ローマ帝政下で拳闘士として育てられた少年セスタスが、体格には恵まれずとも、その神速と言える拳闘技術でライバル達との死闘を勝ち抜いていく様を描いた、技来静也先生渾身の、格闘漫画の大傑作です。
もともとは『拳闘暗黒伝セスタス』(全15巻)として連載されてしましたが、掲載誌が変わったことをきっかけに、『拳奴死闘伝セスタス』として再連載。現在6巻まで発刊されています。

多様な魅力を持つ格闘劇画であり、ローマ時代を学ぶ良いテキスト

画像: 天才拳闘士セスタス©技来静也先生・白泉社

天才拳闘士セスタス©技来静也先生・白泉社

本作の魅力は、何と言っても緻密でありながらダイナミックに描かれる格闘シーンです。セスタスは、拳奴=拳闘士なわけで、多少ルールが異なるものの基本的にはボクサーです。
(キドニーブロー=腎臓打ちや、後頭部への攻撃など、現代のボクシングでは禁止技な攻撃も許される)
しかし、ローマ時代の奴隷を使った見世物である格闘興行には剣や槍などを使う剣闘士や、いまでいう総合格闘技のような素手であれば、何をしてもいいような格闘士も存在し、彼らの多様な戦いが繰り広げられ、ボクシング以外の格闘技ファンにもたまらない作品になっています。

また、本作の時代背景は、悪名高い皇帝ネロの即位を前後しており、帝政ローマの政治劇や周囲の都市国家との蹉跌や、汚職が進み始めた地方行政官たちとの関係性などが、緊張感をもって描かれ、単なる格闘漫画を超えた完成度が見受けられるのです。理想の君主を目指していたはずのネロが徐々に暗黒面に取り込まれていく様子や、彼を精神的に支配する母親の悪女ぶりなど、それだけを題材にしても一つ作品を作れるほどの、素晴らしい限りの取り組み方なのです。

さらに、主人公セスタスを取り巻くキャラクター達も実に魅力的。
終生のライバルと目される天才格闘士ルスカは、拳奴達の暴動の中で若き婚約者を亡くしたことや、実父である最強の格闘士デミトリアス(皇帝の護衛を担う徒手格闘兵団衛帝隊の隊長)との確執など、深く切ないトラウマを抱えており、やがてセスタスとの激突が予想されています。
さらにルスカの同僚である美貌の拳闘士アドニスは、セスタスと非常に近しい格闘スタイルに、セスタスを上回る天賦の才を誇っており、近々セスタスの前に立ちふさがることになりそうです。

画像: ライバル ルスカと相見えるセスタス©技来静也先生・白泉社

ライバル ルスカと相見えるセスタス©技来静也先生・白泉社

画像: 神速の拳士アドニス©技来静也先生・白泉社

神速の拳士アドニス©技来静也先生・白泉社

過酷な運命の悪戯に抗い、己の力と、信ずる者を頼りに戦う男達の姿に感動

本作では、戦うことを義務付けられた多くの少年たちが、自らの技術と強運を信じて、戦いに挑んでいきますが、同時に課せられた過酷な運命に抗う、人生劇でもあります。
セスタスは、勝ち続けることでいつか自由の身になることを信じて戦います。また、彼の出生自体になにか秘密がありそうです。
彼の師であるザファルもまた、元天才拳闘士であり、ルスカの父デミトリアスとの因縁や、セスタスの出生にまつわる秘密を抱えていそうです。
ルスカはいつか父デミトリアスを超えていくことを宿命づけられているし、皇帝ネロは母親の支配から脱するためにもがくことで暗黒面に囚われはじめます。
こうした複雑に絡む運命の糸を、死に物狂いの戦いを続けながらほぐしていく登場人物達。実に見事な活劇であり、人生ドラマなのです。

画像: セスタスを導く最高の師匠ザファル©技来静也先生・白泉社

セスタスを導く最高の師匠ザファル©技来静也先生・白泉社

なかなか知られていない作品なのかもしれませんが、本当に面白く、丁寧に織り込まれたストーリーとリアルな格闘シーン、切なくも壮絶な時代に翻弄される人間達の運命劇は、格闘技に興味がない人でも夢中になること請け合いです。

ぜひ、まとめ買いして、セスタスの戦いに参加してくださいませ!
トーマス、今度からセスタスと名乗ろうかと思っちゃうくらいハマっております。

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