長年勤めてきたテレビ局を辞めて、自由な生活を求めて、ほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃん。齢57にもなって、なんとも人生に迷っている。
Mr.バイクBGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第16話「5杯目のウソに乾杯」より
デジタル編集 by 楠雅彦@ロレンス編集部

ウソつきの群れを泳いできたテレビ局時代

その日、私は溺れる夢で目が醒めた。もがく自分で目が醒めた。
思えば私は、ウソつきの群れを泳いできた。誰でも自分がかわいいと言われればそれまでだが、平然とウソをつく人間を見すぎてしまった。

画像1: ウソつきの群れを泳いできたテレビ局時代
画像2: ウソつきの群れを泳いできたテレビ局時代

まだ若かりし時、テレビ局の楽屋でアイドルグループの少年二人が些細なことで喧嘩を始めた。
アジフライにかけるのは醤油かソースかで揉めたらしいが、バカバカしいからといって止めないわけにもいかない。
私は仲裁に入ったが、興奮しきった二人の勢いはなかなか収まらない。そのうち、少年の一人の足が、もう一人の少年の左目にヒットしてしまい、彼の顔はみるみるうちに腫れ上がってしまった。

当然プロデューサーは激怒して、私に事の次第を問いただしたが、私はただ二人を止めようと間に入っただけのことで、事実をそのまま伝えるほかない。しかし、あろうことか少年達は私に殴られたと証言した。

もちろん他にも二人の喧嘩を見ていた者はいたので、そんなウソは通らない。通らないことがわかっていてそんなつまらないウソをつく彼らに、私は正直驚きを隠せなかった。

画像3: ウソつきの群れを泳いできたテレビ局時代
画像4: ウソつきの群れを泳いできたテレビ局時代
画像5: ウソつきの群れを泳いできたテレビ局時代
画像6: ウソつきの群れを泳いできたテレビ局時代

ウソにウソを重ねる世界にさようなら

ウソをつく人間は多い。
バレるようなウソを平然とつく。バレたらバレたでその上にまたウソを重ねる。

そんな人間たちにもうんざりだったし、彼らの中で仕事をし続ける自分にもうんざりだった。
うんざりついでに私はテレビ局を辞めた。今の生活に迷いがないわけではなく、満足できているわけでもない。

しかし、とりあえずはつまらない自己保身でウソをつく人間たちを遠ざけることはできていると思う。少なくとも、そんな群れの中で溺れる夢をみることはない。いまはそれで十分、と思うべきかもしれない。

画像1: ウソにウソを重ねる世界にさようなら
画像2: ウソにウソを重ねる世界にさようなら
画像3: ウソにウソを重ねる世界にさようなら
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