先日行われたロレンス編集部のツーリングですが、私は「ホンダ エアラ」で参加しました。せっかく都内から神奈川・三浦まで走るのであれば、クラシックモーターサイクルのインプレッション記事を書いてみようか、と思った次第です。今後も機会あれば、ロレンスにてクラシックモーターサイクルのインプレッション記事を寄稿してみようと思います。希望車種のある方は、ぜひぜひリクエストを、コメント欄などを通じてお送りください!

国産スポーツモーターサイクル初のオートマ車

画像: 今回試乗させていただいたホンダ エアラは1980年が初度登録の、最終型モデルです。東京・小金井市のクラシックモーターサイクル専門店、TRカンパニーさんからお借りしました。

今回試乗させていただいたホンダ エアラは1980年が初度登録の、最終型モデルです。東京・小金井市のクラシックモーターサイクル専門店、TRカンパニーさんからお借りしました。

そもそも読者の皆さまの多くは、オートマチックのモーターサイクルに接する機会は少ないのでは? と思います。その推察の根拠は、オートマチックのモーターサイクルのヒット作が未だかつてないからです。ヒット作がない・・・ということは、多くのライダーにとって触れる機会が少ない・・・。多分、間違っていない推察だと思います。

いわゆる生粋のモーターサイクリスト、ではない人に、モーターサイクルに乗ってもらうためには?という試みは、2輪車誕生の100年以上前からいろいろなメーカーによって試みられています。オートマチックもそんな試みのひとつといえるでしょう。クラッチやギアチェンジなどの操作を省くことができれば、その分イージーにモーターサイクルに乗ることができます。即ち、ダレでも扱いが簡単。それならば・・・多くの人が乗ってみようという気になるかも・・・という考え方です。

2輪車の範疇で、オートマチックに最初に熱心に取り組んだのは、コミューターとしてのスクーターです。第二次大戦後にスクーターは安価な交通手段として世界中でヒットしましたが、日本の三菱シルバーピジョンはVベルト変速、富士重ラビットはトルクコンバーターの無段変速のオートマチック機構を、それぞれの製品に1940〜1950年代から採用しています。今日のスクーターの多くはVベルトやCVTなどのオートマチックを採用していますが、これはかつてシルバーピジョンやラビットが目指した方向性が正しかったことの証左といえるでしょう。

画像: シルバービジョンC-10型(1946年)。アメリカのサルスベリー社製モータグライドを手本に開発されました。無段変速のアイデアは日本独自のものではありませんが、日本のスクーター製造業者は上手にその技術を自分たちのものにしました。 www.jsae.or.jp

シルバービジョンC-10型(1946年)。アメリカのサルスベリー社製モータグライドを手本に開発されました。無段変速のアイデアは日本独自のものではありませんが、日本のスクーター製造業者は上手にその技術を自分たちのものにしました。

www.jsae.or.jp

一方モーターサイクルのオートマチックですが、こちらはスクーターほどに普及していないのは周知のとおりです。やっぱりモーターサイクルはクラッチ、ギアチェンジをして、ダイレクトな操作感を楽しむもの・・・という考え方が根強いのでしょうね。古くはアメリカのシンプレックスが、1953年型からオートマチック車をラインアップ。そのほか1970年代にはハスクバーナのオフロード(軍用)車、アメリカのローコンのRT340 TCR、そしてモト・グッツィの1000コンバートなどのオートマチック車が発売されています。しかしいずれも、主流にはなり得ませんでした。

画像: アメリカのシンプレックスのオートマ車。シュータイプの遠心クラッチに、Vベルトの組み合わせの駆動系を採用していました。 www.exoticclassics.com

アメリカのシンプレックスのオートマ車。シュータイプの遠心クラッチに、Vベルトの組み合わせの駆動系を採用していました。

www.exoticclassics.com
画像: モトグッツィのV1000コンバート。変速機にはトルクコンバーターを採用。1975年から1982年までラインアップされていました。 www.motorcyclespecs.co.za

モトグッツィのV1000コンバート。変速機にはトルクコンバーターを採用。1975年から1982年までラインアップされていました。

www.motorcyclespecs.co.za

前置きが長くなりましてすみません(笑)。今回紹介するホンダ エアラもそんな1970年代に生み出された国産車初のオートマチック・スポーツモーターサイクルでした。4輪製品のシビックやアコードに既に採用済みのホンダマチックを2輪用に変更して搭載。なぜか最初に販売されたのは1975年型のカナダ向けのみでした。なぜアメリカではなくカナダ? と不思議に思いますが、テスト的にカナダ市場での販売だったのかもしれません(単なる推察ですが)。

