連載記事、1957年TT・・・マン島今昔物語 #3でもチラリと記述しましたが、非常に面白いモーターサイクルなので改めて記事にすることにしました。みなさんは世界ロードレースGPに出場した車両のなかで、最もシリンダーの数が多かったモデルは何かご存知でしょうか? それはモトグッチの水冷4ストロークV8・500cc=オットー・チリンドリ(8C=8気筒)です。


画像1: 伝説のV型8気筒グランプリバイク・・・MOTO GUZZI V8

出典:http://kickstart.bikeexif.com/wp-content/uploads/


モトグッチの最終兵器


イタリアのモトグッチファクトリーのなかで、このV型8気筒のプロジェクトは「44」と命名されていました。4気筒+4気筒を意味するこのプロジェクトは、1955〜1958年の間進められましたが、通常スタッフたちは8Cと呼んでいたそうです。


画像2: 伝説のV型8気筒グランプリバイク・・・MOTO GUZZI V8

出典:http://www.ozebook.com/

1950年代モトグッチはGPの250、350ccで数々の栄光を手に入れてました。天才設計者ジュリオ・セザール・カルカーノが産み出したモトグッチ水平単気筒のGPマシンは、出力ではライバルの4気筒に劣るものの、優れた空力パッケージ、軽量・コンパクトな車体、そしてハンドリングの良さというトータルバランスの高さを有していたのです。

画像3: 伝説のV型8気筒グランプリバイク・・・MOTO GUZZI V8

出典:http://www.labellehistoiremotoguzzi.info/dotclear/public/histoires/pheno_carcano/


250、350ccクラスで大成功したモトグッチにとって、最高峰500ccクラスの王座は次に狙うべきターゲットでした。単気筒、120度Vツイン、そして直列4気筒などの500ccマシンでモトグッチはライバルに挑んでいたのですが、彼らの最終兵器として企画されたのがこのV8だったわけです。

画像4: 伝説のV型8気筒グランプリバイク・・・MOTO GUZZI V8

出典:https://cdn.rideapart.com/wp-content/uploads/

シンプルな水平単気筒同様、このV8を設計したのはカルカーノでした。しかし複雑なメカニズムを持つV8エンジンの重量はわずか45kgと軽く、車重も148kgと英ノートン・マンクス単気筒より5kgくらい重いという軽さでした。最高出力は12000rpmの高回転から78馬力を発生。当時としては驚異的な、280km/h以上の最高速を可能にしていました(写真はファクトリーライダーのビル・ローマスが、V8エンジンを持ち上げ軽さをアピールしている姿です)。

画像5: 伝説のV型8気筒グランプリバイク・・・MOTO GUZZI V8

出典:http://www.hondatwins.net/forums/attachments/21904d1362425489-

1954年10月から設計開始。翌1955年3月には初めてベンチテストでV8エンジンに火が入り、その数日後にはテストコースで初走行。このプロジェクトは最重要機密として秘匿されていたため、同年の国内レースでV8がデビューしたときは大センセーションがロードレース界に巻き起こりました。

画像6: 伝説のV型8気筒グランプリバイク・・・MOTO GUZZI V8

出典:http://www.ozebook.com/


栄光に浴することなく退場した悲運のマシン


しかし結果から述べると、V8は栄光に浴することなく引退を余儀なくされた、悲劇のGPマシンとして終わりました。1955〜1956年は熟成不足による信頼性の欠如でリタイアするレースが多く、モトグッチファクトリーはV8の改良に追われることになります。また点火系のマグネトーが高い回転数に追従できない、また余りにスピードが速すぎてブレーキの制動力不足が露呈するなど、V8エンジンの高性能ぶりに周辺技術が追いつかない・・・という問題も開発チームを悩ませたのです

画像7: 伝説のV型8気筒グランプリバイク・・・MOTO GUZZI V8

出典:http://kickstart.bikeexif.com/wp-content/uploads/

世界ロードレースGP参戦2年目の1957年には信頼性も向上し、V8はリザルトを残すようになっていました。しかしこの年を限りにモトグッチはGPから撤退することを決めたため、V8の開発にもピリオドが打たれることになったのです。2年のGPシーズンで13回GPに参加したV8ですが、GP優勝はゼロ。勝利はイタリア国内の2勝にとどまりました(写真は1957年マン島TT、ダストビンタイプではなく、一般的なフェアリングを装着したV8)。

画像8: 伝説のV型8気筒グランプリバイク・・・MOTO GUZZI V8

出典:http://3.bp.blogspot.com/_q7ta3qfQBCU/TLlrMoz154I/

この伝説のモーターサイクルに魅了された者は多く、1990年代以降このV8のレプリカ製作が試みられています。そのひとつは元モトグッチ技術者でV8に関与したウンベルト・トデロとその息子ジュゼッペの手によるもの。もうひとつは同じくイタリアの元モーターサイクルディーラー、マルチェリーノ・セバスチャーノの作品です。後者は当時18万ユーロ(約2818万円)で売り出され、クラシック業界の大きな話題になりました。


画像9: 伝説のV型8気筒グランプリバイク・・・MOTO GUZZI V8

出典:http://img40.xooimage.com/files/d/5/d/moto-guzzi-


V8の姿は、英国・欧州でのクラシックイベントで時々見ることができます。もしあちらへ渡る予定がある方は、イベントカレンダーをチェックして実際にV8が走る姿を拝むチャンスを探してみてはいかがでしょう?

出典:taddig

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.