Zephyr、君がいてくれたから。

1989年に登場し、2007-09年にすべてのモデル(400/750/1100cc)が生産中止になるまで、日本の国民的モーターサイクルは、間違いなくZephyrだった。

僕は初代の400ccのZephyrから始まって、1100、750と3つの排気量のモデルをすべて購入した、Zephyrのヘビーファンである。

Zephyrが登場した1980年代後半は、レーサーレプリカ(すでに死語ですね。今で言うスーパーバイク)全盛で各メーカーの主力モデルは、全身を流麗なカウルで覆われた、まさにレーシングマシンの姿を模したバイクたちだった。
パワー、スピード、コーナリング性能、それぞれが最高であり、メーカーはこぞってその速さを競っていた。

そんな折に登場したのがZephyrだ。
1970年代から80年代前半のカワサキの名車たちがそうだったように、カウルをまとわず(だから裸の意味でネイキッドと呼ばれた)、水冷エンジン全盛の時代にあって敢えて空冷エンジンを心臓部に据え、アンダーパワーでのろまな、レトロなバイクとしてZephyrは生まれた。
発売当初はカワサキはトチ狂ったかと冷笑する声もあったが、市場は、ライダー達は大歓迎でZephyrを迎え、Zephyrは当時売上不振で二輪撤退もささやかれていたカワサキの神風となった。ちなみにZephyrとはギリシア神話に端を発する「西風」の意味であり、カワサキの二輪製造拠点である兵庫県・明石市から吹いた、文字通りの神風となったのだ。

Zephyrは、カワサキの名車中の名車Z1 / Z2の姿を模して生まれた。だからZephyrを購入するライダーの多くは、Z1/Z2のイメージをZephyrに重ねた。タンクのエンブレムを外して、Z1/Z2と同じ大文字のKAWASAKIのロゴを付け、サイドカバーにはDOUBLE OVERHEAD CAMSHAFT のロゴ(オリジナルのZ1なら900ccだから900、Z2なら750ccだから750とつくが、Zephyr乗りは400ccなので400とつけたのが殊勝で可愛らしいだろう)をつけた。

独自のカルチャーを作り始めているZephyr

やがてメーカーもユーザーの気分に応え、1100cc と750ccの大型モデルをリリースする。すると、400ccのオーナーはZ1/2のスケールダウン的なカスタムをやめて、同じカワサキの400ccにおける伝説的モデルZ400FX(通称フェックス)に似たカスタムを目指し始め、750ccのオーナーは素直にZ2を、1100ccのオーナーはZ1を目指すカスタムを始める。(1100ccは、オリジナルと言えるZ1が900cc、かつボディサイズはZ2と同じであるため、あまりカスタム熱は高くなかったように記憶している。むしろオリジナルのままの形で性能面でのチューンが多かった)

このときの文法が、前述のタンクとサイドカバーのロゴ、Z2ミラーと呼ばれる丸くて黒いミラー、そして黒い集合管だ。

今日東京モーターサイクルショーに来て、あまりにショップカスタムが少なくなっているのに驚いた。代わりにメーカーがカスタム用のベースマシンを用意して、メーカー純正のパーツでカスタムをするメーカー主導型が増えていた。

しかし、やはりあるところにはあった。

画像: Z2と見分けがつかないZephyr750

Z2と見分けがつかないZephyr750

画像: Z400FXと見分けがつかないZephyr400

Z400FXと見分けがつかないZephyr400

Zephyrをベースとした旧車カスタムはちゃんと生き残っていた。
旧友に出会えたような気分を僕は味わった。

いまはZ2に乗っている僕からすれば、もはやZephyrに戻ることはないが、それでもこの邂逅はたまらなく嬉しいものだった。

しかしながら、最近ではZephyrを旧車に模したカスタムではなく、オリジナルの形のままでの取引が多く、非常に高額な価格がつくらしい。
そもそもZephyr自体、2007-9年頃に生産中止になっていて、いまではZephyrそのものが一つの旧車というか、若い世代からするととても懐かしくカッコイイ伝説になっていると聞く。
Zephyrを、Z1/Z2やFXの焼き直しまたはコピーと見るのではなく、純粋にZephyrを過去のクールだったバイクとして認識しているいうのだ。

それは僕たちとは見る目が異なるが、それはそれで嬉しいことだ。
いまになって、Zephyrというバイクは、その真価を理解してもらっているということかもしれないからだ。僕たちの世代はZephyrを色眼鏡でみていたかもしれない。Z2などの名車の面影を持つバイクとして見ていたのは間違いがない。

しかし、Zephyrは本来、オリジナルのバイクであり、その魅力をいまの若者が理解して、愛しているというのなら、これは法外に嬉しい誤算であるのだろう。

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