日本はもとより、世界の陸・海・空を駆けめぐるさまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版として再度お届けする第2回は、星型エンジンや回転するロータリーエンジンについて紹介する。(この記事は2016年9月当時の内容です)

航空機黎明期に登場した、怪物構造エンジン

画像: 第1次世界大戦の撃墜王「レッド・バロン」ことリヒトホーフェン最期の乗機となったフォッカー Dr.I。典型的な黎明期の戦闘機だ。

第1次世界大戦の撃墜王「レッド・バロン」ことリヒトホーフェン最期の乗機となったフォッカー Dr.I。典型的な黎明期の戦闘機だ。

以前に、2008年公開の映画「レッド・バロン」を観たことがある。第一次世界大戦随一のドイツ空軍撃墜王の物語だ。ドイツ製の戦争映画は、隅々までリアルで面白い。中でも、気になったのが飛行機のエンジンだ。どう見ても、プロペラと一緒にエンジンがブンブン回っている。レプリカの実写とCGの合成と思うのだが、回転するエンジンが強く印象的だった。調べると、このエンジンこそ「ロータリーエンジン」と言うそうではないか! そこで、今回は構造上の怪物エンジンを紹介することにした。

画像: なんとエンジンが回っている! プロペラと一体のエンジンが回転する! これこそ「ロータリー」エンジンだ。(フォッカー D.VⅢ)

なんとエンジンが回っている! プロペラと一体のエンジンが回転する! これこそ「ロータリー」エンジンだ。(フォッカー D.VⅢ)

黎明期のガソリンエンジンは、クルマとともに進化したというより、軍用機のために高性能化・小型軽量化・高信頼性を急いだといった方が適当だろう。例えば、史上初のガソリン自動車はカール・ベンツの三輪車(1885年)だが、1888年には飛行船がダイムラーのガソリンエンジンを搭載している。

飛行機というのは、小型軽量のガソリンエンジンありきで実現した乗り物であり、1903年にライト兄弟が直4の4L(12hp)という自家製エンジンで、飛行に必要だという速度の48km/hを出せたことが、史上初の動力飛行機の成功となった。当時、出力対重量が飛行機に叶う自動車エンジンはなかったので、エンジンをライト兄弟が自作したわけだ。史上初の動力飛行からわずか11年後には、第一次世界大戦が勃発。そしてプロペラ機全盛の第二次世界大戦終結(1945年)まで、軍用機とガソリンエンジンは並行して劇的な進化を遂げたことになる。

画像: 星型エンジンの概念。4サイクル/4行程を2気筒ずつ。これに点火が加わり9気筒。初期は5〜7気筒。第二次大戦の頃になると二重配置で14〜18気筒が一般的になる。

星型エンジンの概念。4サイクル/4行程を2気筒ずつ。これに点火が加わり9気筒。初期は5〜7気筒。第二次大戦の頃になると二重配置で14〜18気筒が一般的になる。

話を戻そう。エンジンがプロペラと一緒に回るのは、星型ロータリーエンジンであると分かった。まずは、星型エンジン自体を説明しよう。

その代表は、ほとんどの日本人が知る「零戦」のエンジン。なんとなく見覚えがあるだろう。星型エンジンは名前の通り、クランクシャフト(ケース)を中心に5つ以上のシリンダーを放射状に並べたエンジンで、4サイクルだから、吸気→圧縮→点火→膨張→排気の行程を5本以上のシリンダーが担当するという効率的な仕組みだ。

最大の長所は、直列はもちろんV型や水平対向よりシリンダーの配置がとてもコンパクトなこと。横から見ると、ひとつのクランクを複数のコンロッドが共有するので、クランクシャフトはほぼ1気筒エンジンの長さで済む=奥行きのない小型軽量エンジンになるのが大きな特長だ。技術的に材質的にも、長大で複雑な形状のクランクシャフトより製造難度が低くなる。

また正面から見ると、シリンダーブロックが花弁状に配置されているので、空冷効率が高く、水冷エンジンのようなラジエターや冷却用配管が不要となる。当初の5気筒から7気筒、9気筒と大型化しても、これらの特長は変わらないので、飛行機に最適なエンジンだった。

エンジンとプロペラが一緒に回転する?

星型エンジンの中でも第一次大戦時代に主流だったのが、エンジンとプロペラが固定されて一緒に回転するロータリーエンジンだ。クランクシャフトの延長部分を胴体に固定し、エンジン側を回転させることで、当時の工作技術では難しかった冷却フィンの放熱不足を補える。航空機エンジンに重要な、トルク変動を抑えるためのフライホイールも、エンジン自体が回転すれば不要だ。バルブ駆動やプラグ点火も単純な仕掛けで済むなど、単純な構造で当時の工業技術に見合った形式だった。

このヒット作が、1909年頃からフランスのノーム・エ・ローヌ社が製造した9気筒16Lの100〜110hpクラス。エンジン重量は、たった135kg。軍用機エンジンとして、さまざまなメリットを持つローヌ製エンジンは、敵味方を問わず欧州各国でライセンス生産やコピーされた。ドイツ空軍のフォッカー各機が搭載したオバーウルゼルも、すべてローヌのコピーだった。

画像: フォッカーと同機の骨組みだけの機体。左端がプロペラで右端が操縦席。星型ロータリーエンジンが、いかに小型かわかる。

フォッカーと同機の骨組みだけの機体。左端がプロペラで右端が操縦席。星型ロータリーエンジンが、いかに小型かわかる。

4年間の大戦中、軍用機はまさに黎明期で機体形状やエンジン、武装も多種多様な模索が続いた。戦闘機による空中戦の基本は、速度より旋回運動を重視した「格闘戦」である。撃墜王リヒトホーフェンも、アルバトロス戦闘機の方が大出力であったにも関わらず、最期の乗機は速度が160km/hと鈍足でも運動性の高い三葉機のフォッカー Dr.Iだった。

とはいえ、大出力化・高速化は必然だ。速度が200km/hに達した大戦末期になると、星型エンジンも高出力化のために排気量を拡大し回転数も上がった。大型化と高回転化により、エンジンが回るロータリー式では強い「ジャイロ効果」が発生し、旋回性能や操縦性が著しく悪化した。他方で、強い遠心力のため、オイル潤滑やエンジン全体の強度にも対応できなくなった。

星型ロータリーエンジンは行き場を失い、わずか9年足らずで歴史の舞台から完全に消えてしまうのであった。(文 & Photo CG:MazKen)

■オバーウルゼル Ur.II

空冷・星型ロータリー式9気筒/2バルブ OHV
排気量:約16.3L
燃料供給方式:キャブレター
燃料:40/50オクタン ガソリン
出力:110hp/1200rpm

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.