古代のバイオハザードだった性感染症

先日人間が一夫一婦制を行うようになった理由が性感染症の拡大を防ぐためだったという研究結果をカナダ・ウォータールー大の研究グループが科学誌「Nature Communications」で発表した。

小集団だった狩猟採集型から定住する農耕型に移行する中で,集団の人数が増え,性感染症の広がりが集団の生殖能力と繁栄力に制限を与え,集団の人口増加の妨げになったことから,性感染症の広がりを防ぐために一夫一婦制を集団の規律として採用したのでは無いかという研究結果だ。

この仮説は中々興味深い。狩猟採集型は動物でも通常見られるスタイルだが,確かに農耕型で大集団を作り村から町へと他の動物には無いスタイルを人類は築いた。性感染症は人類にとって自分達の集団を壊滅させるまさに「バイオハザード」だったのだ。

為政者にとって必要だった宗教と価値観

そうした状況の中で集団のリーダーとしての為政者達にとって性感染症を防ぐための制度が必要だった。しかし,コンドームも抗生物質も無い当時にできることは不特定多数との性行為を減らす仕組みだったと言える。そのための仕組みこそ宗教とそれをベースとした価値観だ。処女が汚れていないという考え方も性病を持っている可能性がゼロであるということかも知れない。検査もできない当時は一回でも性行為をしたら感染している可能性が出てくるからだ。少し話がそれるがイスラムの世界で豚を食べることを禁止されているのも豚が様々な病原菌を持っていることが関係していると言われている。当時は感染症を防ぐための規律としての宗教の役割が大きかったということかも知れない。

テクノロジーが克服した現代

しかし,現代はそうしたリスクはテクノロジーによって解決されようとしている。不治の病と言われ恐れられたHIVについてもその発症を防ぐ技術が年々進歩しており,普通の生活を送れる人がどんどん増えている。性感染症もほとんどは治療可能だ。防ぐ手段としてのコンドームもとても低コストで普及している。また昔は誰の子供かを調べる技術も無かった。父親が特的できないことは財産を相続していく生活スタイルを導入した人類にとって不都合なことが多かった。それも一夫一婦制採用の理由の一つだろう。しかし,現代ではDNA検査も非常に簡易にできる。

もはや現代の人類が一夫一婦制を採用するとすれば古き良き宗教観を大事にするということだけだろう。実際イスラム教は戦争で男達が少なくなった時にそれを解決するために導入された一夫多妻制が守られ続けている。このコラムでも何度も指摘している通り,現代は多夫多妻,もはや婚姻制度も必要としないポリアモリーな恋愛の中でお互いが自立した個として多様な家族スタイルを作る時代に突入したと言える。今回の研究結果はあらためてその流れを実証してくれる重要な仮説なのだと言えるだろう。

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