画像: 1977年型のホンダ エアラ。この車名は英語のERA(時代)と、AutomaticのAを組み合わせた造語であり、Expands the Automatic Riding Age(オートマチック時代を開く)の意味も込められていました。 www.motorcyclespecs.co.za

1977年型のホンダ エアラ。この車名は英語のERA(時代)と、AutomaticのAを組み合わせた造語であり、Expands the Automatic Riding Age(オートマチック時代を開く)の意味も込められていました。

www.motorcyclespecs.co.za

この1975年型のカナダ向け、そして1976年からアメリカでも販売された初期型は、グリーンメタリック、キャンディーレッドの2色を用意。ホイールはスポークタイプでアルミリムを採用。排気系は4-1を採用していたのが特徴です。そして1977年4月からは日本でも販売開始。価格は53万8000円で他のCB750シリーズよりも高価でした。この1977年型はキャンディーブルーとキャンディーレッドに、それぞれピンストライプを採用。排気系は4-2に変更されたのが特徴です。

画像: 1977年型のCB750A(輸出仕様)。排気系が4-1から、4-2へ変更されています。 forums.sohc4.net

1977年型のCB750A(輸出仕様)。排気系が4-1から、4-2へ変更されています。

forums.sohc4.net

今回試乗したのは最終型1978年型で、ホイールがコムスタータイプになっているのが最大の変更点でしょう。そのほか、ブレーキが純正部品でダブルディスク化されておりました。未再生で当時のコンディションをキープしているのは、非常にレアな個体といえるでしょう。

不思議な操作感とライディングフィール

画像: エンジンブレーキの効きが極めてマイルドなので、前後方向のピッチングは非常に少ないです。そのため、タンデムライダーは不意に前後に体を持って行かれることが少ないので、乗っていて快適だったみたいです。

エンジンブレーキの効きが極めてマイルドなので、前後方向のピッチングは非常に少ないです。そのため、タンデムライダーは不意に前後に体を持って行かれることが少ないので、乗っていて快適だったみたいです。

エアラに乗ってまず面食らうのは、クラッチレバーがないことです(笑)。初めてエアラに跨って発進する際、左手が宙を掴んでしまって思わず苦笑してしまいました。2輪用に専用開発されたホンダマチックは、フルオートマチックではなく2レンジ式。ボトムポジションがニュートラルなので、シフトレバーをかき上げてローギヤレンジ。もう一回かき上げると"スターレンジ"です(☆は4輪シビックやアコードにも採用された方式です)。

画像: ギアボックスインジケータは、N-L-☆の表示です。

ギアボックスインジケータは、N-L-☆の表示です。

画像: ハンドルバーのクランプにマウントされたレブカウンターと時計は社外アクセサリーです。左は速度計で、右はインジケータと燃料系を収めています。Lレンジは0~100km/hまで、☆レンジは0~160km/hまでが守備範囲であることが文字盤に示されております。ステアリングシャフト上には、この時代の国内モデル特有の装備、赤い速度警告灯が埋め込まれてます。

ハンドルバーのクランプにマウントされたレブカウンターと時計は社外アクセサリーです。左は速度計で、右はインジケータと燃料系を収めています。Lレンジは0~100km/hまで、☆レンジは0~160km/hまでが守備範囲であることが文字盤に示されております。ステアリングシャフト上には、この時代の国内モデル特有の装備、赤い速度警告灯が埋め込まれてます。

Lレンジの範囲は100km/hまでですが、40km/hくらいになったら☆レンジにシフトするのがスムーズです。一旦☆レンジに入ったら、あとはスロットル操作だけでスピードをコントロール。言うまでもなく扱いは非常にイージーで、市街地の渋滞や、信号機が連続する区間は楽チンこの上ないです。

エンジンはほかのOHCのCB750に比べるとマイルドな設定なので、自ずとスロットルアケアケで飛ばす気分になりません。実際全開にすれば、排気量なりにパワーとトルクがあるので、かなりの高速域まで楽々到達します。しかし、そういう走りをしたくなくなるエンジンキャラクターといいますか、ジェントルに、リラックスして走ったほうが楽しめるので、自然とそういう走り方に落ち着くのです。

