月刊オートバイの特別付録であるRIDEの巻頭を飾るのは、東本昌平先生書き下ろしの一話完結の劇画。多くのバイク乗りの心を掴む名作ぞろいだが、その中で一つの世界観の中で連作として作られている話がある。「The Triple Ace」「The Red Snake Come On!」「Purchase It!」の三作だ。
マッハ乗りの青年が女を捨てて失踪する。彼を追う女はやがていっぱしのマッハ乗りになっていく。そして消えたはずの青年は女ではなくバイクを懐かしみ、戻ってくる・・・。
マッハことKAWASAKI 500SS MACH IIIと、YAMAHA RZ350の、稀代の2ストロークの名車を絡めて、男と女の交錯しない恋愛劇を描いた、味わい深い名作だ。

「The Triple Ace 」
恋人に、自分の甲斐性なしを、動かないマッハに例えられてヘコむ青年

マッハを買ったものの、調子が出ず、同棲している彼女にバカにされて奮起する男。
せっかく手にいれたマッハだったが、思うようにスピードも出ず、しかもすぐに壊れてしまう。
肩を落とす男に、後ろに乗せた彼女の冷たい言葉が突き刺さる。「ムリして高いお金払ったのに」「あんたと同じで期待ハズレね」
この言葉を聞く限り、どうやらこのマッハ。彼女に金を払ってもらったようだ。
これでへこまない男はいないだろう。

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女の冷たい詰りに傷つく男だったが、実は1年ほどマッハを動かさないままに放置していた。しかも、この男 どうやらニートっぽい。彼女の稼ぎで暮らしている、ヒモ状態。

そんな彼だったが、やがて自分に向き合う瞬間がやってくる。
ヒモでいることを心から受け容れられる男もいれば、そうでない男もいる。止むを得ずそうしたヌルい環境に甘んじていたとしても、そんな自分を許せなくなる男もいるのだ。彼もまたそうだったのだろう、不動車に成り下がったマッハを、彼は自分自身のように思ったのかもしれない。思い立ち、マッハを自らの手で修理しはじめる。

そして、このあと、なぜか男はオンナとバイクを捨てて失踪する・・・・・。

「The Red Snake Come On!」
マッハを置いて消えたオトコを追うオンナ

主人公の女性は、自分を置いてどこかに消えた男を追って、彼が残したモーターサイクルにまたがって旅に出る。泣くのではなく恨むのではなく、エンジン音を轟かせて、追うのである。

そのバイクとは、 KAWASAKI 500SS MACH III 、いわゆるマッハだ。女性が簡単に乗りこなせるバイクじゃない。なにしろ1969年製造であるうえ、当時からして速すぎて扱いづらい、ジャジャ馬と称される”止まらない曲がらない”バイクなのだ。

彼女はマッハとともに全国を回りながら、キャバクラや飲み屋のアルバイトをしながら旅費を稼ぎ、また旅に出る。それは自分とマッハを置いて去った男を見返すためなのか、それを乗りこなしている自分を見せるためなのかは、彼女自身にも徐々にわからなくなっていくのである。。

「Purchase IT! 」マッハの代わりにRZ350を手に入れる男

同棲していた女とマッハを捨てて消えた男。
何かを変えようと、全てを捨てたはずの彼は、3年経っても根無し草のままだった。
パチンコで暇をつぶし、淀む河に浮かぶ落ち葉のように漂っていた。

結局何も変わっていない自分に苛立つ中、降りたはずのバイクに目が止まるようになる。
ただスロットルをひねれば手に入った疾走感。無邪気なまでの快感。

もう一度あの極上の加速を、流れる風景を、強い疾走感を取り戻したい。
3年ぶりに思いだした熱い気分を、男は抑えることができなくなる。

そこで、かつてマッハを買ったバイク屋に足を向けるが、もちろんそこにマッハはすでにない。

マッハの姿がないことに落胆する男だったが、考えてみれば当たり前のことだ。
しかし、彼の視線は、店の隅に鎮座する一台のバイクに吸い寄せられるのだ。それはRZ。
YAMAHAのRZ350だった。

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マッハと女が、自分を追っていることを知ってか知らずか、彼はRZを駆って彼女を探し始める。
彼女を探すために走っているのか、忘れていたはずの 一生手放したくない極上の加速に酔い痴れるためか、もはや彼にはわからないし、それはもう関係ない。

男の時間は再び動き出したのだ。

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これら3作を含む東本昌平先生の”今”。モーターマガジン社の『RIDEX』シリーズ(現在13巻まで発売中)で読めるので、ぜひ。

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