕佑(MotoUPレーシング)。すぐに中須賀が前に出て高橋を追い、津田、野左根、渡辺一樹の順。ここから数周をかけて高橋、中須賀、野左根の3人がレースを引っ張っていく。
気温が上がった決勝日、しかも周回は23周という長丁場は40分を超えるレースタイムは、いかにも中須賀に不利。高橋もそれを承知で、最初から飛ばしていって、後方を引き離したい。野左根は前のふたりのペースを見ながら、タイミングを見て仕掛けたらいいけれど、朝フリーの高橋の走りを見ているだけに、高橋を逃がしてはまずい――そういう序盤戦だった。

画像: レースの大半は、この高橋→中須賀→野左根の順

レースの大半は、この高橋→中須賀→野左根の順

レースが折り返しを迎えるころにも、依然トップ3は高橋、中須賀、野左根の順。引き離したい高橋、離れない中須賀、食らいつく野左根。しかし、残り10周で均衡が崩れていく。14周目、野左根が中須賀をかわして2番手に浮上すると、翌15周目には高橋をもかわしてトップに浮上! ふたりの後方を走っていた野左根は、一般的に前のふたりよりタイヤも持たせられているはずで、抜かれてがっくり来ている中須賀、タイヤを使い切っているはず高橋相手では、ここで勝負あった――そう思ったのに。

画像: トップに出た中須賀は、そのまま逃げ切って優勝!

トップに出た中須賀は、そのまま逃げ切って優勝!

画像: 野左根と高橋は、終盤に中須賀について行けず…

野左根と高橋は、終盤に中須賀について行けず…

しかし、ガックリ来ているはずの中須賀が猛然とスパートし、なんとなんと野左根を再逆転。このタイミングで攻めた中須賀は、そのまま野左根と高橋を引き離し、そのまま勝ち切ってしまったのだ。
「自分にしては、いつもよりちょっと早く仕掛けた。いったん前に出て、すぐにコータも巧君も来るだろうと思っていたら、意外と逃げられたから」と中須賀。
結局、周回遅れが出始めたタイミング、相変わらず周遅れの処理が上手い中須賀が、野左根と高橋を2秒以上引き離してフィニッシュ。8戦を終わって7勝目を挙げたのだ。

画像: チームに迎えられて涙する中須賀 こういう時、中須賀は感情を抑えない それがいい

チームに迎えられて涙する中須賀 こういう時、中須賀は感情を抑えない それがいい

――ケガは大丈夫?
「ケガ?してないよ(笑) キツかったけど、諦めないで走った。この1勝は大きいよね」と中須賀。相変わらず、笑いながらケガを一切認めない中須賀だけれど、感覚が鈍るから、と痛み止め注射を拒否して服用した痛み止めが効かずに、テーピングで固めた右腕は、表彰式では力が入らなかったようで、左手で右手を持ち上げるようなしぐさも見ることができた。無意識でのこの動きは、きっとサーキットを離れた日常生活からやっているはずだ。
正直言って、手負いの中須賀を負かせなかった以上、高橋と野左根にこの後の勝ち目はないだろう。苦境で、それをハネのける精神力を見せた中須賀、痛みに耐えてよく頑張った!

画像: なんどか右肩をかばうしぐさを見せた中須賀(中央) ひとりになるまでは痛い顔を見せない

なんどか右肩をかばうしぐさを見せた中須賀(中央) ひとりになるまでは痛い顔を見せない

これでレースは、オートポリスで2レース、岡山国際で1レース、最終戦鈴鹿で2レースの、残り5レース。最大獲得ポイントは125(最終戦にはさらにボーナスポイントがあるはず)あるため、岡山が終わるくらいまでは中須賀にチャンピオン獲得へのマジックがつくことはないが、事実上、中須賀と高橋、それに渡辺一馬、野左根といったメンバーでのチャンピオン争いで、中須賀の死角は、ほぼない。
「痛いとこをカバーして走った分、今までよりブレーキが掛けられなくて、その分速くなった区間タイムもあったんよ。また進化しちゃったかも」という中須賀の強さばかりが目立ったもてぎ2&4だった。

■決勝レース結果

優勝 中須賀克行 ヤマハファクトリーレーシング
2位 野左根航汰 ヤマハファクトリーレーシング
3位 高橋 巧  TeamHRC
4位 津田拓也  ヨシムラスズキMOTUL
5位 渡辺一樹  ヨシムラスズキMOTUL
6位 渡辺一馬  カワサキTeamグリーン
7位 秋吉耕佑  au テルルMotoUPレーシング
8位 加賀山就臣 TeamKAGAYAMA
9位 清成龍一  KYBモリワキMOTULレーシング
10位 高橋裕紀  KYBモリワキMOTULレーシング

写真・文責/中村浩史

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