画像: トルクコンバーターとのマッチングを鑑みて、エンジンはデチューンされた仕様になっています。しかしそのことに物足りなさを覚えることはありませんでした。エアラのジェントルな造りに合った、エンジンキャラクターといえるでしょう。

トルクコンバーターとのマッチングを鑑みて、エンジンはデチューンされた仕様になっています。しかしそのことに物足りなさを覚えることはありませんでした。エアラのジェントルな造りに合った、エンジンキャラクターといえるでしょう。

画像: 構造上押しがけ始動はできないので、シート下には電装パーツとともに、エマジェンシー用キックペダルが収納されています。

構造上押しがけ始動はできないので、シート下には電装パーツとともに、エマジェンシー用キックペダルが収納されています。

☆レンジから発進、そして最高速まで、すべての速度域をまかなうこともできますが、Lまたは☆レンジに入れた状態ですと、停止していてもトルクコンバーター特有のクリープ現象で車体が前に進みたがります。ずっと停止時にブレーキをかけているのも疲れるので、停車時はNにして、L、☆とシフトアップ・シフトダウンを心がけて走ったほうが扱いやすく、かつ楽しいです。

車体や足回りが改良されているので、初期のCB750シリーズよりもハンドリング、そしてブレーキングの性能は良好です。トルクコンバーターの性質上、エンジンブレーキの効きは極めて弱いので、ブレーキの効きとフィーリングは非常に大事です。その点で、ダブルディスクのフロントブレーキを備えた試乗車は、不安を覚えることなくコントロールできたのが嬉しかったですね(初期のフロントシングルディスクブレーキ車は、どうだったのだろう、と思いました)。

唯一無二の乗り味を持つモーターサイクル

排気量なりのパワーとトルクがあるので、それなりに速く走ることは可能なことは、先述のとおりです。しかし、ギアシフトがLと☆しかないので、素早く激しく加速する・・・ということはこのエアラではできません。そのことにガマンできない飛ばし屋タイプの人は、このエアラのことを全く評価しないと思います。しかし、ゆっくり走っても楽しめるタイプの方ならば、このエアラならではの走りの魅力を評価できるのではないかと思います。

画像: 試乗車はTRカンパニーの販売車両です。このSHOEI製トップケースのほかパニアケース、そして大型スクリーンがセットで販売されているのは、お買い得で嬉しいポイントです。

試乗車はTRカンパニーの販売車両です。このSHOEI製トップケースのほかパニアケース、そして大型スクリーンがセットで販売されているのは、お買い得で嬉しいポイントです。

セカセカとシフト操作ぜずに、おおらかにスロットル操作でスピードをコントロールする・・・この走りのリズムはエアラ独特の楽しさで、このリズムにハマることができる人には、エアラはおすすめの、唯一無二の1台といえるでしょう。ズボラな私としては右ブレーキペダルが油圧インテグラル(前後連動)なら、もっと楽チンに走りが楽しめて良いのにな・・・なんて思ってしまいました(苦笑)。それくらい、イージーライディングにはイージーライディングならではの愉悦がある、と思った次第です。

画像: 私考案?の「ロレンスハンドサイン」、皆さんで流行らせてください(笑)

私考案?の「ロレンスハンドサイン」、皆さんで流行らせてください(笑)

上述のとおり、オートマチックのモーターサイクルの試みは古くから行われているに関わらず、未だ普及には至っておりません。仮説ですが、オートマチックが時の最速車、時の最強モデルに採用されることがない限り(オートマチックが最良の駆動系にならない限り)、この機構を顧みない人がいなくなることはないと思います。100年以上前から、モーターサイクリストというものは、スペック至上主義の保守派が多いですからね・・・。

しかし、「ファン領域」でしたら、まだまだオートマチックはチューニングする価値があり、チューニングする余地があるのではないか? なんてことを約250kmの試乗後に考えたりしました。それくらい、ホンダ エアラの乗り味は愉しく、私とっては新鮮だったのです。

このホンダ エアラに興味を覚えた方は、ぜひ試乗車を提供してくださったTRカンパニーにお問い合わせしてみてください。車検が28年6月までついていて、税込¥648,000で販売中です。維持が心配な初心者の方にも、T.R.カンパニーさんは万全のアフターケアで対応してくださります。

画像: T.R.カンパニー 東京都小金井市関野町1-2-6 TEL 042-386-6066 FAX 042-386-6067

T.R.カンパニー 東京都小金井市関野町1-2-6 TEL 042-386-6066 FAX 042-386-6067 

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