無人の遠隔操作による戦闘機”ドローン”で戦争する時代。戦闘員は、ゲームセンターでシューティングゲームに興ずる若者たちからリクルートする。
近未来の話ではない。むしろ本作の設定は、2010年前後であり、まさしくいま進行している現実を描いた、事実に基く物語である・・・・

日本での公開は2015年10月1日予定の話題の映画、『ドローン・オブ・ウォー』の試写会に呼んでいただけたので、レビューをさせていただく(もしかしたら日本最速になるのか?)。

イーサン・ホークと、監督であるアンドリュー・二コルは、DNAの優劣で人間の適性を決めてしまう未来を描いた、『ガタカ』でもタッグを組んでいる。『ガタカ』は間違いなくSF映画史上に残る名作である。だからこの『ドローン・オブ・ウォー』の試写会にはかなり大きな期待をもって臨んだ。

「ガタカ」を手がけたアンドリュー・ニコル監督とイーサン・ホークがタッグ

本作の原題は「GOOD KILL」。敵を効率よく瞬時に抹殺したときの褒め言葉、もしくは自画自賛の言葉である。邦題のごとく、無人戦闘機=ドローンを使った戦争を描いている。戦いの相手は主にイスラム過激派のテロリストだ。
イーサン・ホークが演じる主人公トミーは、元は優秀な戦闘機乗りだった。いまはドローンを使って、アフガニスタンやパキスタンなどに潜む、自由主義陣営に敵対するイスラム過激派のテロリストを殲滅するために召集されたチームの一員である。

トミーは、過去にF16(米国空軍の主力戦闘機)のパイロットであったが、いまでは無人飛行機をエアコンの効いた室内から遠隔操作している。
人を殺すこと自体は戦争だからしょうがない、と良心の咎めをどこかにしまいこめるだけの図太さは持っているが、それは自分自身もいつ撃墜されるかもしれないというリスクを負っているからのことだ。

しかし、いまでは米国内の基地に設置されたコンテナの中で、なんの危険もなく、一方的に相手を爆撃するだけだ。だからトミーは自分自身の中で折り合いをつけられずに、精神のバランスを崩し始めている。

設定としては、『アメリカン・スナイパー』と同じで、戦争によってトラウマを追い、主人公がPSTDに苦しむという話だが、本作はより複雑だ。『アメリカン・スナイパー』では数ヶ月単位で戦場と日常をいったりきたりするが、『ドローン・オブ・ウォー』では毎日戦場と日常を行き来する。基地に通勤し、戦争をする。そして夜には家で眠るのである。この短時間での切り替えは、結局短期間で兵士の精神バランスに異常をきたすようになる。

画像: 米軍基地内にならぶコンテナー www.drone-of-war.com

米軍基地内にならぶコンテナー

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画像: 中はハイテクなゲームセンターのような趣。 www.drone-of-war.com

中はハイテクなゲームセンターのような趣。

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画像: 操作をする主人公トミーの眼に映るのは・・・・? www.drone-of-war.com

操作をする主人公トミーの眼に映るのは・・・・?

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画像: アフガニスタンのテロリストのアジト www.drone-of-war.com

アフガニスタンのテロリストのアジト

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画像: 一瞬で爆撃する www.drone-of-war.com

一瞬で爆撃する

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画像: 撃ち終わると・・・・ www.drone-of-war.com

撃ち終わると・・・・

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画像: 車で家に帰る。 www.drone-of-war.com

車で家に帰る。

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戦場と日常の往復という通勤ストレスに加え、過去のアドレナリン爆発の体験に飢餓することのストレスに、追い詰めれらる主人公

『アメリカン・スナイパー』では、天才的スナイパーが、戦場で多くの敵を狙撃して射殺していく中で、帰国しても戦場にいるかのような異常な緊張感を解くことができずに苦しむ、という話だった。愛妻や子供達は、彼のトラウマを理解できず、時として彼を責めるが、それでも彼と一緒に歩んでいく。

しかし本作では、トミーの妻は、トミーが精神的に破綻しつつあるのかの理由を知っても、理解できないどころか、どこか他人事だ。結局トミーの救いにはならない。

また、『アメリカン・スナイパー』と大きく違うのは、『ドローン・オブ・ウォー』のトミーが苦しんでいるストレスの源泉が、単に戦場と日常を行き来することの異常性によるものだけではない、ということだ。主人公トミーは、F16のパイロットに戻りたい、と切望している。どうせ戦争するなら、自分もまた死地にあるべきだと考えるということもあるし、戦闘機乗りとしてのスリリングでエキサイティングな精神状態をある種の脳内麻薬として、中毒になっているのかもしれない。

言い換えると、いつ倒産するかもしれず、毎日なんらかの深刻なトラブルに見舞われるスタートアップ(創業したてのベンチャー企業)で、すべての責任を引き受けて働く起業家が、無念にも再び雇用される身になって、書類整理をさせられているようなものかもしれない。
おそらくは、多大なストレスに、おかしくなってしまう起業家は多いと思う。

つまり、戦場と日常の往復というストレスと、エキサイトメントやスリルに慣れた心が、なんのリスクもないエアコン整備の部屋で淡々と人を殺すという”実務”の退屈さに耐えられなくなっている、とも言える。

これはバイク乗りにも共通すると思うし、起業家にも共通するだろう。自分の命をかけて、ヒリヒリするようなリスクに対する恐怖を乗り越えて戦う。いつかバイクに乗れなくなるのではなく、バイクに乗ってはいるけれど、運転は自動運転。そして絶対に転ぶことはない。そんな状態なら、わざわざバイクに乗る意味がないと僕らは考える。
そう考えれば、本作の主人公トミーの気分に、共感できるのではないだろうか?

映画『ドローン・オブ・ウォー』予告編

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