先日ネット検索をしていたら、トンデモないことを主張している人を発見してビックリしました。なんでもその御仁、第2次世界大戦にイタリアのピアッジオ社はベスパ・スクーターに大砲を積んで、実戦に投入していたという論を述べているのです。おいおい・・・戦後の荒廃のなか航空機を作れなくなったこともあり、ピアッジオ社はコラディーノ・ダスカニオという天才技師の設計によるベスパ・スクーターを社の存続をかけて生産したんだろ、というベスパ・ファンの常識すら知らないのか・・・と眩暈を覚えました。

インパクトは絶大。まるで漫画に登場する兵器です。

しかし、その御仁をあえて弁護するなら、このベスパの姿を見たら、こんなコミカルな兵器が活躍していたら、すげぇ面白いじゃんって絶対思うよね? 第二次世界大戦でも活躍していて欲しいよね、って誰もが思うよね? と言ったところでしょうか・・・(わかっています。チョー無理がありますね・・・)。

画像: こちらが問題?の、大砲を積んだベスパスクーターです。 upload.wikimedia.org

こちらが問題?の、大砲を積んだベスパスクーターです。

upload.wikimedia.org

このベスパスクーターは1956年に登場した「150TAP」というモデルで、実はイタリアで作られた車両ではありません。TAPはTroupes Aéro Portées=空挺部隊を意味するフランス語で、ACMA=Ateliers de Construction de Motocycles et Automobiles (2輪車及び4輪車組立工場)という、ベスパスクーターのライセンス生産をしていたフランス企業の作品なのです。

ズドーン!と車体を貫いて搭載されるのは、アメリカ製のM20・75mm無反動砲。パラシュートで降下させて、戦線で兵士と共に活用するというコンセプトは、第二次世界大戦で使用されたウェルバイクやフライング・フリーと近いものがあるといえるでしょう。

メリットは・・・あまりないかも・・・でも活躍しなくてそれで良いのです。

画像: 強制空冷2ストローク146ccエンジンほか、基本的なコンポーネントは民生用ベスパスクーターの流用です。 s.yimg.com

強制空冷2ストローク146ccエンジンほか、基本的なコンポーネントは民生用ベスパスクーターの流用です。

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まぁ結論から言いますと、ベスパスクーターにM20・75mm無反動砲を運ばせることのメリットは、4輪車よりもはるかに安価な乗り物であるスクーターでの運用、という点に尽きると思います。150TAPは当時約500USドルのコストで、無反動砲を運搬するための乗り物として考案されたにすぎない兵器でした。車体に砲身を搭載した状態では照準を合わせるのが難しいため、砲を下ろして三脚に積んで使う・・・という面倒臭い使い方も考慮されていたのですから、ある意味最も安価な方法で無反動砲をとりあえず運搬しよう・・・という発想の産物とも言えます。

この150TAPは約150台が製造されましたが、まぁ他の兵器のヒット作と比べたらたいした数字ではないです。「主役」たるM20自体もこの150TAPが作られた時代には、すでに時代遅れになりつつあった無反動砲でしたので、たいした活躍や発展のしようもない兵器だったかもしれませんが・・・。今の視点だから言えることですけど、過去を振り返ると何で国家を代表するような天才たちが、こんなバカバカしい兵器作ったんだろ・・・と思える兵器は、この150TAPに限らず数多くあったりします。

ただ、ホントこの見た目のインパクトは強烈ですね。戦争・紛争での活躍って、とどのつまりコレでどれだけ効率的に人殺しができたか・・・ですから、150TAPが活躍しなかったのは良かったなぁ〜とモーターサイクル趣味人的視点では思うのですが・・・一方で、先述の御仁がこのユーモラスな姿の兵器の活躍を妄想するのを、ミリタリーおたく的な心境から非難することは私にはできないのです(その御仁のミリタリーおたくにあるまじき、勉強不足ぶりには呆れはしますが)。

もちろん、ミリタリー好き兼平和主義者?の私としては、この俗称キャノン・ベスパ、またはバズーカ・ベスパは、漫画や妄想の中でだけ活躍してほしいですね・・・(苦笑)。

画像: vespa tap ...a passeggio youtu.be

vespa tap ...a passeggio

youtu.be
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