『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)にて1975年〜1985年の完結まで、多くの読者からの支持を集め、10年に渡り長期連載された『 750ライダー 』。
少年漫画としても、バイク漫画としても歴史に名を残した大ヒット長編バイク漫画がどのように生まれたのか・・・。この連載ではモーターマガジン社から出版されている「750ライダーファンブック」の記述を元に750ライダーの誕生までの経緯から、制作現場の裏事情をご紹介していきます。(akiko koda@ロレンス編集部)

前回までの記事はこちら
Vol.1石井いさみさんが“超売れっ子!”になるまで >
Vol.2石井さんの青春を取り巻いたクルマとバイクたち、バイクの意識が変わったエピソード >
Vol.3『750ロック』誕生。そして『750ライダー』へのスピンアウト!>

長期連載作品であることの重責

コミック作家という職業は、常に締め切りに追われているなんてイメージがありますよね。
そのイメージはあながち間違えではなく、「作家」という職業の裏の「想像を絶する難行」がお分かりいただけると思います。

たとえば映画はどのように作られるか、考えてみるといい。全体をコントロールするのが監督であるのはもちろんだが、必要となるパートは専門のスタッフが請け負う。照明であり、撮影であり、背景を含む大道具、小道具はもちろん、コスチュームやヘアメイク、効果、演出、配役、そして演技をする俳優。さらに用意されるストーリーに脚本など、選び抜かれた相当数のエキスパートたちが集結して、それぞれの才能と努力がひとつに注ぎ込まれて作品を形成する。

ところがコミックを製作するという作業は、多くの場合、これらをたったひとりで行なうのが通例だ。パートナーとなる担当編集がいくら優秀で、作家さんが望む作画に必要な資料を迅速に捜し出すことに長けていても、それを限られた時間の中で作品にまとめ上げるのは、やはり作家さんひとりの作業なのである。週刊誌での連載ともなると、個人の作業では物理的に間に合わない。アシスタントさんを数人使っての作業になるのだが、彼らのマネージメントも、また作家さんの重要な仕事になってくる。(文:船山 理)

画像1: 750ライダー カラー画集~前編より~@750ライダーファンブック

750ライダー カラー画集~前編より~@750ライダーファンブック

石井さんと同世代の作家の中には、この過酷な作業により精神面、肉体面の負担から早逝する方も数多くいます。

しかし、そんな中でも『750ライダー』という作品の中では季節が廻り、夏休みやクリスマスも過ぎ去ります。その間、主人公の早川光は、その間ずっと高校生のままで居続けました。

これを繰り返し、石井さんは『750ライダー』の週刊連載を、1本も休むことなく約10年間続けました。

そう、作品はまさに永遠なのです!

「1話完結」の呪縛から脱出

『750ライダー』の連載にあたって、少年チャンピオン側から 「1話完結」にして下さい という課題を与えられました。
ごく単純なオファーのように思えますが、このプレッシャーは、やがて石井さんに襲いかかるのです。

ロングストーリーの続きものであれば、序盤から中盤、そしてエンディングに向かってドラマを組み立てる作業となり、その都度、全体を見渡すこともできるのだが、1話完結となると、毎回がおもしろいか否かの勝負となる。

つまりコンスタントに人気を維持するには手を休めるヒマなど、どこにもない。1週間に1本、これぞというストーリーを考え、形にするという作業を、くり返し行なうということだ。秋田書店によるパーティに呼ばれた石井さんは、そこで手塚治虫さんと再開し、彼の前で自身の抱える悩みを吐露してしまう。(文:船山 理)

画像2: 750ライダー カラー画集~前編より~@750ライダーファンブック

750ライダー カラー画集~前編より~@750ライダーファンブック

滅多に弱音を吐くことのない石井さんだったが、よほどまいっていたに違いない。しかし、このとき手塚さん自身も少年チャンピオンで『ブラックジャック』を連載中であり、この作品も1話完結に近いものだったことから、石井さんの悩みや迷いは手に取るように理解できたに違いない。

手塚さんは石井さんに向って「オレだって頑張ってるんだ。お前も頑張れよ!」と告げた。こう言われては石井さんも返す言葉がない。手塚さんも同じように辛いんだ。だったらもっと打ち込むしかない。『750ライダー』は、やがて押しも押されもせぬビッグな作品に登り詰める。これは、このときからのさらなる努力の結果であると言っていい。

そして石井さんは拡大する読者層に合わせ、緩やかに舵を切ることを決意する。より多くの読者にアピールするため、意識的に「爽やか路線」にシフトされた『750ライダー』は、ストーリー のシビアな構成や、起承転結の妙にこだわらずとも、高い人気を維持したまま推移して行った。

これは石井さんの目論見どおりであり、次に考えることは「如何にしてこの作品を終わらせるか」だった。それは人気が絶頂である今を置いて他にない。人気が下降したあげく、フェイドアウトさせられるのはまっぴらだったからだ。(文:船山 理)

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